野郎共、お仕置きの時間だ

なんのこたぁないダメ強化人間LayeⅡ(らいつー)の独り語散るgdgd生活ブログ なまはげだって少子化で寂しいんよ。

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剣を掲げ誇りを胸に(世界樹ⅣDE小説書いてみた)

世界樹Ⅳが楽しすぎるのでちょっとだけ導入部分を妄想全開で小説にしてみた。
すっげー俺解釈全開駄文ですが、久々に書く文章楽しかったです。
 
























 豊穣の街、タルシスには様々な物と人が流れつく。
 山を越え川を越え、平坦な地を暫く歩けば見えてくる巨大な城下街。そこは象牙を思わせる煉瓦色と石畳に、町全体を覆い尽くす緑が目に鮮やかな、暖色に満ちた交易の場だ。夏空のもと市場は雑踏に賑わい、香しい薫りがあちらこちらから漂ってくる。
 城下街という形容はやや不適で、多数に分かれた階層の頂点に位置する「城」に見える建物はこの領地の統治院である。それを中心に緩やかな稜線に沿って、群像的な街並みが浮かんでいる。太陽の光を目一杯浴びて聳え立つ統治院を見据え、城下は戦士たちで賑わうのがこの時期の風物詩だ。彼もまた、城門から程なくした市場で剣を選んでいた。
 
 戦士といえば屈強な肉体と己の技量が最大の武器だが、この人物は違った。背格好が低く華奢で、胸腰にかけたプレートと帯刀が戦士だと物語るだけで、とても戦闘要員には見えない程に線が細い。肩にかかりそうな紫紺の長髪はくるりと内向的になっており、見るものに温厚な人柄らしい印象を与える。こんな場所で買い物をしていれば冷やかしを受けてもおかしくない外見だが、本人は至って真剣に商品を選んでいる。直剣を手に取り、店主の親父が声を飛ばす。

 「――どうだ、いい品だろう。西の森の炭鉱でとれた鉱物をふんだんに使用した一品だ。
あそこの鉄は粘性が高く、よく撓りよく穿つ。東方からわざわざ仕入れルートを確保する連中もいるくらいだ。勿論直剣に相応しい剛も兼ね備えてるぜ」
 彼は手にとった剣を撫で、握り、構えてから満足そうに呻いた。「ええ、このあたりの魔物とやり合うには一振りあれば頼もしそうですね。重心も絶妙な位置にあって振り抜くのに支障は出ないでしょうし、何より持ち手がよくならされています。何かの獣の皮でしょうか」
 「ここらでは暴れん坊で有名な荒くれ狒々の毛皮だな。毎度迷宮に潜る奴の何割かはこいつに当たるせいで怪我人は絶えないし、定期的に討伐隊が編成されるからな、ここらの鍛冶屋はこぞって恩恵にあずかるのさ」
 「なるほどね……魔物たちの歯牙に容易く耐えるグリップなら、信頼性は高そうだ」
 「今なら負けとくぜ」
 「それはありがたい。一振り戴きましょう」

 使い古された財布。金貨を幾許かテーブルに転がすと、包装された剣を満足げに受け取って抱えた。店主の女房が「綺麗な手ね」とにこやかに言うと、彼はこそばゆくなって頬をかくのであった。

 「じゃあな冒険者さん。女だてらにソードマンとは大変だろうが、そいつを大事に使ってくれや」
 「ええと、あのですね」
 「あんたみたいな別嬪さんがうちの剣で活躍してくれたら評判も上がるしな。カッカッカ」
 「あのー……」
 「まだ何か買うか?」
 「僕は男です……」
 その言葉は店主を一瞬にして石化させた。あんぐりと口が垂れ下がり、その奥では「あら」と驚いたように口許に手を当てる彼の女房。何度も何度も頭を下げられ、こちらも下げ返して頭下げ合戦になってしまう。キリのいいところではみかみつつ店を後にし、彼ははぁと溜息をつく。線が細いのも分かっているし顔立ちが男らしくないと言われるのは慣れているが、髪型くらいはせめて男性らしくあるべきであろうか。

