野郎共、お仕置きの時間だ

なんのこたぁないダメ強化人間LayeⅡ(らいつー)の独り語散るgdgd生活ブログ なまはげだって少子化で寂しいんよ。

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【Viol Viera】#04

+WARNING+オリジナル小説+WARNING+

・本文は完全一次創作です
・苦手な方はスル―推奨
・以前の話は右下カテゴリのオリジナル小説より
それでは、どうぞ
【Viol Viera】#04







「300」









男は少しの余地も残さず、そう断言する。
昼の場末。陰深き路地の奥の、知る人ぞ知る食事処。
古の酒場の趣を重きとした木造の小洒落た店。

そこの窓際の小さな翡翠色をしたテーブルの上で、にらみ合いは行われていた。

男の方は40半ばから50前半といった様相。
蓄えた強固な髭群と切り揃えられたような四角い頭、其処から後ろ髪だけを少し無精している。

対する女の方は20の半ばと思しき風体。
長い金髪の奥底で、年不相応な悪戯っぽい表情が不敵に男を睨む。
余裕を醸しながらも、その瞳に宿る威圧。
ゆっくりと口を開き―
「却下。500」

一刀両断した。




―【Viol Viera】―

―Witch of glutton

―aberration hunting file#04―

[Witch and Witch of gravekeeper]
















「500だと!?法外だろう!」
「むしろ300が安すぎ」
しかし、気迫なら男も負けてはいない。
商談は此処からが勝負というものだ。
「400!」
「480」
「ええい!420!」
「・・・・・・まだ足りない」
「440!これならどうだ!」
「あと20は欲しいかな」
「ぐぬぬぬ・・・・・・450!」
「・・・・・・及第点としましょう」
「・・・・・・これで決まりだな」
「大分妥協したけどね」


からん、と熱気に負けた御冷の氷匣が崩れて音を立てる。

男の方はやけに疲れた様子だった。ハンカチでびっしょりになった額の汗を拭う。
以前この女に値段を提示したら、頭の上を一瞬でかい剃刀が薙いで行ったのだ。
あの時も此処の席だった、武骨な鉄の牙を備えた特大提絃が、硝子をぶち破り、伝統ある木柱に串刺さり、唖然としたところで女のヒールがテーブルをぶち砕いた。
『こんなふざけた金額で私の前に出てきたら・・・・・・次は誰であろうとその首引き千切るよ?』

余裕がある様に見えて何処で突然実力行使に乗りだすか分からない相手なので、必死にもなる。
「・・・・・・頸を削ぎ落とされるのは御免だからな」
「やだなぁ、閻魔様の首刎ねる馬鹿なんているわけないじゃないですか」
「・・・・・・困ったことに居るんだよ、知り合いの魔女にな・・・・・・」
「だ、誰だろうなぁ・・・・・・」

漂う言い知れぬ空気。さしもの魔女も眼をそむける。
相手がわかっていたら、別にギロチンを振りまわすようなまねはしなかったという言い訳のような意思表示らしい。

男に、特に名前は無い。
いや、正確には「必要がない」というべきか。
第229代目「地獄の審判者」、第66区画管轄個体。御歴数える処344歳。
冥府に送られた魂を審判し、死後行くべき界隈を判定する。
早い話が、【閻魔大王】なのだ。

本来裁定をするものは冥府から出ることはない。人口の増加に伴い、裁くべき対象が増え続けた。因って冥界は数千年前から裁定を地区ごとに分業し、各々に担当地の任務をこなす。いつでも次から次へと死人ばかりで大忙しなのは地獄も冥府も変わらないのである。

ただ、人間界に何かしら魔界からの干渉があった場合は話が別である。
魔界の住人は夜の住人。魔の世界。対して冥府は、その魔界の一界隈でありながら、死者の世界。死後、或いは魂を総括する区画。
結局は魔界の住人も冥府は敬遠すべきところであって、死後行く羽目になったり特定の業務に従事していない限り好き好んでいくようなところではなく、むしろ相容れない立場にある。
そして時折、脱走者の一つや二つも出る。苦痛の館、魂の流刑地であれば当然の話でもある。悪魔も辛いのは辛い。

そうした炙れ者が此方に来ると人間界では大抵対処できかねるので、冥府から人間界を伝ってその道の専門家にゆだねる。彼らは大抵人間界に居座り、或いは魔界と行き来が出来るので炙れ者を追跡、始末するには適任なのである。

自分の尻を拭くのも魔界の務め。事後では、人間界及び冥府の混乱を避けるために彼らを雇用した閻魔が代表して報酬を決め、商談が成立する筈―なのだが・・・・・・
相手が「とてつもなく」偏屈ならばわざわざこうして人間界に出てきて交渉しているわけだ。

男―閻魔は通帳を確認し、溜息を洩らす。
地獄の沙汰も金次第とはよく言ったもので、金というのは地獄でも通用する。規格は勿論変容して往くが。
そして、人間界単位で今まさに四百五十万レアリス・・・・・・下手な高級車が買える様な額の大金が、討伐者―魔女にわたったところだ。 ちなみに「一討伐報酬」としては破格の数値であが―目標の及ぼす危険性を加味すれば、妥当な金額どころか安い部類ではあるのだが。

・・・・・・閻魔が高給とは限らないのが、魔界の世知辛いところである。

管轄地の不祥事は閻魔の責任。 報酬は60%閻魔の懐から出ており、残り20%が冥府本庁の保証料と、同じく20%が人間界の事情通―即ち魔界と人間界の橋渡しである。この自費出費は痛い。とはいえ、裁くべき対象物を逃した審判者に言い訳をする余地は残されていない。同範囲内の広義に亘って直轄している以上はその責務もまた重く大きい。

「チームは・・・・・・今二人であったな」
「ガラサキと私と、まぁ警部はこっちの事情通の政府からでてるからねぇ。
ま、取り分は3:7ってとこかしら」
「なんともえげつない・・・・・・!哀れガラサキ・・・・・・」
「身体はって戦闘してるのは私だから、妥当な金額でしょう?」
「まぁ、それもそうだが」
閻魔はその言葉に為すすべもなく言いくるめられる。
彼女いわく蟲を飛ばしているだけで報酬がもらえる方がおかしい、らしい。
「まぁ私の隣で同じように串刺しにされる覚悟があるんなら4:6に引き上げてもいいわ」とせせら笑っている。



「金は・・・・・・使い道は人それぞれ故、詳しくは聞かぬ」

この魔女は「死後契約」を抱えている。
強大な悪魔と契約した際に手持ち分でははらい切れなかった時の手段・・・・・・
「ある程度は貸付け、仮に私が死んだ時は魂をどうこうしていいですよ」という、いわば魔界式ローンだ。

恐らくはそれに宛がわれる部分もあるのだろう。死後契約は生半可な悪魔と契約しないと発生しないのと同じく、また契約者の方も強力で信頼に足るものでなければならない。
そして、ローンを残したまま死んだ場合・・・・・・地獄送りでは済まない、凄惨な結果が待ち受けている。
何百年も何千年も、痛覚を奪われることすら許されずに、魂を貪り続けられるのだ。


(この女の何処に、そんな強さがあるのだろうな・・・・・・)
そこまで考えて、閻魔は考えるのを止めた。
魔女など自分たちに推し量れるものではない。人でありながら人を超えた―知識人であり、兵器であり、また女性である。
何処を掻い摘んでも自分たちの思考が及ぶところではないことを悟る。
(死ななければ、いい。か?)
それを克服する最も単純で、明快な答え。誰しもがそこにいたり、誰しもが挫折していくであろう選択肢。
それはとても難しいことだ。男女問わずとも、こんな仕事をしていれば。

