野郎共、お仕置きの時間だ

なんのこたぁないダメ強化人間LayeⅡ(らいつー)の独り語散るgdgd生活ブログ なまはげだって少子化で寂しいんよ。

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【Viol Viera】#06

+WARNING+オリジナル小説+WARNING+

・本文は完全一次創作です
・苦手な方はスル―推奨
・以前の話は右下カテゴリのオリジナル小説より
それでは、どうぞ
【Viol Viera】#06




















 ねぇ、みんなはどうしてこんなにも脆いの。
ちょっと撫でただけで、少し力んだだけで、最初はほんの少しの、いたずらのつもりだったのに。なにもかも、あっという間に崩れていく。
あたしがおかしいの?みんながおかしいの? ねぇ、答えてよ。
あたしはただ――普通に暮らしたいだけなのに。

なんで他の子と一緒に遊んじゃいけないの?
どうして夜は部屋に閉じ込められなくちゃいけないの?
どうして――この両手には冷たい鉄の輪が締めつけられているの?

あたしには分からない。
あたしが壊れているのか、みんなが脆すぎるのか、あたしがみんなと何が違うのか。何かが違う、それは分かる。でも、納得できない。
どうして一緒にいちゃいけないのか、納得できないんだ。
お母さんもお婆ちゃんも、「時が来れば」とばかり言う。
時間が経ったら――どうだっていうの。あたしは普通に暮らせるの。こんなおかしな力が、どっかにいってなくなったりするとでもいうの。
誰も、誰も。誰も誰も誰も誰も誰も、答えてくれない。

誰かとってよ。
この鉄の重しも、締めつける鎖の束も。あたしはただ――自由になりたいだけなのに。

 

 


【Viol Viera】

―Witch of desert―

―aberration hunting file#06―


[Witch and Little witch of E-pitaphion]

















 炎天下の砂漠を、一台のジープが駆けていた。
過剰なまでに張り巡らせた日よけを少しばかりずらして、彼女は外を見る。馬鹿のように照った忌々しい陽光に辟易するようにもう一度日よけを降ろし、
二人分の座席にがばと横になる。少し起きあがっては冷房の温度を調節する抓みをくるりと大きい矢印の方に回し、再び横になって本を開く。
隣に無造作に投げ捨てられた資料は「ケムトリーア地方の魔道歴史」だの「魔女向け観光ガイド―ケムトリーア編」などと、一面の砂原と夕日と遺跡の映る独特な情景をパッケージにした地方特集の指南書ばかりである。
年の頃は十代の後半、耳から外され首辺りに垂れ下がったヘッド・フォン。金色の絹を思わせる流麗なロングヘアーと、そのままにしていれば端麗であるだろう顔立ちは倦怠染みた表情で見事に崩されている。まるで車の中だというのに自室の如く散らかし、うつ伏せになって本を読みながら脚を徒にばたつかせていた。
ミラーに映るのはハンドルを握る一人の老人――暑苦しい砂漠だというのに、燕尾服に袖を通し白髭白眉で覆われた顔面は目が何処にあるかも定かでなくさせる。その上から、意味があるのかないのかもよく分からない片眼鏡。
彼女はその老人の背に向け、顔通りに倦怠そうに口を開いた。

「ベルン爺、まだ着かないの?」
「お嬢様は石火痴で行けませぬな。我々が目指すマーセルラム・トゥリー、そしてその皇帝の霊廟を守護する跡壁エピタフィオン――もっとも、我々が用があるのは此方側なのですが、これにはまだ2km程砂漠を往かねばなりません。大人しく読書に励んで、より彼らへの理解でも深めていた方が有意義かと」
「……もー勉強なんてまっぴらごめん。第一何処の文献に目を通しても、門外不出のエピタフィオンに関する憶測が飛び交ってるだけじゃない。
実家の資料はもう見通したけど死者蘇生使役法とか眉つば儀式ばっかりで実戦で役にたつかどうか分からないのばっかりだったし、これだったら本読んでるよか現地で実際に術式習った方が遥かに能率的だわ」
「はは、まぁ事実彼らは眷族同士でも交流を極力避けますからな」
「流石の爺でもそんなに接点が薄いんだ?」
「私がまともに彼らの術式を目の当たりにしたのは第一次、第二次ケムトリーア侵略戦争の時くらいですな。
尤も、私がゴーレムを出すまでもなく彼らは完璧なまでに侵略兵を撃滅いたしましたが」

さらっと爺は言ってのけるが第一次は120年、第二次侵略戦争は80年前の出来事だ。そんな教科書レベルの時代の話をされても、お嬢様と呼ばれた彼女には全く本の中の出来事に思えた。
どちらも、資源をめぐる小競り合いを火種とした紛争。隣国が資源を求めて大勢の軍隊を繰り出し、そのことごとくを砂漠の墟都、ケムトリーアに迎撃され撤退を余儀なくされた――

ここまでが、人間の知っている範囲での歴史だ。だが、実際のところは少し違う。

外部との交流を嫌い、古を重んじる彼らがどうやって現代兵器の粋を尽くされた大部隊を相手に一方的な殲滅戦を繰り広げられたか。
答えは明確である。其処に魔女という人間の形をした兵器が投入されていたからに他ならなかった。
人間というものは常に都合の悪い真実を隠そうとか、自分に都合のいいように螺子曲げるくせがある。故に、高度に隠ぺいされ非現実的とみなされやすい魔女は生体兵器として実戦に投入しやすい。
その砂漠の魔女たちの戦闘を間近で見たであろうベルンハルトは静かに続けた。

「私個人の感想ではありますが――私たちの所属する一族が【鉄と木の魔法】であるように、彼らは【薬と砂の――そしてなにより大気を操る魔法】であるといっていいでしょう。
高くそびえる魔都の城壁を背に、彼らはたったの数人で立ち塞がるだけでした。攻撃ヘリ、戦車、歩兵――迫りくる軍靴の群れに彼らはほんの少し手をかざし……薙ぎ払っていった。
荒ぶる砂嵐を竜の如く操り、見渡す限りの砂の海は文字通り牙を剥き……こと対物量戦において、彼ら以上の適任を私は知りません」
「門外不出、最強の術式使い手集団……か」
「圧倒的な力は自分たちに悪意を向けるものへのみ振りかざされる。極めて保守的ではありますが、彼らはそれ故に生き延びてこられたのでしょうな」
「厳密には魔女じゃないってのも聞いたのだけれど、其処のところはどうなのかしら」
「悪魔と神というのは対照的なようでその実かなり近しいところにあります。伝え聞いた話によれば先々代の契約対象は嵐の魔神【セト】、先代は死神【アヌビス】……
彼らの崇める神が本当にそうなのか、それとも悪魔なのかは私達に推察できるものではありませぬ。ただ、その力は恐ろしく並はずれたものである、とだけ」
「何れにせよ一流どころの術者じゃないってことか。爺にそこまで言わせるんだから大したものだわ」
「はは、お嬢様は私を買いかぶりすぎですよ。私めはしがない老いぼれ執事にございます」
「ただの老いぼれ執事は500年も生きてないわよ」