 彼、アシュリー・リリエンタールは剣士である。冒険者及び、それに少しでも携わる人々は彼らをソードマンと呼ぶ。
 その名の通りに、剣を生業とし、剣と共に生き、剣と共に死ぬ。彼らの本分は魔物との戦闘である。探索や戦線治療などもある程度こなすが迷宮の冒険という危険極まりなくも人々を魅了してやまない世界において、前に出て敵を討ち仲間を守るという最も重要な位置に居るのが彼らソードマンだ。ことアシュリーの剣技は重量と膂力に頼らない分、体躯を活かした立ち回りが非常に大きなウェイトを占める。小柄な身体からはじき出される瞬発力と、太刀風にも似た高速斬撃のため彼のもともと居たギルドでは「ラファーレ(疾風)」との渾名を頂戴しており、若きながらもそこそこ名の通った戦士であったが、遠い異国ここタルシスでは無名に等しいようなものだ。だが彼は名誉に固執するタイプではなかったし、むしろ新天地でいかな剣を見られるかが好奇の中心であったので、余り気にしていない。

 そんな彼の数少ない悩みが、「名前」と「外見」であった。親からもらった名誉ある名前だし、響きは別に嫌いではない。ただ、両者ともにあらゆる点で性別から乖離している。そのためよく間違われる。普段着を選ぶときに女性店員に話しかけられるのも反応に困るし、男に厠で悲鳴を上げられるのもこりごりだ。それに比べれば鍛冶屋は無差別な方でかわいいものだった。彼らは男だろうと女だろうと武器を買っていくものに対しては平等だからだ――ただ、姓名のうち姓だけは滅多に明かさないようにしている。これには少し理由があって、分かりやすく言うと面倒事が多くなるからだ。
 もう少し、髪を短くしてみるか? ――そんな疑念に囚われてくるくると先をいじっているとよく知った声が後ろから飛んできて、背中にぶつかった。小動物のような背丈で誰かはすぐわかる。振り返れば黒衣のローブに身を包んだ、プラチナブロンドの小さな少女がいた。
 「アッシューリー!」
 「その呼び方はやめてください、クレス」
 「え?本名でしょアシュリーって」
 「本名ですが……その。僕を呼ぶ際にはアッシュと呼んでいただけると嬉しいのですが」
 「えー。かわいいしアシュリーでいいじゃない」
 「かわいいとか、言わないでください」
 「お堅いなぁ」
 「ところで、他の二人は?」
 「千里とカノン? あの二人、確か新しいギルドメンバーと話つけてくるっていって朝出なかったっけ」
 「ああ、まだ宿には帰っていないんですね」
 「うん、おかげですっごく暇しててーね? 杖も選んでアリアドネの糸も買って、買い物終わっちゃったし宿屋でゴロゴロしてるのも退屈だからこうやって絡みにきてやったわけさえっへん!」

 迷宮への探索には、基本的に「ギルド」――冒険者の職団が必要だ。ソードマンのアシュリーのほかに、彼の知っている限りでは前衛でみなの盾になる城塞騎士のフォートレスを務める「カノン」と、後方で長弓による狙撃を担当するスナイパーの「千里」、そして今、目の前でぴょこぴょこめまぐるしく飛び跳ねている小動物――ことルーンマスターの「ハーキュリー」がいる。ハーキュリーだと長いので、綴りの後ろ部分をとって仲間にはクレスと呼ばれている。
 何が起こるか予想も出来ない迷宮での冒険は単独では危険極まる。ゆえに、ギルドから5人選出してパーティを組んで探索するのが常識的なのだが、あいにく現在は前衛二人に後衛二人の四人しかおらず、バランスはいいとはいえ治療を専門にしたメンバーがいないのだ。さらに言えば緊急時の補欠も居ない。ギルドとしては小規模で、安定に欠ける。
 暫く頭を悩ませていると、唯一タルシスで活動経験のあるカノンが名乗りを上げた。「戦闘員とメディックが足らないなら心当たりがある。私が声を掛けよう」――といったものの、城塞騎士の常に違わず芯の通った精神と信条を持っている彼女が温厚に交渉を交わせるかというと疑問があった。そこで比較的メンバーでは冷静な性格で、東方出身の千里がフォローに付き添ってくれることになり、内心アシュリーとしてはほっとしたものだ。
 ちなみに、この黒衣の小動物クレスだが、外見や年齢からは想像も出来ない程の術師である。ルーンマスターは古代文字、古代術式を主に攻撃に転用させられる職域で、彼女の十八番は凍結魔導だ。魔物の足許から一瞬で水分を氷化させ機動を奪い、天候を我が物として氷柱の槍を雨霰と降らし串刺しにしゆく。かわいい顔をしてその集中力、印術知識に関しては鬼才ともいえ、戦闘時の表情は味方であっても寒気すら覚えるほどに凄惨なことがしばしばある。彼女の印術は論理よりも本能的感覚的な分、波に乗った彼女は誰よりも怖い。
 ……とはいえ、基本的には無害な小動物である。
 彼女は無い胸を張り終えると無反応に不服だったのか頬を膨らませてつぶやいた。