「・・・・・・きっちりと、払い切れることを祈るぞ」
「どうも。ま、もし払えなかったら―
冥府の底でゴロゴロ不貞寝してるだろうから、その時はよろしくね」

そういって魔女は仕方なさそうに笑った。

「善処はしてみる。それよりまだ若いのだ、人生は目一杯楽しみを満喫してでも後悔はしないぞ?」
「・・・・・・楽しみっていっても昼寝と御飯と音楽くらいしかないんだけど?後バイオレンス」
「じゃあいい加減嫁に行け。家庭が出来たら気も変わるかも知れん・・・・・・今のままだと寂し過ぎるだろうが」
「ちょっ・・・唐突になんでそんな話になるのよ・・・・・・家庭とかめんどくさ・・・・・・」

やはり眼を反らしながら、怠慢そうに紅茶をかき混ぜ始めた。
「お父さんじゃあるまいし・・・・・・」とかぼやいている。

「父上殿ではないが上司ではあるから心配にもなる。それに魔女は結婚したら魔力上がるのだぞ」
「もう魔力別にいらないし・・・・・・というか、それ迷信だから。正確には魔女が魔力上がんのは恋した時となにかしちゃったとき。ここテストに出ますよ」
「・・・・・・認識が甘かったか・・・・・・では、お主はどうなのだ」
「・・・・・・何が?もしやセクハラ!?」
「いや、そうではなく。ほら、気になる男とかいないのか」
「皆無」

即答である。全く、少しは悩んでくれてもいいのに一寸も考えるまでも無くそう口にした。
何処までも女性とはかけ離れたそのルーズな性格に、さすがの閻魔もため息が出る。

「・・・・・・ガラサキとか、どうなんだ?一応ひとつ屋根の下であるし・・・・・・」
「論外。冗談じゃない」

あの野郎人のデザートは手付けるわ嫌みしか言えないわ四六時中蟲に囲まれてるわおまけに何考えてるか分からないしデリカシーの欠片も無いし・・・・・・と愚痴っているが、デリカシーの欠片も無いのは正直同じであろう、と考えたところで閻魔は突っ込みを実行に移すのを中断した。
突っ込んだ途端ギロチンが飛んできかねないからだ。


それにしても、同じ屋根の下で寝ていると寧ろ互いに意識は殆どしないらしい。
生活がほぼ一緒に行われている癖に、なぜこうも仲が悪いのか。何故それなのに仕事はうまくいっているのか。不思議ではある。
要はお互いにひと癖もふた癖も何処かずれている人種であるから、が主だった解答であるだろう。
恐らくガラサキに聞いても「あの魔女と!?冗談も大概にしろ」と返ってくるのが目に見えている。
或いは同族嫌悪なのだろうか。

「では、シュナイダーは・・・・・・結構いい線いってると思うのだが?惜しむらくは普通の人間であるところか・・・・・・」
「あんの蟲野郎よりは一億倍マシだけど、妻子持ちです」
「そうであったか・・・・・・しかしそこんとこはちょちょいとだな・・・・・・」
「奥さんのエレノアさんとも娘のカヤちゃんとも関係は良好です。悪魔感覚で簡単に人の家庭ぶち壊そうとするなこのアホ上司」
「ア・・・・・・!?」
「ともかく却下。生身の人間まで巻き込もうとは思わないわよ」

幸せな家庭だけに、自分のような魔女が介入する環境ではない。そもそも倫理に反する。
それに私には「普通の家庭」は眩し過ぎた。
何より人の幸せを壊してまで何かを掴もうとは思わない。
彼らとは、根本的に住む世界が違うのだ。ああいうのはたまに会うくらいでいい。

魔女は内心そうは思いつつも、なんとか誤魔化して話を進めた。
閻魔の悪魔然とした堅牢な頬が、やんわりと歪んだ。
「・・・・・・意外といい奴なのだな。お主」
「まさか。ただ単に興味が無いだけ」

「オレグは?・・・・・・北帝では割と長い間一緒に仕事をしていたようだな」
「彼、半年前に海の向こうで撃墜されてくたばった」
「・・・・・・惜しい男を亡くしたな」
「まぁ、気が付いたら悪魔化してひょっこり帰ってきてたけどね。
愛機と一緒に悪魔化とか、あいつらバカップルここに極まれりだから・・・・・・もうそっとしてあげて」

次に出てきた名前は、戦乱時に魔女と共に戦場を駆けた戦友。オレグ・ミコヤンビッチ・ドラグノフ。
戦闘機乗りであり、幾多の修羅場を潜り抜け、非常に優秀な軍人であった・・・・・・が、半年前に激しい空戦の末、海の藻屑となった。

・・・・・・にもかかわらず、さすがは悪魔関係者である。離脱もせず愛機と共に爆散、すっかり死体回収すら絶望的といわれていたのに何事も無く帰って来た。
しかし、それを視認できる人々はごく少数に限られていた。実体ではなく、霊体としての帰還であったからだ。どうやら成仏し損ねたらしい。
いつも二人三脚だった戦闘機を溺愛しているのが伝わったのか、それとも東邦に伝わる
使い古された物が神に化けるという「ツクモガミ」という奴なのか。何れにせよ最期の瞬間まで一緒だったためか「肉体と戦闘機」相互契約という形でまとめて悪魔化されてしまい、以降燃料もいらずに自由に空を飛びまわっている。
時折空軍の進路に現れては、有霊感者を驚かして楽しんでいるようだ。

「悪魔というか、自縛霊だな」
「そ。バカップル“自爆”霊。私は入る余地なし」

呆れたように、魔女は弄う。
戦友が死ししてなお会うことができ笑いあえるのは、或いは魔のものならではの特権なのかもしれない。 
明瞭快活、よく出来た人間で、容姿の方も優れている部類だったのだが、ひとつ欠点があるとすれば、そういうものに全く関心が無いことか。
彼からすれば、色恋沙汰よりも空戦場の方がずっと魅力的なのである。
死後も全く変わらぬ彼に懐かしさと安心を覚えると同時に、何処か寂しくもあるようだった。
「というか、彼死人じゃん。死人は幾らなんでも却下、あんまり生産的じゃない」
「デフォルトで破壊的な女が生産を語るな。じゃあ何ならいいのだ」

そう閻魔が仕方なく問うと、魔女はなんとも脱力した顔で人差し指を揺らしながら。
適当な条件を提示してきた。

「うーんと、取り敢えず私より頑丈で魔力豊富。経済力・容姿はそこそこ以上あれば。後は一緒にいてて楽しいかどうか、とか?」
「・・・・・・まぁ、なんだ。最初の条件二つで全魔界のうち60%が排斥されるぞ、うん」

―魔剣を身体に数発貰って数週間で完治する奴と耐久性を比べられても困る。
この条件を提示されて当てはまる方が異常である。当面はこの魔女の身を落ちつかせるのは不可能の様だと判断した閻魔は、はぁとため息をつき、やるせない表情で目をつむり、消沈する。
「・・・・・・当面は理想に辿りつきそうにもないな、お主は」
「まぁ、私に関わるんであればそれなりに壊れないヤツじゃないと・・・・・・ね」

