野郎共、お仕置きの時間だ

なんのこたぁないダメ強化人間LayeⅡ(らいつー)の独り語散るgdgd生活ブログ なまはげだって少子化で寂しいんよ。

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【Viol Viera】

+WARNING+オリジナル小説+WARNING+

・本文は完全一次創作です
・苦手な方はスル―推奨

それでは、どうぞ
【Viol Viera】














そう―あれはひどく澄んだ星空だった。
19世紀以降、急速な文明の発達によりやれ光化学スモッグだの温暖化だだの、
声高に空色の劣化を叫んでいる割には妙に小奇麗な空を見上げると、汚れたそれを見慣れた私はそれが本物なのかどうか、疑わしくなるほどだった。

―カーラ。

か細い声が、視界の外れの、下の方から聞えて来た。
今にも途切れてしまいそうな、蜘蛛の糸のような声。私はそのとき恐らくその声の主を追って、屋敷の屋根と思しき場所に出たのだろう、何処か非現実的な暗闇の中吹く風は
暖かく、そして心地よい加減で吹きつけていた。
都市部から離れた、小高い山の上にそれは佇んでいる―
見下ろせばきらきらと明滅する光が、黒い茂みの向こうでもはっきりと認識できた。
高見台の柵を乗り越えとんとんと覚束ない足取りで煉瓦を蹴り、足元に注意しながら縁へと距離を詰める。すると、見覚えのある丸まった背中が目についた。

透き通った、いやどちらかと言えば病的な蒼白さといった方がよいのかもしれない。
血が通っているのが怪しいと思えるほどに、今にも壊れそうな肌。
絹のように白い―色素の抜け切ったような髪。
対照的な漆黒の薄着を身にまとって小さく座り込んでいる。
彼女は、私が追い駆けてきたことに気づくと、にやりと小悪魔のように悪戯っぽく笑った。
鋭く伸びた八重歯が月明かりに照らされ光る。
「・・・・・・遅かったじゃない」
人間ってみんなこうなの?ちょっと不思議そうに、彼女は微笑んだ。
その小さな背中にはパタパタと、漆黒の靄がかかっている。つい先ほどまで「羽根」を出していたのであろうその跡を見たら、私が苦労して自分の足で昇って来たのが急に馬鹿らしくなった。
「・・・・・・吸血鬼に比べたらそりゃあ不便よ。羽根も跳躍力もないんだから」
猫も本気を出せば2mは飛べるという。しかし人間は垂直方向へは滅法弱い。
況してや私はそれほど運動が得意な人種ではないから、何も飛んで屋根まで行こうとは考えなかった。
「猫なりカラスなり、化ければよかったじゃない。あなた魔女でしょう?」
「本当の魔女はそうホイホイ魔道を行使するもんじゃないって、婆ちゃんも母さんも言ってた」
「やっぱり、結構不便なのね」
そういって、彼女はまたくすくす笑った。それでも、小馬鹿にしたようなそれではなくて。
純粋に人間と魔族の違いを楽しんでる、そんな感じの。

化けるだの飛ぶだの、普通の人間の会話としてはやっぱり奇怪でおかしいことに気づく。
それでも此処にいる私とこの子が魔女であって吸血鬼という事実は、残念ながら否定できない事象として存在している。諦めて会話を継続させるしかなさそうだ。
「じゃ、カーラはいつも人間の前では人間のフリしてるの?
魔法も使えて、どっちかって言うとこっちの生き物なのに」
「人間のフリって人聞き悪くない?れっきとした人間よ。・・・・・・一応」
そう反論はしたが・・・・・・何処か最後は自信が無くなってしまった。
確かに、我が家―コンチェルト家は魔族との親交が深い。それこそ600年とも、700年とも言われているし、数ある魔女一族の中でもかなり古い部類だ。
17世紀の魔女狩りを切り抜けられたのも彼らの助力あってこそだし、それだけ交流も深ければ自ずと血も交わってくる。
現に、私自身の中に流れる血の4分の1は「人間」ではない。
尤も、それは混血の母さんが普通の人間であるはずの父さんと結婚しちゃったせいなのだけれど。

「じゃあ学校行くのにも自転車やバスで行くし、お料理する時もちゃんとコンロ使うわけだ。変なの。あたしだったらすぐ飛んじゃうと思うなぁ、だって面倒じゃない」
そういって縁に腰かけた、宙ぶらりんにさせた脚をバタバタさせる。
「・・・・・・ま、人間は魔法使えないのが普通だから。
それに、人間と魔族両方とも仲良くするには、隠し通すのが一番なんだってさ」

そう、結局は魔道は「本来の人間」に有っていいものではない。
故に異端扱いされ、誤解を招き、魔女狩りと言う悲劇を生みだした。
統治においても異端=イレギュラーは、最も厄介な存在の一つであるから。
時の権力者たちは民衆を煽り、狩りたて、排除をさせた。

人間には嫉妬が多い。そして、何より自分たちと違うものを極端に嫌う傾向がある。
無用な争いを避けるためにも、惨劇を繰り返さないためにも、私達は隠し通して生きなくてはならないのだ。

「彼ら」と同じ人間として、彼らに紛れて―人の皮をかぶって生きなければ、私達は生きられない。それが現実だ。

そこまで聞くと彼女は、「ふぅーん」と納得したんだか咀嚼しきっていないのかよく分からない返事をした。そして逆に、何故だか嬉々として疑問を弾き返してきた。
余り感傷的にならない、彼女らしい行動とも受け取れる。