老人の言う通りに、神と悪魔と云うのは事実それほど違いはない。人間を超越した存在、精霊、神、悪魔などと形容され分類はされるがそれは人間たちが生み出した言葉によって隔てられている。信仰の違い、思想の違い、言葉の違い――あらゆるものが彼らを形容し、形作っていく。故に、本当に神であるのかそれとも悪魔であるのかなどというのは結局のところ誰も決定づけられない。
ともかく、これから向かう魔都の住人がとてつもない力を持つ連中であることは疑いようのないであるようだ。
魔女は愉快そうにけらけらと喉を鳴らして、再び横になった。

「なにやら楽しそうでありますなお嬢様」
「さんざん色んな化け物見て来たけど、今回は特に希少な連中だってことでしょ。それも無茶苦茶に強い。
そんな彼らとやり合う機会が向こうからやってくるなんて願ったりよ」
「お嬢様……我々はテッポーダマではないのですぞ。次期コンチェルト家の当主として、将来の共存を見据えた親睦を深めるために当該地に赴くのですから」
「お出来も良くて鬼のようにお強いリディアお姉さまが当主になるんだから私みたいな跳ねっ返りには回ってこないわよ。それより――本当に"親睦"なのか
疑わしいところではあるんじゃない?どうなのベルン爺、さっさと白状なさい」

緩慢のうちに潜む鬼気満ちた眼光がミラー越しに老人を射ぬく。老人は「カーラお嬢様には敵いませぬな」と嘆息した後、淡々と語りを始めた。

「恐らくは、"エピタフィオンの切り札"に関する依頼かと」
「切り札?……つまり、稀代の使い手ってこと?」
「さよう。エピタフィオン家も貴方がたと同じ世襲制の魔道士一族であります。私の記憶が確かならば、次期当主は11年前に誕生なされたロゼッタ・エピタフィオン様の予定であるはず。
魔女一族でも稀にみる才覚と有り余る魔力、それこそこの爺めなどあっという間に追い抜かされるであろう力を持つらしいそのお方なのですが――不思議なことに、余り芳しい噂を聞いておりませぬのですよ」
「聞かせてちょうだい」
「――エピタフィオン家の後継ぎは、血に飢えた獣のようである、と。有り余る力をただぶつけるだけで、まるで加減を知らない、理性の欠片もなく手当たり次第に壊すだけだと。この分では、次代は当分見送りではなかろうかと……風の噂では、そのように聴かされております」
「まぁ、このご時世血族を守ろうって古い連中だからそういう奴も出るわね」

血に拘る連中には有り勝ちなミステイクだ。彼女はぺっと吐き捨てた。
閉鎖的な集落、閉鎖的な魔道。高い品質を保とうとするあまり、外部との交流を極限まで拒み続ける眷族たち。血が濃すぎて、時には奇形すらも出る。
極東の大昔にそんな島国が存在していたらしいが、あたりの情勢についていけず、また歴代の後継問題もかなり大掛かりな欠陥を抱えていたらしい。
変わることを恐れるのは分かるが、変わらないと生きていけないのもまた人だ。
魔女としての血筋を延々と引き継いできた彼女にはそれが痛い程によく分かっていた。そして、人間というのは余りに変容を嫌う生きものであるとも。そしてそれ以上に――自分と違うことを恐れる生きものであるということも。

「エピタフィオン内部でも、恐らく相当にもてあましている事でしょう。其処で珍しくも他勢力の人材を――まぁもっともその白羽の矢の矛先はお嬢様に向かったわけですが――
投入して、現状の打開を図ろうという腹積もりのように、私には見えます」
「コンチェルト家は殺しても死なない不死身魔女の吹きだまり、どうせ自分たちの身がおしいから私でモルモットってことでしょう。親善なんて白々しい」
「まぁ、お嬢様ならどうにかしてくれそうでもありますしな。この爺めも、実は死の覚悟をして此処に――」
「正気?」
「ははっ、この老いぼれ、いつでもカーライア・セシリア・コンチェルト様個人のために命をなげうつ覚悟でおりますよ。
お嬢様にはこの爺めよりも遥かに可能性のある未来が待っている。老いさらばえたこの節穴にも、そう映ってなりませんのです」

彼女は一瞬だけばつの悪そうに目を背けた。飄々としながらも常に彼女を思うこの老紳士は、彼女にとっては親或いはそれ以上の存在に思えた。それだけに、ミラー越しに臭い台詞を平然と放つ老紳士の真剣さはやりすごし難い。なによりも直情的な思いを苦手とする彼女には実にそわそわして恥ずかしくて、今にも頭から火が噴き出そうな状況下であった。
彼女は「仕方ない」とばかりに返してやる。悪意のない、赤子のように無垢な褒め言葉を受け取って悪い気にはならない。

「……まぁ、なに、そのさ。一応爺には子供のころから世話になってるし、わざわざ家じゃなく跳ねっ返り次女の私個人に尽くしてくれてるのも感謝してる。なんでか知らないんだけど!
だからその、滅茶苦茶砂糖菓子見たく甘い台詞を平然と吐くな!爺のくせに、執事のくせに、生意気! そういう気概は惚れた女の大事な時に使え、バカ!
……ったくどこで道間違えたんだか。こんな小娘の相手何年もしてて楽しい?この爺」

「ありがたき幸せ。500年ほど仕えてきましたが、貴女以上に奉仕したいと思った主は他におりませぬ。今この瞬間こそが、この爺めの至福の時間なのです」
「……こいつさらーっと500年の歴史に叛逆匂わせたぞ。まぁいいわ、その調子で今後とも頼むわよ。こんな小娘に仕えた事、地獄で後悔させてあげるから」
「はっ。この爺、朽ちて滅びるまで地獄の底目指しお仕えいたしましょう」













 ごう、と重い石造りの扉が開き、一縷の白い光が漆黒の部屋の中に差した。
厚手の布に覆われた腕は、そっと奥に続く回廊へと向けられる。老紳士と女の二人組はそれに導かれるように部屋に足を踏み入れ、数歩の間に陽光は重い音と共に閉ざされた。