 「しっかし、二人とも遅いねー」
 「相手にもよるでしょう。それにメディックって需要過多ですからどこのギルドでも引っ張りだこですし」
 「でもメディックだけじゃなくて、ナイトシーカーもつれてくるって」
 「……え」
 「カノンが」
 「ナイトシーカー、ですか。顔が広いなあの人は……」
 アシュリーは怪訝そうな顔をした。
 ナイトシーカーというのは、この地特有の職業で、主に暗殺や隠密行動を請け負う。大抵他の地方のアサシンだとかシノビだとかと同列に語られる。他のそれと同じように人員も多くなく、また容赦なく危険な汚れ仕事も回ってくるのでその実態について深く知っているものは少ない。アシュリーも何人か接触する機会があったが、一様に口数は少なく、黒いレザーであったりマントに身を包み気味悪く、総じて血色も悪い印象を受けた。アレを見れば血でも吸ってるんじゃないかなどという噂があるのも無理のないことだと思う。
 彼らはシノビほど忠義に厚くなく、また良くない噂も多い。パーティに居れるのに抵抗が無いといえばウソになるだろう。アシュリー自身も余り彼らにまつわる出来事に良い思い出が無い。
 だがこのギルドでも一番の年長者で、またアシュリーの先輩にあたるカノンが決定したことなら間違いはないだろうと己を納得させる。カノンは口下手で苛烈な性格だが、経験によって培われた人を見る眼はある。
 そんな思案を巡らせるアシュリーだが、隣の小動物は何とも楽天的な想像をしているようだ。
 「ナイトシーカーかぁ……やっぱりあれかな!?肌が白くてピチピチのレザー服着ててベロにょろーんって出してて、双刀を笑いながら半狂乱に振り回すのかな!? うっわぁ楽しみ! そんなブッ飛んだ仲間がいればきっと冒険が楽しくなるよ!」
 「……クレスはいったいどんな先入観をナイトシーカーに抱いているんですか。失礼ですよ」
 「えっ違うの」
 
 無邪気に空想を膨らませるクレスに呆れるアシュリーだが、存外発想が近い自分に嫌気がさした。













 カノン・V・ルクレールはギルドの長である。
 彼女は15の頃に生まれの国の城塞騎士に任命にされた。貧しく大所帯であった彼女の家は娘が栄えある騎士となることに喜んだが、それだけであった。右も左も分からぬ素人娘のまま戦乱に放り出され、幾度となく死線をさまよったりもした。以後彼女はそこで生きるすべを見つけ出すことに人生の大半を費やした。気がつけば大小無数の戦役を潜り抜け9年が経ち、2年前に一国の衛士を卒業して冒険者のギルドを設立し今に至る。青春の殆どを戦場で過ごした彼女の直感と理論は若いながらも多くの冒険者たちに信頼されていて、フォートレスという生傷が絶えない高死亡率の役職においても全幅の信頼を寄せられてリーダーを務められているのは彼女の経歴と才覚、それに加えて尋常ならざる努力家であるがゆえだろう。
 彼女は今、統治院付近の砦に足を踏み入れている。同職の守衛に書面を確認させ許可を得ると、鍵を外して古戸に手を掛ける。外は陽光に満ちた明るい雰囲気の城下街だが、一歩地下に踏み入れれば吹いてくる温い風と木霊だけだ。対照的な光と闇、白と黒。まるで別世界だった。
 蝶番が軋む音が暗闇の続く階段に反響して、何とも言えぬ不気味さを醸し出していた。鼻をつくかび臭い匂いに、後に続く千里が不快そうな顔をする。