「じゃあさ」
「ん?」
「じゃあさ・・・・・・もし、カーラに好きな人が出来たらどうする?打ち明ける?
相手が人間だと仮定してさ」
「それは・・・・・・あー・・・・・・掟だからー・・・・・・」
「でも、本当の自分を知ってもらえずに一緒に居るのって、どうよ?ちょっと辛くない・・・・・・毎日仮面を被って、笑顔を作るって」
「・・・・・・かも、ね・・・・・・」
「それだったらあたしは、思い切って打ち明けるかな。それで嫌われても、いつかはバレちゃうんだしさ。でも成功例だっているじゃない、あなたのお母さんなんかまさしく『奥様は魔女!』だしさ」

痛いところを突かれてしまった。確かに掟を守っていたのでは私は生まれていない。
それにあれは別に打ち明けたわけじゃなく、ズボラな母さんが自前の料理が余りにも下手だったのでやけくそで魔法制御でやったらバレてしまっただけだ。
結局それがきっかけで2人は急に仲良くなったわけなのだけれど。

ガールフレンドが実は魔女でした! 急に手料理がうまくなったと思って覗いてみたらお鍋とフライパンが宙に舞っていました!
・・・・・・そんなビビッっとくるほど魅力的なのかな。私にはよくわからない。

「ほらほらぁ。コレはあなたにも二代目奥様は魔女!になれっていう啓示だと思うよあたしは。うん」
「私はそんなヘマ絶対にしないね」
「・・・・・・どーだか?」
「・・・・・・そういうあんたはどうなのよ?ブラン」

「あたし?あたしは純魔だしねぇ・・・・・・」

純魔、というのは純粋な魔族、純血の魔族のことを差す。
その殆どは一族として故意に純血を保ってきたものだった。
人間と交われば、魔族としては血が薄くなる。それは一般常識に当てはめて簡潔にいえば(もっとも魔界の一般常識、ではあるが)魔力やら寿命やら、高位故の様々なアドバンテージを半減させる危険性を孕んでいる。向こうではあくまで人間は下等で惰弱な生き物であって贄であって、交流対象ですらないのが基本だ。

「でも最近の吸血鬼って、腑抜け多いんでしょ?向こうの新聞で社会問題だってわめいてたわよ」
「そりゃあ、ね。魔界がダレてきてるから、最近じゃ吸血鬼も人間界で婿探しもするわよ。
・・・・・・あたしだってもう何年かしたらこっちで一人暮らししなくちゃいけないし」

吸血鬼の一人暮らし―つまりは人間界への適合修行だ。
吸血鬼は日光を浴びると灰になるなんて言うが、あれは一部の特異種だけの話で実際はそうでもない。身体機能が恐ろしく低下するだけで、活動は出来る。たとえば肌の病気持ちで炎天下に出れないなどと口実をつけて、数年ほど人間界で社会の仕組みや人間の文化を勉強しながら、日光に耐性をつけるのが吸血鬼の通過儀礼と言われている。
人間年齢で言う14―彼女もそろそろそんな年頃を迎えようとしている。

「そう・・・・・・ね。普通に暮らせればそれでいいかな・・・・・・あたしは。
普通に学校なり通って、普通に友達作って。普通に恋愛して普通に結婚して、普通に子供作って。
バレてもバレなくても関係ない、あたしはあたしだもの。もし吸血鬼だって知って嫌いになるような男だったら、それまでよ。生気吸い取って日干しにしてあげるわ」

そういつものように、悪戯に笑う。私も釣られて、自然と笑みが零れる。
「まったく・・・・・・あんたらしいわ。テキト―で、曖昧で。
・・・・・・でも、何とかなりそうな気がする」

「ふふっ、褒め言葉と受け取っておくわ」

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

お互い暫しの静寂に、何ともなく空を眺めた。独特の雰囲気の所為なのだろうか、風の為した偶然か知らないが―山奥の其処から見える空はジオラマのように儚そうで。作り物のように澄んでいて。

「・・・・・・そっか。こっちもまだこんな綺麗なところがあるんだ」
そう彼女は嘯いた。
「案外悪くないとこよ。おいしいものだって沢山あるし、面白い本だってテレビだって一杯あるし」

「・・・・・・カーラ。」
「今度は何?」


「・・・・・・これからも、友達でいてね」
「・・・・・・何を今さら。死ぬまできっと、友達よ」
「あなたの方が早いだろうけどね」
「そりゃ寿命じゃ吸血鬼には勝てないって。何度も同じこと言わせないで」
「ちょっとムキになったでしょう?ムキになったあなた、すっごい悪人面よ」
「・・・・・・悪かったわね」
「あっーもう、そんなに不貞腐れないの。あたしが悪かったから。ね?」
「・・・・・・くっつくな!鬱陶しい」
「――
「――


・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

フェードアウトしてゆく景色。暗転の中に、少しだけ見えた―口許。楽しいことを話しているはずなのに、何処か寂しげで、大人びたそれ。
いつのことかもはっきりしない。何処であったかも―記憶の端に飛んでしまって。手の届かないところで、紙屑のように色褪せてやつれてしまって。


記憶の残滓の、景色だけが私の意に反して遠くに消えて行く。




そのうち視界は見えないほど小さくなって、「ぷちっ」とでも鳴りそうな様子を呈して、完全に消滅してしまった。



































          ―透き通った光―
                 ―瞼を貫く暖かい光芒―
       ―立体窓から差し込まれた陽光―
    ―窓棚の小さな鉢植―
                   ―白い壁紙―
       ―だらしなく横たわる、小さな左手―

       誰のでもない、私のものだった。










―LayeⅡ Original project №002―
―【Viol Viera】―
―Witch of back street―
―aberration hunting file#01―
―[Witch of back street with GUILLOTINE]―