深淵の闇の淵においてなお老人の眼光は鋭いままで、長い白眉と片眼鏡を隔てて溢れ出ている。

「閉じ込められましたな」
「まぁ猛獣みたいなもん飼ってるんだから戸は閉めるでしょう。それよりも私は、親族と思しき連中の態度が気にくわない」
「"取り憑かれた娘の体から悪魔を引き摺り出してくれ"といっておりましたが、はて……」
「自分たちで出来ないからって、小さな娘をこんな石牢に閉じ込めて雁字搦めにした方がよっぽど病気になるわ。そもそも、本当に何か取り憑いているのかすら怪しい」
「お嬢様はどのようにお考えで?」
「何か病を患っているか、魔力の使い方を知らずに混乱しているか。爺の情報を聞く限り、見境ないってことは何れにせよ精神的に不安定な証左だと思う」
「膨大すぎる魔力が、小さな体になじんでいないと考えるのが適当でありますな。誰しもが生まれついてもった力を御せる訳ではないでしょう」
「ましてや10歳や其処らじゃそれを受け入れられる訳が無い。其処まで秘匿を続けてきた連中にも原因はあるのよ。それをもみ消すように、こんなところに閉じ込めて」

吐き気が催す様な気になるのは、暗闇とほこり臭い石牢のせいか、或いは――
二人は歩みを進める。石と、鉄格子と、鎖ばかりの世界だ。
壁一面に強力な対魔護封の呪文が書き連なれている。本来は魔道士たちを閉じ込める場でもあったようだ。同行するベルンハルト爺の"神の創造物ゴーレム"ですら、一撃二撃で粉砕たらしめるのは難しいように見えた。
彼女はそれに手をやり、構造が如何ほどかを確かめる。

「流石によく出来てるわね。堅牢なんて次元じゃないわこれ」
「お嬢様、もしもの時は――」
「分かってる。でも"オーケストラ"は最終手段。私も流石に小さな子を手にかけたくはない」
「私は辛辣なようでその実お優しいお嬢様が好きです」

暫くして、最深部が見えてきた。
巨大な十字架の先端に丸を付けた様な、特徴的な建造物が目を覆う。いくつか開いた側面の鉄格子からは日の光が降り注ぎ、舞う砂埃を鮮明に映し出す。
そして、その十字に括りつけられているのは――子供だ。
彼女は背に背負った巨大なギターケースのようなものを降ろし、老紳士に手渡した。

「ベルン爺、これもってて」
「は……ヴィオール・ヴィエラをですか。しかしこれは――」
「いいの。刃物は必要ない……誰も殺さずに決着をつける」
「お嬢様……この爺、ただ御幸運をお祈りしています」


彼女は近づく。陽光の元へと、金色の長くたなびく絹糸。袖のない軽めの服装から白い肌をそっと、そびえたつ十字架に伸ばす。

十字架に括りつけられた子供を、過剰とも思える数の鉄鎖が強く縛っていた。
どれもこれもに古代文字で綴られた対魔護封結界が刻まれている。ここまでする必要があるのか。彼女は内心でフードの連中に強烈な嫌悪を覚えた。こんな小さな子供に、こんなひどい仕打ちをして、保身ばかりを考えて――変われないということが、どれ程この子供にとって残酷であるのか。どうしてのびのびとさせてやらないのか。
大人がのうのうと石造りに守られて、子供が暗闇で鎖に繋がれている世界なんて――糞喰らえだ。

身体を覆う布切れのようなものですら呪詛が含まれていることに彼女は気付いた。重く締めつけられた腕輪、首輪。か細い痩躯に鞭打つように尚も拘束し続ける。その向こうに見える、草臥れて前に伸びきった燃えるような赤毛。
御飯を与えられているのか疑わしい程に細く歪んだ骨身は、本当に表の連中に嫌悪感すら覚える。
そのボロボロにやつれた胸元に手を伸ばし、そっと触れ。途切れそうなほどの、小さな温もりを感じた。語りかけるように、彼女は口を開いた。

「ロゼッタ。あんたはもう、外に出ていいんだよ……?」


バチン!
唐突な衝撃。掌に雷光が迸る。危機感を感じ、さっと飛びずさる。
雷電は暫く手の表層を踊り、ぱっと弾けたかと思うと火の手が挙がった。――こいつ、雷火系の魔術式か……!
思い切り振り払い炎を搔き消す。若干の火傷。ずきずきと感覚だけが痛みを伝える。


「お嬢様!」
「……だいじょうぶ!しかしこれは、一筋縄でいきそうにないかしら!?」

魔力反応を察知する。子供以外に発信源は見られない。契約対象と思しき存在も確認できない。単体でこんな芸当ができるなら――其方の方がはるかに大問題だ。
そして、長らく死人のように沈黙を保っていた子供の口が、そっと動いた。

「……だ、れ。そこにい、るの、は、だれ」
「そこにいるのは、だれ?おかあさん?おとうさん?ううん、ちがう。このかんじは、あたしの、しらない人。あたしのしらない……だれなの?ねぇ、こたえて」

言葉が紡がれ――大粒の雨が降り注いできたかのような重圧が、突如世界を覆う。

それは震撼。

諤諤と震える床、壁、天井。沢山の沢山の――鎖。十字架。その場に二人にも、何かがおかしいことがまざまざと感じられた。じゃらじゃらと鉄が鉄を鳴らし揺らし震え、不穏な呻きを上げる。

それは発破。

揺れは次第に強くなって――否、凄まじい魔力圧に鉄鎖はなすすべもなく弾け飛ぶ。一本だけではない、子供の体を覆う大量の鉄鎖が、えげつのない音を立てて吹き飛び、床に散らばっていく。
バリバリと鋼鉄を寸断する音を立てながら、無数の鎖は毟られる。両腕で群蚊を払うように障害を打ち払った後に、その子供は――冷たい石牢の床へと降り立った。

とん。脚が地に着く。埃が舞う。


「ねぇ、こたえて。こんなもの、いみがないのに。ねぇ、なんであたしをしばるの?ねぇ、なんでここにとじこめるの?ねぇ、なんでだれもあたしのようすを――みにこないの?
わすれちゃったの?どこかにいっちゃったの?そんなの、いやだよ。なんでみんな、いなくなっちゃうの……!」

立ちすくし、首を傾げ。うわ言のように繰り返す。その目は黒い空洞に包まれ―― 最後の一瞬紫紺の焔が宿る。空間を覆い尽くすざわめき。脳が危険を伝達した刹那。
次の瞬間に、子供――娘はその場から「消えて」いた。

ざしゅ……!