 「……カノン、本当にこんなところにギルドメンバーが居るの?」
 「まぁ、ね」
 「とても人の住む環境には見えないのだけれど」

 彼女は古戸にかけられた、鉄鎖を指さして言った。随分と年期が入っていて、ところどころに剣戟に晒されたかのような損傷がある。彼女の言うとおり、常人が住んでいる場所とは到底思えない。何度も出ようとしている何かをそのたびに封じ込めたとでもいうような様相だ。問われたカノンはそれを見て、「ああなんだそんなことか」とばかりに肩を竦めて、ランプを持って足を進めた。
 「厄介な奴なのよ」
 「それは、どういう方向で」
 「もう、ともかく手の付けられない奴でね。分かりやすく言えば残虐非道、享楽的殺人者」
 さも当然というように口にするカノンに、千里は言葉を失った。
 「……それは大丈夫?」
 「たぶんじゃなくて十中八九ダメ」
 「なんでそんな奴を仲間にしようと思ったんだ……」
 「“いつでも”という訳じゃなくてね。“今回は”大丈夫かなと思ったんだけど、怪しいか」
 「やれやれ……気まぐれで晴れ時々享楽殺人者を仲間にしようとは。我らがリーダーにはついていけないよ」
 「あら? 現役で身元不明のあなたがそんなことを言っちゃうの?」
 「……私が悪かった。腹を括るよ」 
 悪戯っぽく言ったカノンだったが、千里は思いのほか真摯に受け止めてしまって少しばつが悪い。

 千里には2年ほど前までの記憶がない。正確に言えば、出身地も自分の名前も家族の顔すらも思い出せない。
気がつけば階段の前をゆく、この金髪の女重騎士に拾われていた。彼女が言うには自分が倒れていたのは大規模な海戦の最中で、敵味方入り乱れた船上戦だったという。対応の遅れから軍部は彼女の防衛していた港まで奇襲を許し、乱戦の末港は炎上する廃船と浮かぶ死体で一杯になった。そんな中、何とか息があったので軍病棟に担ぎ込んだという。敵か味方までかは判別できなかった。奇襲部隊の殆どは敵軍の傀儡ばかりで、正規の登録手段を経ていない上に余りに多くの勢力が紛れたために、情報処理が追いつかなかったのだという。
 推測するに、非正規兵、傭兵か奴隷か、そのいずれかだったのだろう。マスト柱の下敷きになるという重傷にも関わらず、奇跡的に息を吹き返した彼女だったが、代償と言っていいのか記憶の全てを奪われた。今となっては、ベッドで目を開いたその時からしか自分の人生は記されていない。そしてそこからの人生すべての場面において、目の前のカノンという女性の姿があった。
 彼女自身自分の年齢は分からないが、恐らく今年で18、19くらいだろうとカノンは言う。時折記憶を失う間際にまで着ていた衣服などを見ても、概ねそんな感じはする。肌は俗にいう黄色人種というものらしく、茶の色の髪はおかっぱに切り揃えられていて、東方の簪で前髪をとめている。狙撃手たるもの前髪が狙撃の阻害になってはいけないからだ。弓の扱いに関しては記憶が抜け落ちてからも全く体で覚えていたので、やはり以前もこうして狙撃手だったのだろうな、などと時折思う。
 敵兵の疑いもあり、記憶喪失もでっち上げではないかなどと言われ、最後まで周りからの信頼を勝ち得なかった彼女であったが、やはりただ一人常に傍らにてくれたのはカノンだった。三月ほど経ってカノンが最後の軍役から離れるときも、彼女は自らの手でこの少女の世話をするといい、主人になろうと言ってくれた。
 以後、千里はカノンの奴隷として生きる道を選んだ。彼女にとって自己の便益のために生きるというよりも、カノンの一部、所有物としての生き方が相応しいと思った。カノンは嫌がる言葉だが、友人や家族というよりも彼女自身のために全てを捧げたいという意味では、どんな関係よりも相応しい言葉だった。
 今では記憶喪失に対する違和感もなく、取り戻せない記憶を無理に取り戻そうとも思わなくなっていた。数少ない喪失以前の身の回りの品はその国の何処かに埋めて、彼女は新たな人生をカノンとギルドのために始めることにした。
 千里というのは、彼女の生まれたであろう東国の言葉で「果てしない距離」を意味する。久遠の郷里を夢見るに相応しい名前だろうとカノンは皮肉たっぷりにつけてくれたが、故郷の言語に懐かしい響きを覚えているし、よく考えて命名してくれたことは誰よりも分かっているので、千里自身も気に入っている。彼女が任務疲れで机に突っ伏して居眠りしていた時に、ちらっと命名候補がずらりと並んだノートを覗いたのは内緒だ。