―awakening―























「・・・・・・・・・・・・ん。夢、か」

覚醒。フェードアウトから何分が経っていたのか、夢であれば人の知るところではない。否、正確には知ることのできない時間軸だ。それは魔女でも魔族でも変わりない平等の事実。尤も、数ある魔族の中には「夢魔」なんていう、他人の夢に干渉でき、魔力を吸収する種族もいるようだけれど。
確かに何かを見ていたのに、それをはっきりと思い出せない。よくあることだ。
そして、内容は憶えていてもそれが何処だったのか、何時だったのか。
朧気に浮かんでは消える回想の紐を辿っても、中々答えにはありつけない。もやもやした気持ちを抱えて、現実へと気持ちを切り替え直す。
「ブランシュ・エーテル・コーディッシュ・・・・・・。なんで、今さら―」
とか言っておきながら、私の頭はまだ夢の中のことを引き摺っているようだった。
旧友の名。久々に口に出した気がする。・・・・・・長らく音沙汰の無かった、恐らく最も仲が良かったであろう―私が呼べる数少ない―親友。
いま彼女は何処で何をしているのだろう。何処の空を見て暮らしているのだろう。
久しく昔の友を、今は殆ど付き合ってない彼女を思い出すと、そんな感傷に浸ってしまう。

しかし眼前にぶらさがったブロンドが、それを許してはくれなかったようだ。

「・・・・・・・・・・・・うわ」

寝相が恐ろしく悪かったらしく、ごわごわになって白い枕に垂れている。
窓から入る陽光は既にかなり高めまで上がっている。どうやらもう昼近くらしい。
止めとばかりに携帯電話には、緑色のランプが明滅していた。
着信アリ、二件―同じアドレスから。見知った、個人的見解を述べるならばあまり見たくないアドレス。こいつが掛けてくるのはただ一つの理由―「厄介事」詰まるところ仕事の依頼が転がり込んできたときだけだ。
気だるいので上半身をむくりと起こし、それでも起き上がれずにもう一度ダウン。白いベッドにサナギのように包まってコールする。二、三回のコール音の後、ヤニ臭いおっさんの応答が聴こえて来た。
電波越しでもわかる、何か現場で死体を見て、如何にも煙草で誤魔化したような、そんな擦れた息使いだ。

「・・・・・・起きたか、カーラ」
「今日は何用?警部さん。 わたし実はすっごい眠いんだけど」
「すまんすまん、魔女が昼まで寝てる生き物だとは知らなくてな。やっぱアレか?吸血鬼なのか、おまえさんも」

不機嫌そうにそうやって弄うと、警部は案の定適当に返事をした。まるで悪びれない素振りは、逆にいえば対応力の高さを物語っているのか。良心的に解釈すればそうなるのであろう。


エドガー・シュナイダー。彼はそう呼ばれているし、そう名乗っている。
不真面目な外見と態度にそぐわず、目鼻が利き、数多くの修羅場を潜っている。警察関係者としてはかなり有能な部類だ。
そして、私の正体を知る数少ない「人間」の一人。
尤も、彼はいつも冗談のように「あいつは魔女だ気をつけろ」って言いふらしているのだけれど。嘘の中の真と言うか、下手な嘘が最も真実に近いこともある、いい例だ。
本人は自覚していなかったらしいが人間にしては多少魔力があって、中途半端に霊体や魔族に干渉できるために、以前大型魔獣に喰われかけていた。
たまたま私の狩る対象と合致していなければ今頃魔獣の腹の中。極めて運のいい男でもあり―私と関わる羽目になった運の悪い男でもある。
搔っ捌かれた顎の下からトレンチコートを返り血まみれにして出てきたと思ったら、人を化け物扱いしたことは私も彼も一生忘れないだろう。

「冗談はそれくらいにして。要件は・・・・・・?」
「単刀直入に言おう。俺らの手に負えんヤツが出た」

彼らの手に負えないモノ―つまり人間では対処できない次元の存在。

都市化が進み、世界をわがもの顔であるいている人間に紛れ、魔族や魔獣、悪魔といったものは実際には平然とこの世に跋扈している。
その場合多くが体中から放出される「魔力」に制限を掛けて感知しづらくしたり、人間に化けたりして生活している。余りにも高次である場合や人に姿形の似せられない魔物は存在自体にプロテクト―つまり迷彩を掛け、悟られぬように移動する。その場合彼らはより霊体に近い存在となり、人間側が探知できなければ物理的接触もままならない。

彼らにとって人間は下等な存在で、関わるものですらないのだが―
個体によっては、弁えずに人間界で殺しを楽しむ馬鹿がいる。
下位魔族でもその基礎身体能力、頑強さは人間の比にもならないのだから、狙われた人間は屠殺に怯える豚のように大人しく殺されるのを待つしかない。都合のいい時に迷彩を掛けられれば常人には視認すら不可能。それほどに奴らは理不尽な存在だ。

そしてそのような魔界と人間界のルールを乱す輩を見つけ次第抹殺するのが―私の仕事。
どちらの事情にも精通していて、秩序を守れるだけの高い戦闘能力を保有している人物―ってことで私が抜擢されたらしいが、正直そんな大層な人物になったつもりはさらさらない。こっちを荒らすバカを思う存分甚振り殺せる、それだけで理由は十分。ストレス解消にぶちのめして仕事は終了、報酬はこっちの事情通のお偉いさんから出る。実にシンプル。

そういうわけで、今回の仕事―用意された舞台状況をシュナイダー警部が説明してくれる。

「イーヴァ通り裏手の13番地、廃工場の敷地の外だな。仏さんは上と下が真っ二つ、んで煉瓦の塀に見事に中身がぶちまけられてる。付近の損傷物から推察するに、予想され得る刃物の全長は刃渡り200cm以上。斬馬刀だってビックリだ。こりゃ明らかに人間の業じゃあねぇな。これ以上は・・・・・・現場で確認してくれや。気持ち悪くて俺は思い出したくねェ」