・・・・・・魔女にとっては、男など贄でしかないか。
所詮は消耗品にしか過ぎないのだ、彼女らの中では。それを超えるためには、彼女たちの傍で生きるには彼女たちの価値観を揺さぶらなければならない。それほどに魔女とは敷居が高く、並大抵の人類ではついていけないほどにシビアで、独特である。

そして彼女の場合、判断基準は「壊れない」事。
何度も戦場を潜り抜け九死に一生を得ている、「不死身の」彼女らしい提示。

確かに気の合う仲間がいてもすぐに死んでしまうのであれば、彼女の生き方についていけまい。どうせ深く付き合うのであれば、壊れない者の方が望ましい。無駄を嫌い面倒を嫌う、そしてある程度の人情は持ち合わせている―彼女なりの理論である。
ともあれ、今それを満たす人間はいないに違いない。本題は此処から―そう、もっと殺伐とした話だ。

「さて、こんな話題を出したのは他でもない」
「・・・・・・まさか仕事?」
「そのまさかだ」
閻魔はすぐに顔をプライベートから上司へと切り替える。
厳かで、堂々と佇む―歴戦の審判者に相応しいそれに。
魔女は「えー」と最初は渋った顔をしていたが、その双眸に映る闇を紛れもなく「戦術兵器」のそれに切り替える。
先程までの倦怠な雰囲気から、一気に戦場のような張りつめた大気にテーブルは包まれた。
静寂を突き破るように、一束のファイルが投げかけられる。
中から滑りだしてきたのは。
―高級感あふれるパンフレット群。そして施設見取り図。周囲一帯の地形データ。
なによりより一層目を引く、ここ最近の魔族目撃情報とその対処マニュアル。
優雅な装飾が施されたものと、それとは無縁な殺伐とした資料を手にとり、
魔女は高慢な姿勢で眼を細め、流し読みする。

「ふぅん・・・・・・早い話が、これに潜入して暗黙のうちに目標を殲滅しろ。ってことね」
「理解が早くて助かる」
閻魔はゆっくりと頷いた。
「・・・・・・ここ最近、妙に大人しいと思わんか?魔界の連中」
「そういえば・・・・・・ノスフェラトゥ以降主だった活動は見ていないわ」

平和なのは平和でいいことなのだ。傷の治療に専念できるし、何より好き好んで騒乱を起こすものでもない。
だが、逆に静かすぎると不安になるのがこの商売の因果なところである。
嵐の前の静けさ。
その言葉が意味するように、脅威は何かしらの予兆を持ってやってくる。
今回も、決してその限りから外れてはいない様だった。

「ガラサキも不自然なほど魔族を見ないっていってた」
「やはり現場は勘がいいな。先日、お前たちの管轄エリアにとんでもない化け物が紛れこんだ。マリス級だ」
―マリス級。その言葉に、魔女が一瞬瞠目する。
数ある悪魔階級を表す暗号の中でも、malice-「悪意」を顕すそれらは主として「無差別、強大」な種族を広義に意味している。
そして、それらは大抵が「吸収能力」を備えている―つまるところ、他の悪魔を喰らって増長するのだ。
魔女のオーケストラにせよガラサキのムシノシラセにせよ、他者を咀嚼して骨身とするのは同じだが、圧倒的にトレース力(食した魔の何割を還元できるか)が違う。
貪り、取り込み、下品に撒き散らして他者の生息地域を制圧していく―最悪の種族である。
嫌な予感がする。そんな大物が紛れ込んでいるならば、気付く気付かないの問題ではない。
しかし現に―自分たちは微塵も探知できなかったのだ。
暫しの間の後に、魔女は問うた。
仕事の可否、生死に関わることなので情報を引き出さないわけにもいくまい。

「・・・・・・マリス級って言ってもピンキリよ?正確な情報は?」
「それが申し訳ないんだが、此方も一切つかめていない。どうにもでかいくせに対魔欺瞞結界(ステルス)が強過ぎる。場合によっては高次かも知れん」
「・・・・・・冗談じゃない」

姿を急に潜めた魔たちは、より本能的に大敵の存在を感知し退避したか、或いはもう取り込まれてしまったか。
何れにせよ、もはや取り返しのつかないところまで来ているらしい。ならば―殲滅あるのみ、だ。
群がる魔がいなければ、次に狙われるのは自分たち人間なのだから。
腹を決めたのか魔女はふぅとため息を漏らし、目を剥いた。

「・・・・・・流石にそれを私とガラサキの二人でやれなんて言わないでよね」

さすがに幾らなんでも分が悪過ぎる。此方のメンツは二人、それもどちらも物理的打撃がメインなのだ。
接触した途端吸収合体なんて洒落にならない。最悪ジジイを繰り出すという手もあるが、あの爺は本当に危機的状況でないと腰を上げないだろう。
最低限のバックアップは要求してもバチは当たらない筈である。

「当然だが、此方からも頼もしい援軍を用意してある。お主たちも知っている魔女だ」
「魔女の知り合いなんてそれこそ腐るほどいるわ・・・・・・」
「ま、その中の一人ということだ。詳しくは現地で落ち合ってくれ」

脳内に検索をかけてみたが、生憎見知った魔女が多過ぎて誰が該当者なのかてんで想像もつかない。
ともあれ、閻魔の紹介であれば生半可な魔女でないことは確かだろう。下手に勘繰っても仕方が無いのでパンフレットに目を向ける。絢爛豪華な室内の様子が描かれている。
そうしていつも以上に気だるそうに、否憂いた顔で深々と、嘆息した。
「・・・・・・お見合いパーチー、ねぇ」
「華やかなところは苦手か?」
「それもあるけど・・・・・・荷物背負って戦うのは正直なところ慣れてないわ」

人が集まるところで仕事をするというのは、どうにも予想外の事態に陥り易い。
風説に混ぜやすく、被害がもみ消し易い戦場などでは割と何とかなったりするものなのだが―市街地、それも魔となんら接点の無い男女たちが集まるというならば、此方の出方というのはごく限られたものになる。その中でも、敵は平然と暴れ回ってくれるのだ。ハンデは此方側にある、やりにくいことこの上ない。
その十字架を背負った状態で大物を相手にしろというのだから、無茶を言ってくれる。

「それでも君らにこなせないモノではないだろう。健闘を祈る」
さらっと他人事のように、閻魔はそう麗句を吹いた。歴戦の審判者としてみれば、この程度をこなせなくて何が掃除屋かという解釈なのだろう。
行き場を無くした呆れをぐっと呑みこむと同時に、魔女は机に運ばれてきたステーキを引き千切って流し込んだ。
一通り胃袋に詰め込むと、フォークを皿の上で食されるのを待つばかりの贄に突き立て、宣告する。
目には憤怒とそれ以上に凄絶な楽しみが顕れていた。

「・・・・・・まぁいい、頼まれたからにはやるしかないわ。その代わり―代償は高くついてよ?」
「すまないな」
「どの道これ以外に私達は食っていけないからね。謝るものでもないし・・・謝られる筋合いもない。
さ、虫の居所が良いうちに会計済ませておくことをお勧めするわ」

ふと閻魔が気付くと、魔女の側の机には回転寿しのように皿が山積みにされている。
いつ注文していつ腹に収めたのか、それにまた新しい犠牲者を乗っけながらフォークを紗ぶって澄まし顔。
この魔女、傲慢にして貪食である。料理亭で大罪のうち二つをさっそくコンプリートするあたりは、さすがは悪魔の手先だと
閻魔は項垂れるしかない。心配なのは財布の行方だ。