何が起こったか分からない程の速度。鳩尾辺りに激痛が走る。視線を落とせば、先程の小娘が自分の懐目掛け爪を振り立てているではないか。血飛沫が派手に広がる。
たかだか爪の筈なのに、この痛みは。この痛みは――間違いなく濃縮された魔力をぶつけたそれ。

とっとに回避運動を行い、後退。懐を抑えるお嬢様と呼ばれた――魔女。老執事がその手前にさっと風のように庇い仁王立つ。

「お嬢様。この小娘、恐らく貴女様の手に負えるものではありませぬ……!ここはこの爺が相手を――」
「だいじょうぶ、って言ってるじゃない。それに、こんなにバカみたいな魔力叩きつけておいて、私がのさばらしておくとでも……っ!?」

「ねぇ、あなたはだれ?あたしの……なんなの?どうしてあたしのまえにいるの?にげなくて、いいの?こわ、こわしちゃう、よ?あたし?」

「お嬢様、第二波きます。これは……とんでもない放電ですな。なるほど常人が近付けば一瞬で消し炭ということか」
「ますますのさばらせておくわけにはいかない。此処で食い止めるわよベルン爺」
「仰せのままに」

ゆらり、と四つん這いになった娘の身体が持ち上がった。ばちばちと手元に蒼い雷光が迸り、今にも解き放たれんと疼いている。
血に飢えた獣、なるほどこれほどに的確な表現も他にないだろう。赤毛の間隙に垣間見る残光は黒く濁りもはや感情の一片たりとも残してはいない。人の形をした何か別のモノのように、得体の知れない悪寒が空間を包んだ。全身が警告をただ垂れ流している。この娘は危険以外の何物でもない、と。



しかし、魔女とてこの程度の修羅場なら幾らでも潜って来たつもりなのだ。それは隣にいる爺も例外ではなかった。
二人の目論見はとうに一致している。誰も殺さず、現状を乗り切る。一番険しいが決して不可能ではない。そして――そうでなければ自分たちが此処に居る意味がない。
この娘は――自分たちが止めるしかないのだ。

「ねぇ、いいの?にげなくて、いいの?しんじゃうよ?あたしがさわったものは、みんな、みんな。おかしいね。なんで、くろこげになっちゃうんだろうね。ばらばらに……
あなたたちも、ばらばらになっちゃうよ?」

「私はならないわ。そして、あんたにはそのふざけた魔力の矯正法を叩き込んでやる。あんただっていつまでもこんな薄暗いところに繋がれているのは嫌でしょ?
いつまでも獣でいるのが嫌なら、とっとと目を覚まして人間になれ。私がその手伝いをする……少々荒っぽくなるけどね!」
「お嬢様」
「ベルン爺、状況が変わったわ。悠長なこといってられないみたいね。制約解除、"ゴーレム"の召喚及びその魔道出力の20%までの解放を許可します。
幾らなんでも素のままじゃ相手が悪すぎる。派手にやっておやり」
「承知しました。……しかし契約魔なし単体でこの出力、末恐ろしい娘っ子ですな」
「末恐ろしいのも未来あってこそ、そのためにもなんとかこの場を凌ぐ。さぁ行こう!」

やれやれ、年端もいかぬ娘っ子に使うようなものでもないのですが――そう呟き、老紳士は皺ひとつない手袋をさらりと解く。その手に刻まれたのは幾重もの高位魔方陣。
どれも年期の入った、古めかしい術式であった。表層が再び鼓動を得るように魔は流され、脚を伝わり床に紋様を描く。老人は全身に覇気を纏い、呪詛を唱える。
床の紋様――即席の術式が仄かに光り、重力を逆転させたかのように地が蠢き、辺りの瓦礫が宙に浮かぶ。

「大地よ、砂埃に埋もれた過去の英知よ、真理を求めし者に再び力を授けよ。神の土くれ、青銅の巨人。神意の胎児。その姿を、今一度我らが民の前に。
シェム・ハ・メーフォラシュ。我が主を全霊を以って守護せよ――往け!」

震撼。空中に描き出される古代文字。それらが一斉にめまぐるしく席巻し、虚空に円を描き闇の鏡をつくる。
そうして老紳士は、深い闇の中から「巨大な拳」を召喚した。
岩の塊がただ人の腕の形をしている、そう形容していいだろうそれは空気を押し潰し、凄まじい重量を振りかざして――叩きつけられる。

「殴り抜け、ゴーレム」

衝突、響き渡る轟音。石牢は吹き返される砂埃に制圧され、視界は零に還る。目標にゴーレムの鉄腕は見事にぶち当たった、かに見えた。
しかし老紳士の片眼鏡に敵の姿は映ってはいなかった。代わりに駆けたのは――蒼く光る軌跡、躍動する小さな影、その爪先から迸る、雷火。音もなく、何の予兆もなく、牙は擡げられていた。
老紳士の頬に、僅かに汗がうまれた。久々だった、こんな気分になるのは。

魔道に恐ろしく長けている自負も、それだけの時間を費やしてきた自負もある。しかし、しかしこの娘は――
本能だけで、此処までやれる相手を自分は久しぶりに見た。これこそが俗に言う鬼才というものではないのか。
この勝負……手を抜いていられる余地はなさそうか!

脇をすり抜ける一瞬、囁きが聞こえた。

「ごめんね、ごめんね」

「あなたじゃ、とめられない」

「ぬぅっ……!」
「爺!」

雷光が老紳士の四肢を撫でた。数瞬の間、思い出したようにあがる業火。灼熱の奔流で老紳士を焼き尽くし、虚空を宿した娘の手はとまることなく次の目標物へと爪を向けた。

ああ。このひとも、このひともダメだった。娘はおぼろげな意識の奥底で、そっと諦めを覚える。また、ダメだった。みんなおなじだ。このおじいさんも、たぶん、おくにいるおんなのひともダメなんだろう。

あたしはただ、ふれて、そのぬくもりをわけてもらいたいだけなのに。
なんで、なんでみんなさわっただけで黒焦げになっちゃうの?バラバラになってしまうの?

あたしはもう――だれともかかわれないの?だいてもらえないの?なでてもらえないの?みんなあたしにさわるときずつくから、あたしをとおざけるの?しばりつけるの?
このセカイは……どうしてこんなにあたしにつめたいんだろうね。あたしがなにかわるいことでもしたのかな?おかしいね、ほんとうに、おかしい。

あたしがそんなにじゃまなんだったら、消えてしまえばいいのに。
あたしも、このセカイも、みんなみんな。消えてしまえばいいのに。

あたしはこんなちから、いらなかった。ほしくなかった。かみさまは、ひどくざんこくなんだ。

こんなものいらない。
こんなもの、いらないのに。

どうして無くならないの?

どっかいってよ。あたしはあなたなんかいらない。ちかよってほしくない。まとわりついてほしくないのに――



消えてほしいのに!