「はいはい、お疲れさまシュナイダー警部。さっさと出世しなきゃね」
「誰のせいで出世できねェンだろうな・・・・・・なぁカーラ」
「さぁ?何処ぞの魔女のせいであなたの関わった案件は逮捕者よりも死傷者の方が多いなんて、私は知らないわよ?」
「・・・・・・とんだ疫病神だぜ」
「黒猫は不吉の兆し。魔女に関わったあなたの運命を呪いなさいな」
「この魔女!」
「・・・・・・事実だし、否定はしないわ。じゃ、現場で落ちあいましょう」
「・・・・・・あいよ」

いつものように悪口を交わし、通信を切って、ぽいとぶっきらぼうにベッドに投げつける。
少々遅い活動開始だが、誰にも文句を言われないのが救いか。少し不満があるとすれば、脳味噌にこびりついた何時ぞやの記憶と、もうひと眠りしてもいいという白い布団の誘惑くらいか。

「さて―シャワーでも浴びて、今日も元気にお仕事お仕事っと」
「・・・・・・・・・・・・」
「あと十分くらい、いいよね?」



















「12時32分48秒。平常時の約3時間21分遅れだな。悪い夢でも見たか?」
「・・・・・・っ、なんであんたにそんなことが分かるのよ」

私の部屋がある廃屋の6階から錆びついた螺旋階段を通過し、4階の重い扉を開くと、「彼」は全くいつも通りに薄暗い室内でディスプレイを注視しキーボードを忙しなく打ちこんでいた。いつ来ても余りの代わりの無さに、呆れを通り越して不気味ささえ覚える。
況してや、その追加言及が見事に一部の誤差も無く本質を捕えているものだから、私としては不機嫌にならざるを得ない。一瞬の驚きの隙を隠すように、否定の言葉を殴りつけた。
デリカシーのない彼らしく、私の機嫌の機微すら気に止めずに淡々と返す。

「何って・・・・・・ひどく平常時と比べて顔色が悪かったからな。その上起床してから時間は殆ど経っていないようだ。察するところ余りに夢見内容が劣悪だったか、或いはあの日だったか―」
「脳味噌ぶちまけても構わないなら止めはしないけど?それでも続ける?」
「おっと。これは失礼したな・・・・・・ともかくだ、お前のコンディション低下は私にとっても有益とは言い難い。心配はして当然だろう」
「私のための心配じゃないみたいだけどね」
「レーサーが自身の勝利のためにマシンの調子を気にするのは至極当然だろう? それと同じく、当たり前のことだ」

此処までの会話、彼は全くドアに凭れる私を振り向かない。部屋に別段鏡が付いているわけでもない。
・・・・・・それでも彼が私の様子を把握できるのは、現在進行形で能力を行使しているからだろう。

―殻尖鳳蝶―ガラサキ アゲハという、なんとも珍妙な名前を彼は持っている。
年は20代前半といったところ、黒いぼさぼさの髪の奥に、丸い黒眼鏡、そして白衣。
いかにも「マッドサイエンティスト」といった風貌の男だ。
けらけらといつもにやついていて、底が知れない。四六時中部屋にこもっていると思えば怪しげな機材を持って飛び出したりする。

そして忘れてはならない事実が―「魔女魔法を行使できる」ということだ。
元々科学者だったらしいが、何処でどんな活動をしていたかについては口にしていない。
蟲を追い求めて古代技術に手を染めていたら、何時の間にやら悪魔と契約を交わしていたという。

何処をどう間違えたら人生がそう脱線するのかは皆目見当もつかないが、この男は確かな魔力と執念を持っている。それが悪魔にとって極めて魅力的な餌だったことは、疑いようも無い。

契約対象は『ムシノシラセ』。

小型昆虫の集合体―蝗(いなご)の群れといったら分かりやすいだろうか。
ショウジョウバエ、蚊、飛蝗、軍隊蟻―そのような蟲の霊魂がとあるひとつの悪意に連なり、形をなし、ひとつの悪魔として行動する。個体としてでなく集合体としての悪魔。

塵も積もればなんとやらを見事に体現した成功例のひとつでもある。
俗に言われる干ばつや凶作の予兆とも言われ、群を為して田畑を撫でたと思えば全てを蹂躙して嵐の如く去って往く。「疫病神」という言葉で形容した方が正しいかもしれない。

知能は低く、それ故に契約の際はどんな交渉をするかで代償が大きく変わってくるが、彼の場合は特に大切な器官や魂を奪われたわけでもなくけろりとしている。
どうやらまんまとだまくらかせたらしい。彼曰く「無限の好奇心と魔力を差し出せば当面は大人しくしている」とのこと。贄はどうやらその二つで間違ってはいないようだ。

さてこのムシノシラセ、魔力で縁取り具現化を行って召喚するわけだが、それこそ小型昆虫1匹から10万、100万単位の群体にまで形が変容できる。
その上個体ごとにきちんと契約者とのリンクは為されているので、「視覚」や「蓄積情報=経験」は全てガラサキの元へと送信される。早い話が、諜報活動や捜索にはもってこいの悪魔なのだ。

とはいえ、この室内にうんとばら撒かれているのはともかく私の部屋にまで侵入させるのはいただけない。覗きかこいつは・・・・・・
仕事仲間に四六時中監視されるのはもう慣れたが、ときどき無性にぶん殴ってやりたくなる。
・・・・・・いい加減話を戻そう。そう、仕事の話に。

「どうせさっきの通話も傍受してるんでしょ?どうなのよ?」

人の寝相を見て通信をキャッチしていない道理が無い。
十中八九そのままの意味で地獄耳なこいつはもう初動を開始しているはずだ。
ガラサキはその舌足らずな怪しげな口調で、肯定して見せた。