 ……そんな全幅の信頼を置いているカノンが言うのだから、間違いはない。ないと信じたい。千里がそうこう思案しているうちにカノンは先に階段の最下層にたどり着いてしまったようだ。ぎぃと黒い扉を開けると、ただ広い石牢が拡がっているのが眼に飛び込んでくる。床には一面に書き重ねられた印術と、塔内に差し込む鉄格子からの陽光。それらが中心に佇む拘束椅子の姿を暗闇から映し出していた。
 それにしても、人ひとりを閉じ込めておくには広すぎる。まるで、そう――戦闘を想定しているかのような、そんな面積だ。カノンは辺りを見渡してそんなことを考えながら、椅子の上に縛り付けられている人物に話しかけた。
 
 「ミスティー、起きてる?」
 思いのほかのんきに飛ばされた言葉が耳朶を打ったのか、椅子の上に座って――いや縛り付けられている人物は顔を持ち上げた。
 椅子が華奢な身体にゆられ軽快に跳ねる。緊縛され身動き一つとれない彼女は気怠そうに来客の顔を確認すると、意外そうな表情をする。
 「……あら。これまた懐かしい顔が見えたものですね。あなたと最後に見えたのは、ええと――」
 「3年前の攻城戦かな。あの時は油断して、背中に二太刀喰らった。傷まだ残ってるよ」
 「あっれー、確かに殺ったと思ったんですけどねー。残念残念」

 ミスティと呼ばれた彼女は無邪気にもけらけらと笑う。褐色の肌に黒いレザーの衣装がぴったりと張り付いていて、華奢な四肢が剥き出しのこの少女は、随分とカノンと面識があり――それもかなり剣呑な関係であることを匂わせる。千里はすぐさま、少女から言い知れぬものを感じ取り長弓を構えた。嫌な予感が当たっていそうだ。
純真で混じりけのない殺意に、それにこれは僅かな旧友への愁慕だろうか。あまりにも殺意成分が強すぎてはっきりと察知できないが、焦点が忙しなくグルグル変わる瞳、楽しそうに舌なめずりをする姿はどう考えても正常な精神活動をしていない。
 そして恐るべきは、いかにも異常さを醸し出しているというのに、拘束された椅子の中で蠢いている四肢は何とも楽しそうに、奔放な動きをしているという点だった。彼女は「少し窮屈だなー」などと退屈気味で愚痴を垂れ、二三回椅子を揺らす。
 ゴキッと異音がして、千里が注目を彼女に戻したころには両手の枷についた鎖をねじり切っていた。カノンは大盾から重鎚を取り出し、回避できない交戦に備える。長い柄の先に鎚がついた得物だが、問題は彼女に当たるビジョンが見えないことだ。
 他の枷も外し、くねくねと体操して手首足首の関節をならすミスティ。もう何日もまともに身体を動かしていないという風体だが、何処からか双振りの曲刀を持ち出し、邪悪に口を歪ませた。