「おい。そのビフテキ12枚分の体積は何処に行っているのだ」
「さぁ?」

彼女はさして満腹になったわけでもなさそうで、ウェイトレスに巨大なパフェを指差すと次に到着したサラダにフォークを突きいれる。
そうして自信満々に親指を立てた。

「野菜も獲ってるから大丈夫!」
「そういう問題ではない」

双度嬉々としてえげつのない質量を何処に繋がってるとも知れぬ胃袋に咬殺し咀嚼し流し込む。
会計を先に済ませておけといった筈なのになおもレシートフィルムを雪崩の如く更新し、閻魔の財布に負担を掛ける姿は悪魔そのもの。
これ以上貪食を尽くされてもいたしかたないのでメニューを没収し、閻魔は人気の無いカウンターへと足を急かせた。誰もいない不用心な会計の呼び鈴を小突くと、地面から黒い霧が立ち上る。

がっぽりと空洞になった地面から湧き出て来たのは、黒いフードで全身を覆った若い娘。装束に凡そ似合わぬ見事な営業スマイルを八重歯を煌めかせながら披露する彼女は、
一般に人々に呼ばれるところの【死神】―張本人。といえども、数ある生命の搾取者、管理者のうちの一人でしかないが。
彼女は屈託の無い笑みでカウンターにこぎつける―が、どうにも足取りが怪しく数歩歩いているはずなのにヨロヨロしているのは気のせいだろうか。

「あっ、はいぃ~。お会計ですね~」
「また眠りこけていたなリーゼ。厨房のデスに知れたらまた減棒だぞ」
「わたしの偽装工作、もとい平常業務はたぶーん完全無欠。ご心配なく・・・・・・」 
うつらうつらしながら其処まで言ったところで、閻魔の横を無数の白い閃光が駆けていった。
ドスドスドス!と鈍い貫通音が木製のテーブルの足元から垂れ流されると、見れば大量の包丁の針山。そのうち一本が死神娘リーゼの首元を掠め、その長い藍色の髪の一切れだけを寸断して暗黙のうちに威圧していた。

―「仕事しろ」・・・・・・詰まりそう言うことだ。

彼女は今のでようやっと目を覚ましたらしく、はっと思い出したように包丁を手に取る。

「ちょっと~?店長、こんなもんブン投げられたら死んじゃうかもですよ~?つーか、死ぬ。頭数減るぞこんにゃろー!いいのかちくしょー!」
「・・・・・・働け。さもなくば死ね」

脅しにも屈せず刺さった包丁を律儀に厨房に投げ返すリーゼだが、その手つきは暗殺の達人そのもの、そして目にもとまらぬ高速で投げ返される包丁の群れを
背を向けながら何事もなかったかのように指の間で挟んで再び厨房業に営むデスも、人智を軽く超越している。
そんな異日常的な日常を瞬時に展開されたところで、客の一人も喚かないところが魔界式料理亭「地獄の一丁目」ならではの光景であるのは疑いようもない。
人間界にありながら常連はほぼ魔族、客層が魔女に魔道士、サラリーマンの如くやつれた死神に、果ては閻魔ときていれば傷害沙汰のひとつや二つなど日常茶飯事以下であるわけだ。
包丁など皿と同義である。
憂さをきっちりと晴らしたのかそれでも蟲の居所は安泰ではないのか、彼女は受け流すように平常業務に戻るとレシートを確認してレジスターを打ち込む。

「ええと、15680レアリスになります~」

破格。それも安い方ではなく、圧倒的・壊滅的な予算額超過請求。奴め、喰い過ぎだ。
当の本人がデビルパフェ(※実在する)をつつきながら素知らぬ顔で糖分を貪っているのだから余計に腹も立つ。

(次は和食料理亭にしてやるか・・・・・・)
「あ、無駄ですよ。カーラさんの胃袋はどんな状況下でもフルスペックで活動しますから。出来るだけ飯屋には連れて行かないほうが無難です」
「いいのか飯屋の店員がそんなこと言っても」
「ウチは人手が足りないだけでおかげさま、盛況はしていますからね~」

見透かされたような突っ込みの後、取るに足らぬ雑談に割り込むように
カッ! と再度穿たれる包丁痕。店長からの第二警告、「余計なことは言うな」である。
堪忍袋の緒が切れたのか、理不尽にも逆昴して包丁を投げ返すリーゼ。

「オラァ!飛び道具に頼ってねぇでメンチ切ってこんかぁい店長!」

しかし、投げかけられたそれの往く先に目標物は無い。代わりに、彼女の背後に三つ回り以上も大きな黒いフードが佇んでいた。
白刃に迫られ見る見る間に彼女の肌が青ざめていく。さすがに冗談では済まなくなってきたらしい。

「あはは。あは・・・・・・ヤダなぁ・・・・・・店長、その大鎌で何しようっての?草刈り?」
「ああ・・・・・・五月蝿い小娘という雑草をでも、とな・・・・・・」
「ご、ごめんなさい・・・・・・」
先程までの覇気は何処へ行ったか、とんと自信の無さそうな声。
大鎌を部下の頸筋に突き立てまま、器用に死神店長は片手でレジを操作していく。くいっと病的な形状の、痩せ細った腕で釣銭を掴むと、閻魔の手のひらに乗せた。
「釣りだ」
「どうも・・・・・・元気そうで何よりだな、【死神】」
「・・・・・・くそ五月蝿い小娘のせいでろくに休みも取れん。毎日充実してるよ」

そう自嘲するように、死神はフードの下の暗がりの中でそっと嘯いた。
「店長、それは褒めてるの?けなしてるの?」
「両方だ。今すぐ文字通りクビにしてやってもいいんだがな」

死神は黄泉への渡し守、閻魔は冥界の裁定者。
仕事が連携している故、縁も深い。今でこそ小粋な店の厨房で一人包丁を手にする日々だが、この死神もかつてはそれなりに名を馳せた男だった。
しかし刈り取る相手がレタスにピーマン、トマトになろうとも、身体に沁み込んだ「始末屋」としての勘は易々と拭えないらしく、彼は元の「死神」の様相で囁く。

「・・・・・・マリスか」
「かもしれぬ、というだけの話だ」

計画的に命を刈り取る死神にとって、「無差別に喰い荒らす」マリスは商売敵のようなものだ。同じ魔族でもまるで方向性が違う。奴らに際限や自重といった言葉は無い。
滾る苛立ちがあるのか、言葉を呑みこんだかのような不自然な間の末に、死神は口を開く。
「まぁ、一線を引いた俺には今や関係の無い話だ・・・・・・せいぜい頑張るんだな」
「奴らの手がこの店に及ぶことになっても、か?」
「ウチの経営方針として原則マリスの入店はお断りだ。俺の店に土足で入り込んだ時は、切り刻んでやるさ・・・・・・」

重苦しい空気の向こう側で、魔女はまだ楽しそうにパフェをほじくっている。それが目に入った死神は急に馬鹿らしくなったのか、音もなく厨房に戻っていった。
残された死神娘が、あっけらかんとテーブルを指差して呟く。


「パフェ、四杯目です。追加料金」
悪びれもせずに手を出して無言の請求。カタカタと無機質に更新されるレシート。閻魔の深淵なる溜息が再びカウンターに立ちこめる。
飯に連れて来たのは大不正解だった。たまには労いの意味を込めてと思ったものだが、早くも後悔の念が湧きあがる。
予想よりも大きな額の札がひらひらと心もとなく死神娘の手元に渡り、レジの中に格納されていった。吹きゆく夏風が何処となく冷たい。