「・・・・・・大方それらしいのはサーチ掛けてみたんだがな。どいつもこいつも今日は妙に静かだとしか言ってこない」

そういうガラサキの人差し指からは、微量に血が流れていた。
具現化した悪魔の喰らったダメージが、ガラサキに跳ね返ってきている証左だ。
敵襲でも受けたのかと思いきや、そうでもないらしい。

「誰にやられたのよ」
「・・・・・・379号か。人様のお宅に闖入したらそこのマダムにハエ叩きで落とされたそうな」
「ふふ、飼い蟲が多いのも大変ね」
「ああ、餌づけが大変で困ってる」
「その点私はナマモノじゃないから楽でいいわ」

そう適当に返したつもりだったが、背中越しに窺える此方を見ていない筈のガラサキの表情は何処か険しいものが籠っていた。
「・・・・・・よく言うな、化け物が。あんなもの地獄に落ちても囲える気がしないぞ、私は」
「そんな大層なもんじゃないわよ。ちょっと手のかかる子なだけじゃない」
「魔女にとっては死後契約ですら手のかかるレベルか・・・・・・私には理解できんよ」
「そう?蟲の塊と契約する方がよっぽど信じられないと思うんだけど?」
「ま、女には分からんだろうなこの浪漫は」

モニター越しの、ムシノシラセ越しの多角的なにらみ合い。
尤も私の方は目が二つしかないけれど。
モニターをいつもと変わらない姿勢で眺めているその姿には、何処となく不穏なものが感じられた。怒っているのか憎たらしく思っているのか知らないけれど、別段いつもと変わらないので放っておいて、私は踵を返して螺旋階段に通じる扉へと手を掛ける。

「カーラ」
「・・・・・・はぁ。何」
「今度の獲物は嫌な予感がする。注意は十二分に払えよ」
「あら。珍しく人の心配?」
「お前の火力あってこその私のサポートだ。私のサラリーのためにも、無茶はするな」
「はいはい。せいぜい死なないようにしますよ~だ」

火力の私と、サポートのあなた、ね。
効率を重視する如何にも彼らしい言葉だ。そして、少し本気を出せばそれが逆転するはずなのに、絶対に自分は表に出ない。保身的で卑怯で、彼らしすぎるやり方。

いいわ別に・・・・・・こっちだって邪魔されないだけ好き放題暴れられる。
それでこそ、「てのかかる子」にもたっぷり鯨飲馬食に走ってもらえるというもの。

今度こそ出ようと扉に手をかけるところで、人の頭ほどもある蛾が飛んできた。
艶やかな橙。確かガラサキの住んでいた東国の、ヨナクニサンとかいう種だったか。
信じられないことにそいつが拳銃を担いでひらひら舞っている。魔力補助がかかっているにせよ、何処か無理のある光景だった。
蛾が辛そうな態勢で飛んでいるのが余りにも危なっかしくて、直ぐに積み荷を受け取る。
手のひらほどの、小さな得物―デリンジャー―だ。

「差し入れだ」
「どっかの大統領を暗殺した銃ね・・・・・・でも、役に立つと思う?護身用じゃなかった?これ」

高々41口径では魔獣の皮膚に傷をつけることさえ難しい。況してやこれは極めて殺傷能力の低い拳銃だ、余程の近距離でなければ威力を十分に発揮できない。現に、私がこれで撃たれても指一本で弾ける自信がある。(勿論普通の人間には脅威以外の何者でもないのだけれど。)

「まぁそう言うな。中身を確認してみろ」

ガラサキの言葉に従って、中折れを作動させて銃弾を取り出してみる。
一見唯の鉛玉―かと思いきや、細かに意匠が施されている。ルーン(魔法文字)だ。
しかも弾丸自体は青銅でできている。神の意を直に通す、古代の金属。魔力伝達には非常に優れた媒体といえる。
直線的で入り組んだそれを、蛍光灯の光に翳すと、大まかな内容が確認できた。

「『魔を凍て付かせる神の紋呪』、ね。要するに―」
「そう、即席の結界生成弾だ。 例によって二発しかないから使う時はよく考えてな」
「ふぅん・・・・・・まぁ一応、好意は素直に受け取っておくわ」
魔女に神の力を借りろというのはなんとも皮肉な話だが、原理上問題はないので有り難く使わせてもらおう。幸い弾丸を媒体にした自動発動形式だから誰でも使える。
部屋の隅に置いてある巨大なケース―私の得物が入ったものだ―を担ぎ、三度目の正直でガラサキの部屋を後にする。

愛用のヘッドホンを掛け、ポータブルオーディオを起動させて小汚く、忙しない街並みへと繰り出す。
往来する車。工業地帯らしくすり下ろされた金属粉の噎せ返るような鉄分の匂い。何が融解されているかもしれない窯から煙が上がっている。忘れ去られた煉瓦とコンクリートは、砂に撫でられ時と共に風化して、ただ朽ちるだけの己が身を知ることもなく日夜形を変えて行く。かつては自然と共にあったことも忘れて。

音楽は全ての雑音を搔き消し、私だけの結界を描き出す。

科学は人の思った以上に膨れ上がって、幽霊は迷信。悪魔は居ないだなんて、皆が思ってる。奇怪な現象の殆どが、科学で裏付けもされているらしい。
でも、無いものってどうやって裏付けするのだろう。
無いものの証明を、「悪魔の証明」と人は言う。無いものは何よりも証明し難い。世の中に絶対は殆ど存在しない。証明の中にもこっそりと、悪魔は潜んでいる。ただ人々が気付いていないだけ。