 「……来るよ千里。どの距離でも油断できないから、気をつけて」
 「……うそ。今の、見えなかった。彼女は一体何者……?」
 「言ったでしょ、十中八九ダメだって」
 「どうしてこんな奴の相手に私を連れてきたの」
 「クレスではあの疾さについていけない。アッシュは、剣技は達者だけど迷いのある太刀筋ではまだあいつは斬れない。
あいつの剣技は……疾いだけじゃなく、狂気を孕んでる。
第一、 加減が出来ずに殺してしまったらもとも子もないしね」
 付け加えるように険しい顔をして、一言。「殺しても死なないけど」直前の言葉が全てを物語っていた。
 迷いなく敵を撃ち、なおかつカノンを守るために全てを投げ捨てる事も辞さない必的の狙撃手。それと二人なら、この快楽殺人者とやり合える。そう彼女は確信している。思ってみればカノンはこの石牢に来てから一度も不安げな顔をしていなかった。
 そしてこれが千里をカノンに付き従えさせる確固たる魅力だった。カノンは自信たっぷり、臆することもなく強く叫ぶ。
 「やはり話すだけ無駄な相手か。千里、あいつを殺さないで、止める。
アバラ二三本くらいへし折ればちったぁ大人しくなるでしょう。覚悟はいいかしら」
 「貴女は私が守る。いつも通り、それだけのシンプルな仕事……違う?」
 「いい返事ね。行くよ!」
 「あーらー、せっかちですねぇ御二方。そんなに私をブッ殺したいんです?」
 「いーや、半殺しにして叩き伏せる。それから飼いならしてやる」
 「飼いならす? わたしを? 
面白い冗談ですねぇ……カノンさんったらまだそんなに元気が残っていたんですか。前にあんなに痛めつけたのに」
 「生憎と、血の気の多さは治りそうにもないんでね」
 「あははははっ」 ミスティは懐かしそうな瞳を一瞬した。そして、やはり一瞬だけだった。開いた瞳孔に正気はなかった。
 「言って聞かないなら何度でも分からせてあげますよカノンさん? そう――こんな風にね!」

 その瞬間、心臓が凍った。
 否、それが錯覚だったことに気づく。一瞬の逡巡、時間は無慈悲に流れていた。影が殺意と同時に滑り込む。差し込む陽光に一瞬も姿を落とさずに。
 気付いた時には言葉よりも素早く裂傷がカノンの腹部を駆けた。光る曲刀の残光、思い出したように傷口が開く。紅い華が咲き乱れる。
 そしてミスティの影が耳元を撫でて、擦り抜けていく。

 疾い。
 風よりも、音よりも。
 彼女の刃は暗闇と同化したかのように疾駆している。そして同時に、その速度からは信じられない程正確に、力強く。鎧の継ぎ目を狙っている。カノンは悔しさと激痛で口を歪ませる。
 やはりこの娘――まるで鈍ってなど、いない。拘束など何の意味も持っていなかった。
 ……化け物め。

 「少しは思い出しましたか――それとも、あの時みたいに無様に地面を舐めないと分かりませんか」
 「貴様っ……」
 「飼いならすなんて、バカなことはおっしゃらない方がいいですよ。
あなたは所詮“ただの人”――わたしには追いつけないんですから」
 「……喋りすぎだ、貴様は!」
 鉄鎚を振りかざす。影を破り虚しく空を切り――床の煉瓦を叩き割る。やはり、速度ではとらえられない。
千里が二人の間に躍り出、長弓を引き絞り、速射。ミスティが飛び退く間に二つ番えて引き放ち、踊るようにステップを踏んで旋回、もう一度双眸に捉えて未見目掛けて放つ。
 放たれた四本の矢、それぞれが全力を賭されて闇を突き切った。だがその深淵で何かに弾かれ、速力を失って石牢に転がってゆく。からんと足許に転がったそれを千里は見逃さなかった。極小の投刃――投げナイフ、というやつだ。
 ……どうやら長い間暗闇に居ただけあって、相当夜目が利くらしい。千里は深追いせず護衛対象であるカノンとの距離を優先する。