「いい加減にしないと糖尿病になって血糖値に怯えながら飯を喰う羽目になるぞ、魔女!」
「あと三杯!」

さくっ。

閻魔の警告も空しく、幾つものアイスを平らげて冷え切ったスプーンが、次の獲物を抉り取った。


















草臥れた赤錆の階段に足を掛けた時、違和感に気がついた。
暗がりの、蒼い闇に包まれた工業地とは裏腹に、目の前の廃墟―その4階には、灯りが付いている。自分の記憶をたどるならば、きっちり鍵を閉めて出ていった筈だが。
しかし暖かい電光の他にも漏れてくるもの―即ち空間を揺さぶる激震と爆音を加味すれば、「蟲」を飛ばすまでもなく正体は明らかだ。

ガラサキは深く溜息をつき、同じように錆びれた鉄の扉に手を掛ける。
そして、扉を開放すると同時に細身の体を吹き飛ばさんばかりの音の威圧に苛まれた。
具現化せんばかりの音の圧力のうちに元から余り手入れの行き届いていない髪をボサボサにはためかせ、
間の抜けた顔で、怪訝のうちに問いを掛けた。
「・・・・・・なんでお前が俺の部屋にいるんだ?」
「あら。帰って来た」
「帰って来たもなにも私の部屋だ」

ヴィオール・ヴィエラを有り得ない態勢で握り、まるでエレキギターのように掻き鳴らしたらしく
粒汗を振り払うと白いヘッド・ホンを首まで降ろして腰に手を掛けた。
右手でぱっと合図を出すと軍隊のように制止する後ろの透き通った輪郭だけの楽器の群れは―彼女の契約対象「オーケストラ」の面々だ。

「一人ライヴとはまた便利な悪魔だな・・・・・・というか、クラシックのくせにロックとかもできるのか」
「―ゴシックメタルなら問題ナッシング。たまには相手してあげないとスネちゃうからね。それに私としてもいい運動になったわ」

ノスフェラトゥの一件以来、傷の治癒に時間を割き、或いは目標となる魔族の出現率が急に減ったこともあってか、まともに戦線に出ていない身として喰って寝ての繰り返しでは真っ先に豚だの牛になるわけで、それでいざという時に動きが取れなくなっては愚の骨頂。そうでなくとも常に美しい四肢でありたいというのは、仮に魔女でなくとも当然の願いであるだろう。
オーケストラが大人しくなって霧に溶けていったと思えば、ものかげでは忙しなくハリアーがひとりでに床の塵芥を掃き溜めている。
先日のフライトで味をしめたらしく、真面目にしていれば次もまた空を飛べるのではないかと律儀にも自主的に部屋の掃除をしてくれているようだ。
箒が自分から部屋を掃除してくれるのであれば世話はない。ガラサキは溜息をつきながらも、塵取りを取ってきて彼の戦果を回収してやり
粗方ゴミ箱に叩き込み終えると、いつにもまして不機嫌な顔で振り返った。

「私の部屋は何時から魔法生物のたまり場になった」
「あら?いいんじゃない、賑やかになって」
「うるさいのはお前一人で十二分に事足りてる」

「まったく、この魔女は厄介事ばかり持ちこみやがって」と愚痴垂れながら定位置である巨大なディスプレイのある座席へと座る。そこまで来たところで、彼は唐突に自分に投げかけられていたひとつの課題があることを思い出した。他の誰でもない、この魔女からの。

友人の探索―有体に言えば、そうなるのであろう。 一人の吸血鬼の友人の情報は無いか、というものだ。
確かにムシノシラセの探査網を使えば苦となることでもない。魔族にもある程度の知り合いはいるし、情報交換の折にさり気無く話題に混ぜてしまえばいいだけだ。
ただ、魔女の人探しとなると事情は違ってくる。探している相手がどんな人物で、どのような交遊関係にあるか・・・・・・そこまで調べておかないで、易々と兵器の依頼を鵜呑みなどにしてはするほど彼は馬鹿ではなかった。まして鵜呑みにして兵器の依頼を受けるなど命がいくつあっても足らない。

そんなこんなできちんと下調べをしたのだが―おかしなことに、うんともすんとも返事が返ってこないのだ。
直感した。
やはり相手は―只者じゃない。この忌々しい魔女に相応しい、化け物のような存在だ。

そこまで思考を巡らせていたところで、矢張り魔女の方から問いは投げられた。

「そういえば、頼んでた調べ物・・・・・・終わった?」
「ああ・・・・・・すまん。全く情報が入ってこないのだ・・・・・・」
「そう・・・・・・」

やはり様相がおかしい。
いつもだったらここで「ちっ、使えない男ね」と嫌みの一つでも帰ってくるはずなのだ。それなのにムシノシラセの万華に映る魔女は、
とてもじゃないが彼女らしからぬ憂いた表情をし、あらぬ方向に目を伏せ、消沈した趣で小さな椅子に収まっていた。
ガラサキが恐る恐る声を掛ける。
「・・・・・・カーラ?」
「うん?あ、ごめんボーッとしてた」
「その友人のことだが、何か手掛かりになることはないのか?いや、言いたくないなら無理に言わずとも構わないが」
「別に・・・・・・本当に何もない、ただの何処にでもいる親友よ。尤も、私は魔女で彼女は吸血鬼だったけど」
彼女は何処か無気力に、そう答えた。
ただの吸血鬼で情報がまるで出てこないほうがおかしい。となれば、「意図的に情報が抹殺されている、十分な保護下にある種族」―即ち純粋魔族―純魔である可能性が浮上してくる。
魔女の姿勢から脅威を感じ取られない。意を決して、一歩踏み入れてみることにする。

「・・・・・・純魔か」
「ご名答。やっぱり、厳しいか」
「情報の保護率・隠蔽率が半端ではないからな・・・・・・さすがに【蟲】でも探知できまい。向こうか、こっちかだけでも、それと容姿や魔力傾向が分かればある程度検索範囲は絞れるが・・・・・・」
「そこまでしなくてもいいわよ・・・・・・私の気まぐれってことで、この件は処理してくれても構わないわ」
魔女は苦笑して、両手を上げた。儚い作り笑顔が視線を差す。
「しかし・・・・・・」
「いいったらいいの。妙にしおらしくなっちゃって、あなたらしくもない」

・・・・・・本当にらしくないのは、どっちだろうな。
こういう表現もどうかと思うが、この魔女がたかが友人の所在一つで揺らぐような人物ではなかった筈だ。
戦友の死亡報告すらも笑って流せたような、割り切りの利いた、ある意味で酷く残酷で冷血なこの女が。

生き物などと言うのは非常に脆く、儚い。
幾ら生命力に長けた魔界の住人であっても、それは変わらない。いつも何処かで、何百という命が消滅し、或いは刈り取られている。
常に何かを失うことを覚悟しなくてはならないのは、何も人間だけではないのに。一体何に感傷的になっている。

さぁ、いつも通りに笑ってみせろ。嘲けてみせろ。
こんなお前など・・・・・・見たくもない。

ふと思考を奔る、棘の付いた言の葉。
ガラサキはそこに至って、気付いた。

いらついている、自分がいる。
このような顔をされてどう返して良いかわからぬ、自分がいる。

くそ。
たかが人探しのひとつ出来なかっただけだろうが。自分もこいつも、何故揃いも揃って辛気臭い顔をしているのだ。そもそも、便りがないだけで死んだとも限らないのに。
こんな下らない、非効率な思考に容量を割いている暇などない。納得など必要ない。さっさと破棄しろと自分に言い聞かせる。
そう思案しているはずなのに、口は勝手に面倒な方向へと返事を返してしまっていた。