以前ほど「魔」と「ヒト」は近くなくなった。
もうこの世界は「魔」と「ヒト」、そして「自然」の均衡を失ってしまっているのかもしれない。それでも、私の仕事はいつも通り、続く。
「ヒトの世」に紛れていないと生きていけない世界になってしまっているのだから。
私はもう、「こちら側」に居ることしかできないのだから。

ブラン。

あんたは今、何処からこの空を見ているのかな。
魔界?人間界?それとも、まだ太陽を克服できてなかったりするのかな?
きっと日陰の喫茶店か何かで、「魔女にも吸血鬼にも住み辛い世の中になった」だなんて、愚痴を漏らしてるに違いない。

・・・・・・。

さ、メランコリーになってないで仕事だ仕事。
これでもドライで魔性の女で通ってるんだ。感傷的になるなんて私らしくない。
全く、夢はいつも下らないものを掘り起こしてくる。もうどうしようもないものでさえ、埃のかぶった引き出しから目敏く引っ張り出してくる。
それは、これからスプラッタ満載の現場に向かう私には不要な感情だ。

気を取り直して曲を変えると、雑踏に紛れて交差点を渡り、こっそりと人々とは違った路地に野良猫と一緒に逃げ込む。

通行者が誰一人こないであろうそこにも、律儀に「KEEP OUT」のイエローテープが張り巡らされていた。


























赤煉瓦の裏路地へと集う白と黒の熊猫のような着色の車両の群れと、物々しい空気に包まれた青い制服の一団。
赤いパトランプが閃光をくるくる目まぐるしく回転させながら、「ここは危険ですよー」と訴えている。
誰の目から見ても明らかな、テンプレート的な「犯行現場」風景だ。
刑事ドラマで見るような。

「お邪魔しますねー」
「おい、こら!関係者以外立ち入り禁止だ!女、止まれ!」
野次馬を抑えつける警羅の脇を鼬の如くすり抜け、問題の路地へと歩みを進める。
近づくにつれ鼻を衝く肉と血の、ひどい匂い。羽蟲たちが嗅ぎつけぬ筈も無く、何処からともなくあらわれては飛び交っている。恐らくはムシノシラセも混じっているのだろう。
頭の上でノイズのような小さな信号がいったり来たりしている。

現場に止めてあるパトカーのうち最も遺体に近いものに近づくと、裏手からひょっこりとシュナイダー警部が現れた。

「遅かったな」
「二度寝してたの」
「気楽なもんだ。俺ぁ仏さんと睨めっこしてたっつーのに」
どうやら二時間近くずっとこの血生臭いところで現場検証に参加していたらしい。
現場に一番近い役職とあってか、色々と把握していなければならないことも多い彼は本当に「お疲れ様」としか形容しようがない。幾ら修羅場を潜ってきたとはいえ一応は人間、スプラッタ現場に長時間滞在は食欲が落ちても無理はない。

口にものが含めないのか、やるせなく何本目とも知れない煙草に火をつけ一服すると先程の警羅が駆けて来て、私の肩を掴んで追い立てようとした。
「女、ここに居たのか!此処はな、お前のような楽師が来るところではない、とっとと出ていくんだ!」
「・・・・・・警部さん、この人新入り?」
「ああ、2週間前ウチに配属のハンスとかいったな。アレだ、その女はほっとけ」
「しかし警部!一般人ですよ!」
「一般人じゃねェからいっとるんだ。尤も、クビが飛んでもいいなら知らねェぜ」

適当極まりない忠告に若手の警官は口を閉ざして、手をゆっくりと放した。
何処か納得のできなそうな目つきで淡々と頭を下げる。
もっとも外見から私を関係者と思える筈がないのだから、当然の反応だとは思うが。
「これは・・・・・・失礼をしました」
「あー、別に気にしなくていいわよお巡りさん。で、仏さんは?」
「・・・・・・向こうの車両の裏手にて今措置を施しております・・・・・・その、余り見ないほうがよいかと」
「オッケー。んじゃちょっくら見てくるわ警部さん」
「ああ、いってこい」
「・・・・・・・・・・・・」

「警部、あの女一体何者でしょう」
「カーラか?・・・・・・ありゃあ魔女だ」
「魔女、ですか・・・・・・?」
「ま、信じねェのが普通だわな。つっても、あの魔女はホウキに乗って飛んだりしねェ。
あのでっかいギターケースみたいの、ぶら下げてるだろう?」
「てっきり楽師か何かかと思いましたね」
「ありゃあな、エレキヴァイオリンだ。チェロ並みに特大のな。
そっからどういう構造だか知らんがギロチンの刃が生えてくる。楽器っつーより、斧だなありゃ。何十キロあるんだか知らねェが、あの女それを易々と持って歩ける辺り、ホント魔女なんだろうな」
「ギロチンを常備してる・・・・・・ですか?聊か信じられませんが・・・・・・あの女の方がよっぽど、その、危ないのでは」
「ま、そう思うだろうがな。安心しろ、あの女の目標は人間じゃあねェ」
「は・・・・・・?と、いいますと」

私が戻ってくる間に、そんな信じられもしないだろう馬鹿げた話題を展開する警部。
ハンスとかいう新入りの頭に疑問符が何個も浮かぶのも当然だろう。
しかしながら、いただけないことに「全部事実」だから、否定しようがないのもまた哀しいものだ。

「さ、後の詳しいことは本人に聞くんだな。おれは知らねェ、っと」
「あの、警部・・・・・・?」
「私のいない間に噂話かしら?」
「あ、いえ、なんでもありません!失礼します」

挙動不審なハンスは私の声を聞くと一目散に、まるで群れからはぐれた子羊のようにそそくさと警官の寄り合いに駆けだしていった。
こうぺらぺらと話されてはいい迷惑だ。信じる奴がいないのが救いか。