魔は蝕む。

砂に塗れた地を蹴り、娘は疾駆する。見境を無くして溢れ出る感情が雷撃の濁流となって彼女の身体を包む。
母の中で眠る胎児を思わせる、球体の放電膜が彼女を覆う。閉鎖された世界、それに触れようとするもの有象無象を焼き尽くす、拒絶の棘殻。
対峙する魔女を目掛け、それらは本人の意思に関係なく一斉に牙を剥いた。揺れる表面が迷いを断ち切り鋭角を突き出す。飛び散る蛍光、空気を裂く唸り、地を焼く灼熱。
獣はその瞳に深い闇を宿し、松脂を塗りたくられた火矢のごとく――爆ぜる。蒼白の雷火は黒く濁り、爆裂し棘のように尖り尖って肉薄する。

一目散に飛来してくる特大の雷球。具現を成した明確な殺意。それを前に、魔女は――動きもせず、怯えもせず。
ひとつ、ただ舌を打つのみであった。
「ちっ」
「お嬢様、回避を!消し飛んでしまいますぞ!?」
「……こいつ、今よく分かったわ。こいつは天才でも稀代の使い手でもない。タダのクズガキだってことがね。
自分の殻に引きこもって、ただ魔力を撒き散らかして他人に迷惑かけて、肝心のてめーは何処見てるんだか?何も見てないじゃないのさ。そんなんで、自分が変えられると思うの?周りが動いてくれると思うの?……あまったれんじゃないわよこの屑餓鬼が!あんたはただ待ってるだけ、自分からは何も変えようともしない! ああわかった、私はあんた風情相手に退いちゃいけないってことが良く分かった。
来なよがきんちょ。わたしがあんたを調教してやる。あんたのぶつけるそれが、『今は何の意味もない』ガキの駄々っ子だってことをその小便くさい面に刻み込んでやる」
「ああああ、あああああ。あぁああああっ!!」
「辛うじて罵倒されたことくらいは理解できたか?さぁそのままぶつけてきなよ!私が怖いんだろ?嫌いなんだろ?だったら消してみなよ!」
「う、ううう、ぁあああぁああああなたなんかあなたなんかあなたなんかしんじゃえばいいのに。なんでしんでくれないの?しんでよ!しんでよ!!いますぐしんじゃってよ!!」

柳の如く構える魔女に向け、娘はありったけの感情を叩きつける。形にするは雷火、閃光、蒼白い火花と黒い奔流が再び周囲を焼き、伝わり、爆ぜて舞い散る。
むくむくと膨れ上がった両手の雷球――今にもはち切れんばかりのそれ、怒りと、憎しみと、嫌悪と、彼女自身もなんだかよくわからない負の感情をひとつ残らず吸って、吸って大きくなる。大きく、大きくなった殺意。完全に成熟しきり、これ以上にない程に膨張する力の塊。それを――

「あなたなんか、消えちゃえ」

か細い宣告。
一片の慈悲もなく、力の限り叩きつけた。


いかずちがすぐそこに墜ちた様な爆音。轟き渡る雷鳴の余韻。
視界は、真っ白な光に包まれた。純白というよりも、世界中のありとあらゆる光を足したような絶対的な眩しさ――あらゆるものを駆逐し破滅に追い込む、絶対搾取の雷撃の姿。

確かにそれは、完全に目の前の女に叩きつけられたはずなのに。
娘――ロゼッタには、それがどうにもそうとは呑みこめなかった。
力を制御できずとも、それらが何をしているのかは痛いほどによくわかった。またやってしまったのだ。力の促すままにんあたしはまた関係もない人を灰にしてしまった。きっとそうなのに。
きっとそうなのに、なぜなの?
この手のひらに、どこか懐かしい――温もりが残っているのは。

誰の温もり?白におおわれた世界で、ロゼッタは刹那の間を永遠のように感じた。誰の温もりなのか、この答えが出るまで続くんだろうとも、おぼろげに思えた。
このあたたかい体温は――おかあさん?おとうさん?そう、この匂いは。この優しさは――とうの昔に何処かに旅立ってしまった、それらによく似ている。

ねぇ。あなたは――だれなの?

あなたは、どこからきたの?

あなたのにおいが、ぬくもりが、あたしのしっているひとに、にているのは――どうして?

こたえてよ。答えて――

彼女がそう願うのとは対照的に、眩い白はさらに出力を上げていき――そこで彼女の感覚は、ぱっと途絶えて暗転へと還っていった。
























ゆっくりと瞼が開いていく。真っ先に黒く焦げた肉と、焼け溶けた鉄の強烈な臭いが鼻を衝いた。
火の粉が空を揺さぶる。おぼろげな視界が――ゆっくりと回復していく。辺り一面の黒の中に見えたのは、輪郭を取り戻してきたのは――

そこに、居ない筈の人だった。

あなた、なの。 あたしは、初めて見たよ。あたしの手を触れて、立っている人を。
なんであなたは、立っていられるの? あたしの前に居た人は、ことごとくみんな灰になっていったのに、あなたはどうしてたっていられるの。

どうしてあたしの両手を掴んでいられるの?
この手には、あたしの大嫌いな――バチバチ光る痛いものが流れているのに。これにさわったら、みんな黒焦げに焼け死んじゃうのに。

どうして、ボロボロになってまであたしを掴んでいるの?
さっさと放せば、こんなけがを負わなくて済んだのに。綺麗なお肌なのに、ところどころが焦げて裂けて、紅い、綺麗な赤色の血が流れてる。

どうして――あなたは笑ってるの?
おかしいよ。あたしはあなたを傷つけたのに。どうして、笑っていられるの。あなたおかしいよ、絶対おかしい。
何がそんなに面白いの?なにか、いいことでもあったのかな?あたしにはわからない。なんにも、なんにも分からないよ……。


初めて、「その人」と目があった。
なにも、何の嫌な感情も宿していない目。すごい優しそうに、満足そうに、全身傷だらけなのに、楽しそうにあたしの目を覗きこんで、微笑んでいる。
そうして、あたしの中でものすごく長い時間が流れた――彼女は、ゆっくりと口を開いた。


「……止まった、わね。結構博打だったけど」
「やれやれ、お嬢様も無理をなさる。しかし、うまくいったようですな」

彼女と同じくらい優しげな、年老いた男の人の声。おかしい。その人も、さっき灰になるまで焼いてしまったはずなのに。
何事もなかったかのように、お爺さんと思しき人はかつかつと、此方に歩みを進めてきた。
機を同じくしてあたしと女の人が向かい合って、力が抜けたように、冷たい地面に倒れ込んだ。