「では・・・・・・何かしら機会があった時はまた調べてみるとしよう」
「だから別にいいって―」
「これは私の納得の問題だ。探査しか能が無いなどと以前お前に言われて、おまけにそれまで否定されては私の沽券に関わる」
「・・・・・・そう。じゃ、『そういうこと』にしておこうかしら」
「『そういうこと』にしてくれ」

魔女は力なく笑った。
今はこんなものでいいだろう、この件は『保留』だ。面倒事には蓋をするに限る。
ガラサキは気を取り直して、ディスプレイに出力をする。黒眼鏡の表面に多量の電子文字列が反射し怪しげに光った。
魔女も呼応するかのように、むっくと小さなソファーから沈んだ体を持ち上げる。
部屋の電灯を落とし、画面だけが光を放つ室内。ガラサキはゆっくりと口を開いた。

「さて、話は聞いているな?」
「見合いパーチーに潜入し、頃合い付いたとこで生身を乱獲しようと画策してるマリスを見敵、必殺。 あとは一般層にバレないように事後処理。
こんなところ?」
「まぁ、口で言うのは簡単だ。パーティ客、つまり一般層が群がる大型施設内の何処かで息を潜めるマリスを見つけ、奴が本格的に始動する前に叩き潰す。事後処理は可能な限りでいい、今回は人命優先・・・・・・即ち向こうの術式に呑みこまれなければそれで及第点だ。別にバレたところで信じてもらえる話じゃあないからな・・・・・・。
問題はより根底、『マリス相手に一体どれだけ迅速にその流れを取れるか』―」
そこまで口に出したところで、不意に鉄の扉がぎぃと鳴く。
軽快な足音に、ヤニ臭い息吹。自堕落な着こなし。闖入者が、何者かは直ぐに分かった。

「お。やってるやってるぅ・・・・・・話は聞かせてもらったぜ。
今回はまた、随分とヤベぇ相手だそうだな」
「・・・・・・あんたか」
「あら、ごきげんよう警部さん」

この作戦班唯一の、真人間。身体能力面で圧倒的に不利なため活動自体は限られるが、人手が必要な時は有り難い存在だ。
何せ常人には魔をその双眸に捉えることも出来ないのである。残業扱いとはいえ極秘裏に色々と工面されるとあって、シュナイダー警部は珍しくやる気満々の様相で薄暗い部屋に足を踏み入れた。
「これで三人か」
「取り敢えず心許ねぇが、先行隊はこのメンツで確定だな」
「この面子・・・・・・って、あなたたちも現場来るの?」

もう一人の戦力、魔女は後ほど合流するらしい。現場でのぶっつけ本番とは度胸のあることだが、余程自信があるか此方側の魔女に負けないくらいルーズなのだろう。
問題はどちらかといえば「この面子で」ということだ。
本来蟲を飛ばして周囲を探る「オペレート役」がいないというのは、現場としては危険度が増えることに他ならない。
しかしその危惧をガラサキは軽く払うように弄らう。

「ああ、私も現場に出る。デスクワークばかりで身体がなまってるんでな、それに、蟲どもがそろそろでかい餌が欲しいと喚き散らすころだ」
「別に現場出てくれるのは頼もしくていいんだけど、指揮はどうするの?」
「魔力干渉(ジャミング)喰らわない限りは此方からある程度の発信源を立てて敷地内に内線を構築する。ただ、状況によっては個々の判断で動いてもらうかもな」
「まぁ、魔女が言うこと聴かないのはいつものことだから大差ないんだが」と軽く笑う。
ともあれ、本来多彩な能力を持ちながらも一方で『嚙みつき引き千切る』ことに特化した、集合体ならではのムシノシラセとその契約相手というのは心強い。少なくとも、近接に重きを置いた魔女よりかは柔軟性に富む。

「俺ぁどうすりゃいいんだ?」 警部が不安になって問いかけた。
「マリスが何がしかの手段を講ずる前に、此方から妨害を掛ける。多分その頃には一般客はみんな無力化されているだろうから、そいつらを退避させてくれ」
「なんだ、またチョイ役か」
「魔が見える人間にしか出来ぬ作業だ。やることは地味だが重要だぞ、警部」
「はいはい、せいぜい気張りますよ」
「あとそこの魔女にも気を配れ、奴は高ぶると見境なくなるからな」
「・・・・・・そこまでひどくはないけど、まぁ死なない程度に立ち回りなさいな」

ガラサキの言う通り、魔を視ることのできる人材で尚且つ人間と同じ尺の中で活動できるというアドバンテージは大きい。
本来魔を視ることができる人材というのは得てして魔道士であり、どうしても戦力として割かれてしまう。それ故に、バックアップに回せる人材が少ないというのが実情だ。
そう言った意味では、本人が望んでいないにしろ魔道理論上中性、即ち中途半端に他ならないシュナイダーの存在はありがたいものだったのだ。
彼は「克ち合ったら間違いなく役立たず」という暗黙の宣告をしかと受け止めつつ、幸いなことに前向きに考えてくれている。首がネジ切れそうなくらい頭をかしげて、必死に自分の出来そうなことを考える。

「ううむ・・・・・・魔女のヤバさは既に身にしみているとはいえ、そんなに相手が悪いのか?俺だって一応公安なんだ、それなりの修羅場は―」
「あんたには悪いが今回ばかりは本当に役に立たんぞ。私とコイツを足したって正直足りるかどうか怪しい、これは増援如何だな」
「そーいうこと。生身の人間が突っ込んだところであっさり吸収されるのがオチ」

あっさりと己が役を否定され、「ぬぅ」とうらぶれる警部。元より人に奉仕する仕事をしているだけにショックは中々大きいらしい。
魔に対抗する時点で常人とは大きく乖離していることも気づかず、ただ頭を抱えている。

魔女が耳打ちする。
(ちょっとかわいそうじゃない?)
(元より首を突っ込みすぎるきらいがある。少し突き離してやる位が丁度いい)
二人で暫く静観していると情けない声で嘯いた。

「あー・・・・・・俺もウィザードだったらなぁ。こんなことで頭抱えずに済むのに・・・・・・くそっ」
「なろうと思ってなれるなら世話が無いさ、それにあんたは地獄に堕ちる覚悟はできているのか?生半可な興味で首を突っ込むとそのうち死ぬぞ」
「・・・・・・そりゃあ女房もいれば娘もいる、死ねと言われて死ねる筈はねぇが・・・・・・」
「なら日の元を歩け。今のあんたは魔が喰らう価値もない」

此れは紛れもない―事実。
わざと、冷たくあしらうように。彼は言い放つ。悪魔というのは本来悪意のあるものにしか近づかないのだから、警部などというのは完全に逆位置として存在している。
それに、無関係な常人を巻き込みたくないというのも、意識の根底にはあった。

「やっぱ俺は脇しかねぇか」
「理解が早くてよろしい。ともあれ決行は2日後、セントラルホールにて。各々万全の用意をし、当日には各自個別行動で現場に潜入してもらう。
魔女、私とお前は決行までの数時間、閻魔の雇った例のもう一人を探しに行くぞ」
「なーんにも事前情報くれなかったからねあの石頭さん。・・・・・・それとも、何か訳アリかしら・・・・・・?」
「さぁな。何れにせよ現場で即席の連携が出来る相当な奴か、或いは・・・・・・」
「単独でも問題の無い化け物さん、ってとこか」
「どちらにしても私達よりもよほど戦力として当てにされているらしい、悔しいことだがな。何か心当たりはあるか?」
「うん、山ほど」