相変わらず悪びれる様も無く警部は、
「なぁに。お前さん愛用の化け物ヴァイオリンの正体が首狩りギロチンだって教えてやったのさ」
と宣う。
余りに誤解を恐れない端的な表現に、嘆息するしかない。

「・・・・・・なにそれ。私がまるで殺人犯みたいじゃない」
「殺し屋なのは変わらねーだろ」
「まぁ、ね」
「で、見た感じどうだった?魔女の感想を聴かせてくれや」
「確かにアレは『人間』じゃあないわ」

刃渡り200cm。その推察は決して間違ってはいない。そして、そんな刃物は今出回ってもいないし仮に有っても使いこなせる人間はほとんどいない筈だ。
東国の戦国時代に使われた最大級の刃物は430cm、重量75kg。こんなものは常人では振り回せるものでもないし、そもそも「必要性」が圧倒的に薄い。
人一人斬るには十数センチあればいい。余りに長い刃物はまさしく無用の長物、邪魔にしか過ぎないわけだ。

「確かにな。博物館にも問い合わせたんだが、長物は盗難に有っていないそうだ。
念のため知ってる鍛冶屋全部見て回ったんだが、そんなもの何処も取り扱ってないとさ」
「で、此処からが問題よ。悪魔も長物は得意じゃない」
「そうなのか、初めて知った」

悪魔というのは非情で残忍なイメージが先行しがちだが、実際には合理的で無駄を嫌うものだ。
私だって面倒事は好かない。それは多分、悪魔の「4分の1」が影響している所為もあろう、無駄な殺しはしない、無駄な争いもしない。これは悪魔の大前提的な性格。
そして、仮に「理由」があっても長物は使わない。使う場合は、本当に「余程の理由」だ。
爪先に魔力を練り込めば鉄板だって簡単に貫通できる。わざわざ「道具」を扱うこと自体がそもそも非効率なのである。

「んじゃ、やったのはやっぱり人間か?」
「半分正解。でも半分ハズレ」
「・・・・・・どういう意味だ」

寸断された赤煉瓦の上―殺害現場へとゆっくり移動する私と警部。
飛び散った血飛沫は清掃班によって粗方ふきとられているようだが、撒き沿いを喰らったオブジェクトは思いのほか多くまだ散乱物が点在していた。
電灯の一つが首だけ刎ね飛ばされて木偶の坊になっている。
「ときに警部さん、コーヒー飲む?」
「此処で飲むのは正気じゃねェな」
「違う違う、『いつも飲むのか』って話よ」
「ああ、仕事が終わると女房が用意してくれるな」
「じゃ、エレノアさんに感謝しなきゃね・・・・・・
今此処に、ミルクとコーヒーがあります」
「ふむ」
「ミルクはミルクのままで、コーヒーはコーヒーのままでも別段問題はない。そうでしょ?」
「確かにな」
「じゃあ、二つを混ぜたらどうなる?ミルクでもコーヒーでもないもの」
「ミルクコーヒー・・・・・・だな。俺ぁ得意じゃあないが」
「そういうこと。人間でも悪魔でもない、その中間の存在」
「・・・・・・ってことはなんだ?相手はお前さんと同じ・・・・・・半魔か?」
「いーや、正確には別物ね。『悪魔の血が入った人間』と『人間ベースの悪魔』じゃ根本が違う」
半魔、というのは私のような―悪魔が半分、人間が残りの半分のような存在。
確かに身体能力は高いかもしれない、が今回はそうではない。
きちんと道具を使って、特定の目標を殺害に至ってる。「人間的な心理」100%と、「悪魔でしか為し得ない業」100%―つまり、簡潔に正答を導くのであれば「元人間の現悪魔」だ。

「ん?なぁカーラ。普通の人間がだ、悪魔になれるのか?」
「ぶっちゃけて言えば執念と異常性さえ有れば誰でもなれちゃうのよ・・・・・・死んだあとに、ね」
死後、凶悪な悪意と妄執に捕われた魂が、長い時を経て亡霊から悪魔にすり替わる。
前例は少ないが、有り得ない話じゃない。そのためには肉体が滅んでも何かを想いつづける哀しいほどの熱意と、本家悪魔に負けない強烈な悪意が必要なのだけれど、こういった魂は契約もすっ飛ばして身体を手に入れ、悪魔に成りあがれる。

「此処を見て」
そういい、とある地面の一区画を指差す。
何か重いものがのしかかった後だ。土が押しつけられて、大きな平らでくぼみができていた。
「人の脚にしては、大きすぎやしない?」
「ごもっともだ」

シュナイダー警部は足が大きい方らしいのだが、自分と比べても明らかに「大きすぎる」それを見比べてから、そう呟いた。
「そして二本」
「・・・・・・二足歩行してるってこと、だよな?」
「ええ。でも、ガラサキの話ではそんな大型魔人が来たなんて報告はない。そんなの居るのであればとっくに彼の『蟲の偵察隊』に見つかってるわ」
ガラサキのムシノシラセは目鼻が利く。仮にプロテクトしていようと何らかの匂いを探知する筈だ。逆により人間に近ければガラサキが「人間霊」と判断して見過ごす可能性もある。

「そこで思うわけ・・・・・・これは本体の実体化ではなく、何か『モノ』じゃないかってね・・・・・・そして、武器を使ったのはとり回しや実用性を考慮したのではなく、ただ『使いたかったから』―何らかの執着があった可能性がある」

人型をしたものが「装着」出来て、何らかの刃物と関係のあるもの。
ここから導き出される「候補」は―
「つまり、鎧か!」
「そ。あなたの鍛冶屋っていう勘は間違ってはいなかった。
ただし、鍛冶屋は鍛冶屋でも『あの世』の、ね」