あたしは気付く。
さっきの、この手に伝わった懐かしい熱。それは誰のものでもなく――今目の前にいる。
あなたの、ぬくもり。


そうして意識は、朦朧と揺らぐ視界と共に、再び闇の中へ。




























「疲れた……」魔女は心底そう思った様で、どさっと横になる。ベルンハルト爺はカカカと笑いを立てながら手袋をはめなおした。
召喚されたゴーレムは焦げ付き吹き飛んだ部品をこぼしながら、空中に浮かぶ魔法陣へと還っていく。

「しかしながら、大いにぬかりました」
「ゴーレムあっさり突破されてんじゃないわよ……ちょっとびっくりしたじゃない」
「損傷率は0.02%といったところでしょうか。魔力を小出しにしていたので助かりましたよ」

20%まで出していいっていったのに千分の一しか出力してなかったのかよ、狸ジジイ。疑わしき眼差しを魔女は向ける。
なに、本気で打ちこんでいたら私めもロゼッタ様も、ただでは済みそうにありませんでしたからな――意味深にそう付け加え、爺はなにともなく傍に依り立つ。
本当に計算の上で出し惜しみをしていたのか、それとも年端もいかぬ娘相手に感傷的になったか、詳しいことは分からないが、今回もこの爺はまるで底を見せなかった。
きっと、わざとこの爺はやっているのだろうと魔女は思う。それ故に頼れるし、よく分からん側近でもある。
ベルン爺は視線を落とし、飄々とした口調から少し重みを帯びたものへと変えた。視線の先にはうつむいてへこたれた娘の頭があった。

「して、彼女をどうするおつもりで」
「さぁ?気がついてからでしょう。まだやるんであれば、また止めるだけの事」
「身を呈して全身に魔雷を浴びるつもりですか。一歩間違えばあなた様すらも消し炭になりかねなかったのですぞ。幾ら魔力衝突で相殺した部分があったとはいえ、
多少はご自愛ください」
「なんだかんだで死なないから止めにはいらなかったんでしょーが」
「全く。それでもお嬢様は優しすぎます。どのような荒技に出るのかと思えば……結果上手く行ったので良かったのですが爺は心配でなりませぬ。何とぞでございます」
「あーはいはい分かったから。んで、だ」

魔女はゆっくりと自分の胸元によりかかる、小さな娘をみやった。
う、んと呻きを上げて起きあがった、ボロボロに薄ら焦げた小さな顔。ふと目があった。魔女は優しく微笑みかけ、ひとつひとつ、丁寧に応答をする。

「……あなたは」
「私はカーラ。カーライア・セシリア・コンチェルト。こっちはベルン爺」
「あ、あたしは」
「あんたはロゼッタ。そんくらいは覚えてるよね」
「…う、ん」
「あんたが今までにしたこと、何が起きたか、全部覚えてる?
あんたの家系は魔力が強すぎた。強すぎる力は、時として宿主を蝕む。人を狂わせる。あんたは自分の魔力に酔わされ、曖昧な意識の中――人を殺してきた」
「……あ、あたしは、あたしは。ああ、あ……」
「責任の所在はあんただけじゃない。でも、その事実はいつまでもあんたについて回るだろう。でも、……あー泣くなってやりづらいなぁもう。泣くな!っつーのに無駄だよなぁ。うん」

胸の中でひくひくと呻きが聴こえると、暫くして摘ままれているシャツの端が湿ってくる。泣く子はどうにも苦手だ。古くから勝てないものの筆頭に上げられるだけはある。
しかし、どうあっても事実から目を反らして生きることはダメだ。過去をなかった物にし、何もかも投げ捨てて明日を向くというのは、生きるとは言わない。
この子が幼ければ、なおさらそうだ。そして残酷に思えるかもしれないが、この子にはそれを乗り越えられる力がある。それこそ、こんな小さな体に私や爺すら遥かに及ばない力と、相応しい未来がある。その芽を潰すことは、絶対にダメだ。
魔女は暫し思いつめた表情をして、振り払うように正面の娘に向き直った。母のように厳しく、彼女は教えるべき未来を取った。
未だ放電する首輪――娘の首に重くのしかかる、運命を暗示するようなそれから伸びた、冷たい鎖を問答無用に引っ張りつける。
娘の腫れた目元に、僅かに宿る恐怖。瞑られる目。残された右手が宙を穿つ。そして――

ぱしぃん!!


響き渡る平手打ちの音。横殴りに娘の頬が飛ぶ。あっという間の出来事。やや離れていた側近の爺が、「全くこのお人はどうしてこうも不器用なのか」とばかりに目を手で覆う。
娘は、衝撃の中辛うじて涙腺に雫を溜めこんでいるようであった。今にも崩れてしまいそうな顔。しかし、こぼしたら何かが終わってしまう。そんな気がして。
紅く染まった頬に暖かいそれを溜めこんだまま、虚空とその先にある――彼女を捉えて離さない者を見る。

「……堪えたね。泣くのも止めた。いい子だ」
「…………」

真っすぐ。腫れていようが醜態をさらしていようが、しっかりと魔女の顔を見据える。それを見届け、魔女は満足そうにやんわりと顔をほころばせた。
先程までの強烈な平手打ちからは想像も出来ない程優しく、緩やかに彼女の頬を、両手で包む。
――綺麗な目だ。そう素直に感じた。自分を完全に見失っていたのが信じられないと思えるくらい、しっかりと見据えた、にごりの一つもない紅玉のような瞳。
そこから色のない水滴が溢れそうなのもよく分かっている。が、彼女はそれを必死に抑えつけている。
もう弱い自分には負けない――そんな年不相応な覚悟すら感じさせた。

もう、安心だろう。そう確信し、心の隅でその眩しさに憧れ、魔女は娘に言葉を紡ぐ。


「いま、『弱いあんた』を吹き飛ばしてやった。
自分を見失うあんた、殻に閉じこもるあんた、人の命を奪ったあんた……そんな最悪のあんたを、全部まとめて吹っ飛ばしてやるおまじない。
痛かったでしょう?泣きたいでしょう?でも人間は、痛くて辛くても、先に進まなくちゃあならない。あんたは、痛くても泣きたくなっても、今必死で耐えてる。だから、絶対に前に進める。世の中にはそれすら出来ないで朽ちていく奴の、なんと多いことか」
「カーラ…さん……あたしは、あたしは……まだ、やりなおせるのかな」
「まだ10年ちょっとしか生きてないのに何言ってんだか。やりなおせるよ、何度でも。
あんたがやったことは絶対に消えはしない。けれど、それを背負っても生きていくことはできる。あんたは同じ年の子供よりずっと辛い体験をしているんだったら、他の子よりずっと先に進もうと思える。そういうものさ。やったことはしょうがないし、悔やんでも悔やみきれない。でも、あんたはそれを二度と繰り返さないように生きていける。
大事なのは、これから。決して投げ捨てることじゃない。背負いこんで、それでも先に進む事。分かった?」
「……うん」