二人の思うところは見事に一致していた。
マリスは本来手近なところから、ハッキングネットワークを張り巡らし網にかかったものから見境なく侵蝕していく。
時として水に紛れ、影に紛れ。己がレイヤーをそっと張り巡らし、一度掴んだら蛇のように執拗に喰いついて離れない。
一方で、拡散範囲が広大なマリスはそれだけに個々の箇所の密度が比較的薄い。
地引網のようなマリスの大顎は、ある程度対処を知っているものであれば苦もなく突破できる物でもある。だがそれも、端末としての話。
より核心―コア部に近づくほど、侵蝕体の密度は高く結束は固い。攻めあぐねるものとなる。
故に―本体を対象とした近接は最も危険な部類、言うなれば愚策といっても差し支えないものであるのだ。

此処にいる魔女は完全に近接指向。ウィザードは数に物を言わせる、逆にいえば決定打に欠ける。真人間に至っては勘定の外だ。
誰とも知れぬ魔女を当てにし、薄暗い廃屋で溜息をつかねばならぬ現状が。
窓から入る夜風が。
今日は嫌に寂しく感じられた。

「・・・・・・あっ」
ちりちりと、乾いた金属音が二三回。
何とも言えない、不協和音の如き空気の中、警部が一人開口する。
「どうした警部」
「またジッポ切らしちまった、ちょいと一走りしてくらぁ」
そういい、よよよと飄々とした足取りで扉へと向かっていく。
ぶっきら棒に扉を開き、換気でもするように螺旋が室内を駆け巡る。
閉じる扉の隙間に見えた―夜の街の、灯火の群。
重なり合った光の珠が、蛍の舞踏の如く
明滅し、また生まれ、また闇に消えていく―人々の営みを縮図にしたかのように。

段々に遠のいていく、薄い鉄を鳴らす足音を送り届けてから、魔女は溜息を吐いた。

「・・・・・・今回は何処も楽をさせてくれそうにない、か」
「いつも最前線を張ってる奴が言うセリフとは思えないな」
「・・・・・・いやさ。私はいいのよ、別に。いつも通りだもの。
どっちかっていうと・・・・・・周りを巻き込むのが・・・・・・」
「『面倒』か?」
「それもあるけど、ちょっと違う。今回は―避けようが無いじゃない。
何かを巻き込んでまで戦うって・・・慣れてないんだよね。もっとこう、『やるせない』なぁってさ」
「ふっ、結局は誰かがやるしかないのだ、その貧乏くじが私達に回ってきただけだ。遅かれ早かれ、誰かがやる羽目にはなっていた。
その役が回って来たならばやれるだけのことをやる、余り背負い過ぎるなよ」
「・・・そんな台詞を真顔で吐ける辺り、今日のあなたも本当にらしくないわねぇ。熱でもあるの?」
「それは、今回はお前と同じ前線だからな。
ヤケになりたいときもある」

ガラサキはふぅと一呼吸付くと、テーブルの反対側のソファーに斃れた。
魔女は力なく口を歪める。
それは何処か諦めたようで―それなのに何処か暖かく。

「ふふ、今回はお互いさまね」
「ああ。荷物は仲良く半分こ、とでもしておくか?」
「そうもいかないみたい。どうやら、もう一個背負いたいおバカさんがいるみたいだもの」
「・・・・・・私は賛同しないな」

彼はソファーに沈んだまま、いつもよりも黒ずんだ声音で答えた。
その声の端々には、言い知れぬ怒りが。哀しみが散りばめられていて。

「それに関しては同意。でも・・・彼は」
「いい加減下らぬ私情を斬り捨てろ」
一蹴するように、言の葉を払いのける。
平静を装う魔女の瞳が、一瞬揺さ振ぶられた。

「奴は分かっていない、この力はな・・・守るには向いていないのだよ。
喰らい尽し、引き裂き、ぶちまける。壊して殺して潰して、それでも歯止めが利かずに―愚かな。実に愚かな力なのだということを」

「・・・・・・・・・・・・」

「お前が一番よく知ってる筈だろう?悪魔はヒーローにはなれない。
くれぐれも・・・・・・早まった真似はするなよ、魔女」

「言われなくたって・・・分かってるわよ」

自分に言い聞かせるように。
擦れ違い、反芻する。―魔女の脳裏の中を。何度も何度も。

そう。
これは絶対に・・・・・・あってはならない考え。
彼の言う通りだ。こんな下らない、誰も幸せにならない選択肢は。
捨てろ。さっさと捨てるんだ。こんなもの、誰も喜ばない。汚くて歪で、煤けた回答なんて。

――たとえ、誰かがそれを望んでいたものだとしても。





ふと夜風に誘われ、窓の外を遠く視る。
そこには―いつもと変わらぬ、否。
永久に変わらない流れの中を永遠と『変わり続ける』―黄金色の三日月が。

誰に望まれたのでもない。
誰に頼まれたのでもない。
自らも、その姿に納得しているのかも怪しい―妖しく光るその月が。


結局はアレと同じように―
なるようにしかならないのだろうか。
日が過ぎたら欠け、日が経てば満ち。
その流れは、何者の思惑が及ぶところでもなく。

なるようにしか ならないのだろうか。

そんな言の葉が、またよぎった。
魔女は諦観のうちに瞳を閉じ、心のうちでもう一度。

(どうなるかなんて・・・・・・誰にもわかるわけないじゃない)

世界と人の心は投げられた賽の様なモノだ。
地面に落ちるまで、誰が結局どうなるかなんて、分かるものじゃない。
ましてや、賽の目を御するなんてことは。


「悪魔がヒーローになれないように・・・・・・
魔女にだって未来は見えないわよ」

半ば吐き捨てるように。
魔女は身体を翻し、ソファーに顔を埋めてだんまりをきめ込んだ。

相変わらず、冷たい夜風が室内を撫でていった。




















「くそ、もう替え時か・・・・・・」

夜なお煌びやかに響き渡る光源の中から、男はやつれた顔で転がり出てきた。
しわがれたビニールに包まれたのは安価だけが売りの、透明なプラスチックライター。
それにどうやって消化するのか疑問が浮かぶ程の、箱詰め煙草の数々。

男はごつごつした手を開いて、その使いこまれたジッポライターを視る。
いつの日かまだそこまでヤニに塗れていなかったころに妻に渡された、質素ながらも酷使に耐えてくれた戦友。

「今じゃあ信じられねェよな、ジッポだなんて・・・・・・」

自嘲するように、嗤った。

割と控えている筈であったのだが、どうにも量は変わっていない様だった。世の中自分のうまくいかないことだらけで、気が付けば一本また一本と火を付けている。
呆れるしかない。この携帯灰皿に積もった量も、自分の役立たず加減も。
訓練も実戦もそれなりにこなしてきたつもりだし、場数も踏んでいる。それでも・・・・・・まだ足りない。
絶対的な、「魔」と「ヒト」の壁が目の前に立ちふさがっている。