警部の顔が急に辛気臭いそれから、光が見えた遭難者のように明るさを取り戻した。
「見つけ出してしょっぴいてやる」、そんな警察関係者独特の顔だ。
ただし相手は亡霊であり悪魔である。実体がない可能性の方が高く、あくまでしょっぴくのはこの私になるのだろうが。
元気になった警部は急に立ち上がり、部下たちに命令を出し始めた。
犯人の生前の情報が分かれば、テリトリーとするエリアも断定できる。
呪縛霊には特に効果的な捜索手段である。

「よし、ここ等一帯の死亡者行方不明者から製鉄、鍛冶関係者を十年単位でリストアップしとけ!
カーラ大先生曰くホシはくたばり損ないだってよ!」
「くたばり損ないっていうか、成仏し損ないじゃない?」
「おおっと、そうだったな。ともかく、今日中に情報を集めてお前さんに資料を渡す。
後はテキト―なところで構えてりゃ蟲野郎の網にかかるだろう。早けりゃ今日の夜にでも・・・・・・な」
「まって」
「まだ何かあるか?」
「被害者の遺体、身元調べた?」
「あれだけグチャグチャにされちまうと中々判別がつかないんでな・・・・・・しばらくすればここ等の聴き込み連中が終わるだろうから、そのときにある程度の目星は付くだろう」

結局は、夜まで待ってみるしかなさそうだ。
私もその方が活動はし易いし、それは相手にとっても同じことなのだろうが。
やれやれと重い腰を上げる私に、警部は柄にもなく肩を貸してくれた。

「あ、ありがとう・・・・・・らしくないわね警部さん」
「お前さんのおかげであっという間に事件解決だ。流石魔界事情のプロ、俺たちとは比較にならんな。・・・・・・惜しむらくはこれが表の手柄にならないことか」
「ふふ、また万年警部ね」
「何とでも言えギロチン魔女」

愛用の【Viol Viera】―ケース入りのギロチンを担いで、イエローテープ―の向こう側まで歩いていく。次来るのは深夜になるだろうか、その時は向こうの年貢の納め時だ。
別れ際に爪先を大通りに傾ける私に、後ろからよく聞き知った声が聴こえて来た。
「なぁカーラ」
「なーにさ」
「・・・・・・お前さんも、大変だよなぁ。同族殺しだろう?辛くないのか、自分と同じ血が流れてる生き物の首を刎ねるというのは」
「そんなこととうに慣れたわよ・・・・・・
それに、魔族と人間、仲良くできないわけじゃない。出来ないほうがおかしいのよ。ルールを守れない奴を排除する仕事、あなただって同じでしょう?警部さん」

そう、警部だって犯人に手錠を掛けるとき、心が痛まない筈がないのだ。
成したいものがあるから、守るものがあるから汚れ仕事をやる。
私と彼の間に、そう違いはないのかもしれない。

「それもそうだな。さて、ひと段落ついたし一服やるかぁ」
ポケットから出した包みからひとつ摘まんで口に咥える警部の手が、急に止まった。
カチ、カチと鳴らすがびくともしないジッポ。ガス欠か、此処のストレスで相当酷使していたらしい。
「はぁ。仕方ないわね・・・・・・警部さん、ちょっと面貸しなさい 一度っきりよ?」

そっと中腰まで降ろされた彼の顔の前で、中指と親指をすらせ、「パチン」と鳴らす。
誰もが練習したことのあるであろう指パッチン―気障(キザ)なアクションのアレだ。
派手な音が手の中で弾けたと思うと、次の瞬間には人差し指に蒼白い炎が揺らいでいた。

別に、ただ火をつけるだけにこんなカッコつけてつける必要も無いのだけれど、こういう手品は何かギミックがないと詰まらないじゃない?

警部さんは一瞬目を見開くと、次の瞬間は満足げに煙を吹かしていた。
羨ましそうに指先を眺めるが、すぐに左手を翳して、人力ライターの炎を消してしまうと残念そうに喫煙に集中した。

「・・・・・・魔女ってすげぇな。ジッポ要らずか・・・・・・俺も欲しい」
「これくらいなら多少訓練と魔力つめばあなたにも出来るわよ」
「マジか。教えてくれよ」
「ダメ。エレノアさんに私が叱られる」

そう、警部の奥さんはかなりの嫌煙家なのだ。
普段から危険な仕事をしている彼の身体がもっと悪くなるんじゃないかって心配している。
私のせいでもっと煙草が吸いやすくなったとあらば一大事だろう。

「じゃ、月が昇る頃にまた会おう。魔女」
「それまで棺桶で大人しくしてるわ」

3時ごろの夕暮れとも、昼下がりとも区別できない曖昧な青空を眺めて、私は廃ビルへの岐路につく。次の活動は11時以降か、後6時間はぐっすり寝れるな、などと自堕落な誘惑に駆られながら。
ヘッドホンの中の音楽という結界を、ゆったりとした時間が流れる。

目の前を追い抜いていく車―自転車―スーツ姿の男たち―
タイルを蹴って駆けだし、信号機の赫に振り回される人たち。
その中で私だけの時間が、停滞している。

私が思うに、人間は急ぎ過ぎだ。
もう少し音楽でも聞きながら、ゆったりと街を歩いて、新しい発見をして、美味しいものでも探したりして。
そうやって知らないうちに日が暮れて夜になって、月空をぼんやり眺めたりすることが、実は一番魔女への近道だったりする。

さぁ、魔の時間帯まで後9時間。
白い布団にも包まって、のうのうと夜を待つのも悪くない。
そう、魔女というのは、いつの時代でも自堕落なのだ。

To be continued [file#02]






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  1. 2010/03/31(水) 00:25:47|
  2. 一次創作
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