「約束できる? あんたはこれから、あんたのために生きる」 そっとしゃがんで、同じ目線へ。親が子供に言い聞かせるように。大事なこと。
「たぶん……できる」 自信はなさそうだけれど。小さいなりの、力強い鼓動。

「じゃあ、わたしと指きりしようか」 ――差しだされる小指。娘より少し大きくて、暖かそうな指。
「……うんっ」 ようやく、しがらみを打ち払うように暗がりに落し込まれていた顔が――ようやく眩しい光の元へと現れる。強い眼差し。本当に小さな小指。

ふたつの指が重なって、強く引き合って――契りを結ぶ。 温度が互いに交わり、生きているこの瞬間を仄かに映し出す。



指きり拳万による誓い立てが終わったところで、魔女は背にいる老執事へと指令を飛ばした。子供を相手取るのとは違う、毅然とした声音。
「ベルンハルト」
「はっ。此処に」
「この子はコンチェルト家が、いや私が預かる。誰にも文句を言わせない。うちできっちり魔力の使い方を仕込んでから、外に出て行ってもらう」

もう二度と、こんなことのないように。そう深く付け加える魔女。瞳には深い覚悟が宿っている。爺の片眼鏡の奥では、あらゆる思案を巡らせた緊迫した空気が流れている。
恐れ多くも、この方は自分のやろうとしていることがよく分かっているにも関わらず、訊かざるを得なかった。それは500年生きていてもあったこともない状況。

「は……? 正気でございますか。お嬢様の考えは嫌という程分かりますが、下手をすればエピタフィオンとの全面戦争ですぞ」

「魔女が怖くて魔女が務まるかっての。戦争になったらそのときゃその時。コンチェルトと絶縁して私だけ戦争してやろうじゃないのさ」
「……無鉄砲なのは変わりませぬな。分かりました、この爺も再び腹をくくりましょう。なに、私でなくともリディア様も同じことを言うでありましょう」
「あんたらは、ホンットに世話焼きなんだから」

開く事のなかった破魔の大刃――大きな楽器ケースを背負い、鉄格子から降り注ぐ陽光に背を翻し、出口目指して歩みを進める。左手には小さい手を握って。
不意にその手がぎゅっと圧力を伴った。振り返ってみると、腹の高さほどの娘が、じっと魔女を見ている。

「どうしたのロゼッタ」
「ねぇ、カーラさん……あたし、本当にあなたについていっても、いいの…?おうちの人とか、ごはんとか……」
「なーに気にしてんの。まぁ、あんたの親御さんが許すかどうかは知らないけど、一応好きにしていいって権限は貰ってるしねぇ。
うちに関しては心配いらない、みんな脛に傷持ちだから。いまさら娘っ子ひとり増えたって誰も気にしないわよ。ねぇベルン爺?」
「はは、また手のかかるお嬢さまがひとり増えるだけでありまして。この老いぼれ、また仕事のし甲斐があるというもの」

けたけたと笑う老執事に、やれやれと手を横に振る魔女。何処までも楽天的な二人。娘――ロゼッタは考える。
あたしは、この輪の中に入っていいのだろうか?
また壊すかも知れない。また言うことを聞かなくなって、魔力が暴走を始めるかもしれない。
そのときあたしがまた――この人を殺そうとしてしまったら?そんなこと、考えたくもない。
そんな危険性があるのに、この人たちは、ついてこいといってくれる。世話をしてくれるとまで言ってる。いいのかな。あたしは此処に居て、いいのかな。
あたしは、本当にここに居て――

巡る疑念。自己嫌悪。立ち止まる脚。つい先ほどまでの、受け入れがたい事実。 ふと、上を見た。そして魔女から紡がれる、魔法の言葉。それが全ての不安を打ち砕く。



「さぁ来なよ、ロゼッタ。今日からあんたはわたしたちの家族だ」
「……え……」
「なにぽかんとしてるの、家族なんだから、一緒に帰るのは当たり前。違う?」
「……あ、ああ。ありがとう、ございます……カーラ…さん」
「それとそのカーラさんってのは止め!」
「はぁ」
「家族なんだし、ねぇ。その、なんだ。歳けっこー離れてるけど。一応親子でも遠いし。アレ――」

「お姉さん、ですかな」
「そうそうそれ!ってなんだベルン爺。わたしの考えてる事が分かるのかよこのやろう」
「カーラ様は二人娘の末っ子。いつも次女扱いでしたからな。内心妹君に近いものが出来てそう呼ばれたいんではないかと、この老いぼれ邪推してみた次第であります」
「ったく、目敏いなこのジジイは……というわけでだ。その、呼び方は任せるけど。どっちかってとそう呼んでくれるとわたしは嬉しいかなーって」
「……ねえさん」
「お?」「ほう?」
「よろしく、お願いします…カーラお姉さん」

「ん、本当に言えたよこの子。よろしくねロゼッタ」
「ほほう……これで手のつけられない魔女一族が三姉妹ですか。ますます忙しくなりますな。この爺、セバスチャン・ベルンハルトめも以後お見知りおきをば。よろしくお願いします。ロゼッタお嬢様」

三人で、重い扉まで歩いていく。
ぎぃと開かれる石の巨壁。その向こう、光の中に佇む、あたしの見慣れた影。あたしを生んで、育てて、それなのに、どうしようも出来なくなってしまった人たち。頭を下げて、二人の来訪者を迎えている。
でも、お母さんもお父さんも悪くない。悪いのはあたし、あたしだけの責任でもないけれど、でもあたしは過去を背負って生きていく。
まだ子供だけれど、そんなことは関係ない。教えてくれる人がいたから。とても眩しい、あたしの目指したい人がいたから。
あたしが大事にしたい人が――出来たから。

あたしがそう言わずとも、二人とも良く分かっているようだった。ただただ、お姉さんと執事のお爺さんに何度も頭を下げて、難しそうな言葉を何度も口にして、それはとてもつらそうで。絞り出すのもやっとで、でも、何処か澄み切った声色で。一言。

「よろしければ、娘をお願いします。私達に出来なかった事を、娘が望むのであれば――立派な魔女に、仕立てて上げてください」

きょとん、と虚をつかれたように一瞬唖然。全く理解されない覚悟で来たのに、調子狂うなぁ、とぼそっと呟いて。本当は穏便に済ませたかったのは同じことだ。この人は振り向いて、真摯な口調で紡いだ。

「それは構いませんけども、というより私達がお礼を言いたいくらいでして。結局は本人が決めることですけれどね。……どう?ロゼッタ。あんたは――」


「魔女になりたい?」

それはとっても険しい道。過酷な世界。残酷で非情で、力を持った――特別なそれを誰かのために使うことができる存在。
お母さんもお婆ちゃんも、そしてこのひとも通って来た――道。

あたしは、あたしは。あたしは!