「・・・・・・くそっ」

一本に火を付け、コンビニエンスストアに到着するまで取っておいた最後の箱を握りつぶす。
「俺にも、奴らに対抗できる術があったなら・・・・・・」

あいつらの力になれるのに。
自分の守りたいものを、こんなことに悩まずに守り通すことができるのに。

・・・・・・何処まで自分は無力なんだ。
「視える」だけでは、まるで意味が無い。
今までさんざ魔女と揶揄してきたつもりが
こんなところに来て急に、ただの人間である我が身の脆さが恨めしくさえ思えた。

「つっても、ねぇもんはねぇからな・・・・・・いらねぇよ。こんな中途半端なもん」

一息吸って、闇に白を吹きかける。
何処往くと告げることもなく、白い煙は夜風に攫われて。
すぅっと、温度差を感じさせない色へと消えて行く。




――――。


ふと、男の横を一陣の疾風が撫でた。
それは夜風の様に冷たくもなく、突風のように荒ぶっているわけでもない。ただすぅっと、其処にあるのが当然のように。
凱旋していた。

男は振り返る。何かに導かれるように。
目線のかなり下―頭二つ分ほど低いところを、若い娘が摺れ違って行った。
その横に、何か朧に見えるもの―はっきりと目視は出来なかったが、獣のような輪郭にも見えた。

「おい、あんた」

何を思ったのだろう。
気が付けば声を掛けている。深夜のコンビニの前で煙草抱えたやつれ気味のオッサンがだ。何をやっているのか、自分でも分からなかった。

若い娘は踵を止め、振り返る。
何処となく東風ないで立ちをしている彼女は、ボブカットというのだろうか、肩ほどまでの短い夕陽の様に真っ赤な赤毛を揺らして此方を注視している。
男―シュナイダー警部は言葉に詰まり、誤魔化すように飄々と近づいていった。顔を覗けば、見方を変えれば無関心とも取れる不思議な―心の読めない目つきをしていた。

「―・・・・・・あー、なんだ。一応おじさんこう見えても公安なもんでな、一応事情を聞いとこう。若い娘っ子が一人、こんな時間にふらふらしちゃあいけないぜ。家はどうした?」
「・・・・・・へぇ。お巡りさんなんだ」

職業病なのか、当然の作業のように相手の持ち物、容姿から顔立ちまでを即座に脳裏に摺り込む。

年は十代の後半といったところ。無機質な瞳に、小柄で、短髪の赤毛。焦茶がかった衣類は恐らく東洋の「流し」といった類だろう。あんまり女性が着るようなものではなく、ラフな着崩しのひとつだったはずだ。
そして何より目がいったのは―背中に背負った袋に二つ、巨大な棒状のものが入っていた。しっかりと布にくるまれているようで材質や正体ははっきりしていないが、あまりとり回しのよさそうなものではないらしい。
際ほど一瞬見えた獣は、幻のように消えていた。怪訝しつつも、話を聞く。

「嬢ちゃん幾つだ?家はどした?名前は?」
「・・・年は忘れた。家なら遠いところにある。名前は・・・・・・ロゼでいいよ」
「ロゼか、いい名前だな。遠い所って・・・・・・何処だよ?」
「ずっと向こう。砂漠が広がってるところ」
そういい、彼女はずっと西を指差した。
此処から砂漠と言えば、結構な距離があった筈だ。少なくとも国境を三つ四つ越えなければならない。

「随分と遠いとっからご苦労なことだな。此処ではどっか宿はあるのか?」
「ちょっと前なら知り合いの女の人のところに泊ってた・・・んだけど、実はさっきこの街に久々に帰って来たばかりでね。今日はどうしようかなぁ、野宿かなぁ」
「良い年した嬢ちゃんが野宿はダメだ。身体壊すぞ。変な奴もいるかも知れん」
そこまでいうと、何がおかしかったのか急に綻んだ顔になった。不思議な微笑み交じりに、疑問符を投げ返してきた。

「あたしより変な奴はそうそういないから安心してよ・・・ええーと?」
「シュナイダーだ。警部をやっとる。で?どういうこった変な奴ってのは。家出ぐらいだったらおじさんわんさか見て来てるんだぜ」
「警部さんか。うーん、ちょっと違うかなぁ。こう人間的に変じゃなくて、もっと根本的なとこからなわけで」
「根本的に変な奴も案外いるぞ。魔女とか身体から蟲吐く魔道士とか消えるジジイとかな・・・信じてもらえんだろうが」

冗談交じりに言ったつもりが、赤毛の娘は急に神妙な顔になる。
「へぇ・・・」とひとり語散ると、妙にぱっと明るい顔になった。

「じゃあシュナイダーおじさんは割とあたしと近いところにいるのかもね」
「そうか?今滅茶苦茶近いとこにいる気がするが」
「そう言う意味じゃなくて・・・あぁ~いいや。まぁともかく、おじさんとはまたどっかで会うかもね」
「行くあてはあるのか?」
「まぁ当分はてきとーなとこで寝泊まりするよ。今帰るわけにはいかないんだ」

なにかしらの理由があるのだろう、家出娘には多い心境だ。
無理に帰してもきっと落ちつかない。それ以上追及はしまいと警部は心の裡に止め、手を振って夜道を歩く小柄な彼女を、見送る。
ポケットに手を突っ込むと、思い出したように手帳を取り出し、その一頁を引き裂く。
「おっと。忘れてた」
「んん~?」
「当てが無かったらこの住所にこい。俺んちだが最低限の寝床は用意できるし、嫁が作る飯は多分不味くはねぇ、俺は中々帰らんし都合がいい、勝手に使え。その代わり落ちついたら家帰るなり俺がいるだろうから警察なり行け」
「・・・変な警部さん。でもまぁ、気が向いたらそうさせてもらうよ」
「ああ。気を付けるんだぞ家出娘っ子」
「だぁかーら、家出じゃないって」


苦笑いしながら夜闇へと消えていく娘を見送ると、シュナイダーは寂しげな街灯の許で、踵を返した。
「さてと。この街は変な奴だらけだな・・・まぁいい。奴らのとこまで戻るかね」













遠く離れた夜闇で。
娘は誰へともなく微笑んだ。
誰もいない筈の後ろに、声を飛ばす。


「なんか不思議なおじさんだったね。二人はどう思う?」
【妙な中身をしていたな。微かに魔の匂いを感じた】
【まぁ、どーせ雑魚だろう?魔に縁のある野郎なんて何処にでも転がってるっつーの】
「そういうもんかな。むしろあのおじさん、何か知ってたみたいだけど」
【くだらねーおっさんなんかどうでもいいから!さっさと飯にすんぞロゼ!】
【私も腹が減ったな。そうだな・・・・・・何処かに肥えた魔物でもいればいいんだが】
【てめーもすましたツラして結構がめついよなぁ。まっ、多数決で俺たちガン有利だ、飯だ飯!】

「やれやれ、しょうがないなー」

駿風。
先程まで娘がいたアスファルトの地面を、黒い疾風が駆け抜ける。
風がやむ頃には、娘の姿はなく。


替わりに影が、高い電柱の上でくつろぐように、腰を掛けていた。

金色の満月が、静寂に包まれた街並みを彩っている。
それを見。影は、常人ではあり得ぬ跳躍力で電柱の頂の間を、まるでステップでも踏むように優雅に飛翔する。
飛び交う影。翳される月光。

天高く配置されている黄金の照明灯が、娘の瞳の奥―何を考えているのか察しも付かないほどの深淵の闇を射ぬいた。


「さてと、大仕事の前に―」
「準備運動と洒落込みますかね」


To be continued [file#05]

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  1. 2010/05/29(土) 03:54:00|
  2. 一次創作
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