「魔女に、なりたい。魔女になって、この力を好きになりたい。これを誰かのために、役に立てられるなら――あたしは、魔女になる」
「ロゼッタ……」

儀礼用のフードの奥底に覗く瞳に、僅かに水気が差した。お母さんはフードを取り払って――他所者に見せてはいけないなんて掟なんか振り払って、
燃えるような赤い髪、流れそのままに――抱いた。 恐ろしく懐かしい、でもついさっき感じた様な、暖かさ。

仲直り、出来たよ。本当だね、やりなおせるんだね。
そう嬉しくて、報告したくて。

振り向けば――矢張り魔女らしく、「お姉さん」と「執事」は姿を忽然と消していた。
































眩しいくらいの炎天下。桿体細胞がおっかなびっくり悲鳴を上げる。暫く暗所に居たためか真っ白にうめつくされる視界。
帰路は、やはり来た道と同じ二人であった。増えてもいないし減ってもいない。これでいい。魔女は自分を納得させるが、執事は心境を見透かすように問いかけた。

「いいのですかな。黙って出てきてしまっても」
「親子水入らずの和解に私達は邪魔なだけだ。あそこにいた方が、ロゼッタは幸せだよ。うまくやっていける」
「カーラお嬢様はうそつきですな。ロゼッタ様にも、ご自身に対しても」
「なんとでも言うがいい。私は納得している。報酬は――親子の涙みせてもらったんだ充分だろう」
「では、未練がないのでしたら発車します」
「ないよ、何も…何も」

バタンと閉じるジープの戸。エンジンがかかり、冷房がさぁと吹き荒れる。魔女は再び窓の外を見つめ、ひとときの出会いと別れに思いを馳せる。
これで良かったのだ、親子は無事仲を取り戻した。あの子なら、問題なくやっていけるだろう。わざわざ私が水を差すこともない。
そう思い、窓の外を見る。一面の砂漠。掌がずきんと痛む。頬、はたいたんだよな。殴る側も殴られる側も、痛みを伴う。別れも同じだけれど、痛みと同じようにロゼッタはきっと私のことなんてすぐ忘れるさ。 これで、いいんだ。

「出しなさい」
「はっ。 ……おや?」

バックミラーに映る、一筋の雷光。あまり鍛錬の様子が見えない荒削りのそれが、手を振るフードの群れから一気に駆けてくる。狼の如く、砂面を蹴って肉薄する。
踏みいれられるアクセル――それよりも遥かに速く、雷光は到達した。びしばしと鳴る放電音。ジープの天井に何かがぶつかる、嫌な音。戸を開けると、なだれ込んでくる小さな人影。
子供の元気そのままに抱きつかれ、ジープの後部席で横倒し。にぃ。八重歯。人懐っこそうなとびっきりの笑顔。紅玉みたいな瞳。傷だらけの身体に布の切れはし、繋ぎとめられた首輪手枷、そんなの問答無用に
目一杯赤髪を振り付け、一言。

「お姉…ちゃんのうそつき!」
「ほら、言われてしまいましたぞ」
「ロゼッタ!?あんた何を――」
「お母さんもお父さんも、行きなさいって。あなたの好きな人がいるんでしょうって。だからあたしは、ついていくよ」
「服着ろよ!荷物!親族への挨拶その他もろもろ!何も持たずにのこのこついてくる奴があるか! ……っていっても聞かないんだろうなぁ。とんでもない妹を押しつけられたね、こりゃ」
「家族でしょう?だから、一緒に帰ろう!あなたが逃げても、あたしが捕まえる!何処に居ようと、絶対!」
「ははは、どうやらこっちが本性のようですな。あなた方魔女はみんな、アクティヴ極まりない。元気なのはいいことです」
「…~思いっ切り他人事だなセバスチャン・ベルンハルト!あんたが飯作ったり洗濯もの洗ったり掃除したり魔道修行したりするんだぞ?この小便くさい小娘の!」
「西国最強新鋭魔女の世話係とはこの老いぼれ、光栄の極み。かく言うお嬢様にも小便くさい時期が――」
「ええいやかましい!ちっ……どいつもこいつも面倒臭い」
「そんなこと言って嬉しい癖に」
「黙れジジイ!」

不貞腐れ座り直す。右後部座席に魔女、左後部座席にロゼッタ。頬に手を置きながらも、これからの楽しい喧騒の事を考えると悪くないと思う。つい溜息が出てしまう。それに反射するように、口が滑る。
「ロゼッタ……帰ろう。私達の家に」
「うん!」
「ではお二方、暫しの旅路をお楽しみください」

機嫌上々の執事。アクセル全開――三人を乗せたジープが砂丘を進む。向かう先はコンチェルト家――我らが家。帰る先。彼女にとって、もう一つの、あたらしい家族。
仕方なさそうに、それでも嬉しそうに、金色の絹をたなびかせて魔女は微笑む。呼応するように、赤毛の少女も天真爛漫な笑顔を寄せる。


「ベルンハルト。なんか無駄にどでかいお土産が出来てしまったけれど」
「はっ」
「まぁ、何。悪くはないんじゃあない」
「全くですな」






揺れる車内で、ロゼッタは、ひとり思う。





あたしの好きな人は、あたしに触れられるくらい強くて、何処か素直じゃなくて、それでも優しい、本当の意味で強い人。
そして、私に生きる勇気とどう生きるかを教えてくれた人。
あたしに、自分のために生きろ、と言ってくれた人。
あたしはその人のおかげで自由になった。世界が見えた。生きる意味を、見つけられた。
だからあたしは、全身全力全霊を以って、その人を守る。何があっても、絶対、どうやってでも。
そのためには辛い修行にも耐えるし、どんな悪魔とだって契約してやる。出来ない筈がないよ。だってあたしは――砂漠の魔女、西の最終兵器。誇り高いエピタフィオンなのだから。
この底なしの力がいつか、あなたを守る盾となりますように――

見ていてよ。
今あたしは、あたしのために――あなたにこの命、捧げるよ。

だってそれが、あたしの幸せなのだから。


To be continued [file#07]
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  1. 2010/10/27(水) 17:38:07|
  2. 一次創作
  3. | トラックバック:0
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塾講あがりが公務員になりました。

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