 「――カノン、大丈夫?」
 「こんなの全然浅いわ。
あいつったら、随分私を舐めてくれてるようね。刺し込まずに撫でていきやがった」
 「あら、優しくするとすぐこれだ。カノンさんも少しは人の人情ってヤツを知った方が――」
 「黙れ」
 「……これですよ」
 「カノン」千里が闇の向こうの敵影を睨みながらぼつりと言った。
 「彼女、仲間に出来るの?
正直な話さ、殺意剥き出しで勧誘どころではないんじゃない?」
 「勧誘!」いかにも楽しそうな声で反応したのはミスティだった。思いもよらぬとばかりに悦びに身を震わせて、左右に束ねた藍色の髪の奥から狂気に満ち足りた瞳を覗かせ、震わせている。
千里とカノンは二人そろって同じ感情を覚えた。ぞくっと背筋に寒気が走り、蛇に睨まれた蛙のような気分を味わった。瞳が何を映しているのか、見えない。次の動きが読めない。知ってか知らずか、ミスティは楽しそうにくつくつと笑った。
 「カノンさん、こんなぼっちでコミュ障のわたしを、パーティに入れてくれようとしたんです?」
 「だから貴様は人の話を最後まで聞けと……」
 「いやはや、嬉しいなぁ。嬉しいです。今チームは何人なんです? 私が入る余裕、あればいいんですがー」
 「アッシュにクレス、千里に私。それに新任のメディックをこれから勧誘するから、六人かな」
 「六人、ですか」 がっくりと肩を落として震わせるミスティ。至極、心からそう思うように。「残念です」
表情は見えない。藍色の髪が垂れ下がって、彼女の瞳をすっかり包み隠してしまった。

 「ああ、一人補欠になるわよ。ナイトシーカーって居れば心強いんだし。それでも良ければ――」

 カノンが提案する頃には、遅かった。
 悲愴にくれた彼女は音もなく六徳の間に肉薄し、妖艶な手つきで千里を背後から拘束すると、
 その喉元を――刃で薙ぎ払った。
 そして満足げな微笑を浮かべ返り血を浴びて、言い放つのだった。

 「これで五人ぴったり、ですね」 
 「……貴様ぁあっ!」

 烈情と共に薙ぎ払われる鉄鎚。空を切り壁を破砕するが、その一動作の間にミスティは逃げも隠れもしなかった。
 正面から見据え、完全に機動を読み神速の剣撃を打ち込む。
 そのすべてが精緻な斬撃となり、鉄壁の鎧を回避し、継ぎ目を貫徹する。六閃もの残光がそれぞれ生き物のようにうねり、血飛沫がそれをなぞってゆく。怒りに我を忘れた重騎士はそれでも止まらない。

 「無駄、全くの無駄です。
あなたの動きは隙だらけ。単調で読みやすく、直情で――部下も守れないほどに愚かだ」
 「黙れ……貴様は私から絶対に奪ってはいけないものを……今ここで消えろっ」
 「そして、状況が見えていない」
 「私の悪口は何とでも言うがいい、だが、よりによって貴様は……!
速さに驕るのは勝手にしろ。だが一瞬でも私の前でそのふざけた面を止めてみろ。その頭蓋を叩き割ってやる……!」

 再び振り下ろされる鉄鎚。重騎士の鎧と大盾と、その全ての重量が上乗せされた猛攻を、
 ミスティは避けることもなく、この瞬間は真正面から刃の一振りで受け止めた。
 明鏡を鳴らしたような、澄み切った金属音が反響して、お互いの時間は静止した。
 さしもの凄腕も、この時は片腕だけでは反動を受け切れず、震えていた。持ち手からは剣芯が肉に喰らいついて血が滴っている。
 彼女はなんともないとばかりに、背後で倒れている千里に声をかける。

 「千里さん、でしたっけ。喋れますでしょう、どうです?」
 「ええ、ちょっと驚いたけど」
 「え…………まさか」
 「やだなぁ。そんな簡単にわたしがカノンさんの部下を殺傷するわけがないじゃないですかぁ」

 人の背丈ほどもある鉄槌が、がらんと無力に床に転がり、がっくりと膝をつくカノン。それをけらけらと嘲笑うミスティ。
 千里はちょっとかわいそうに思いながらも、感心したようにミスティに語りかけた。

 「悔しいけど――あなた本当に凄腕ね。首の皮一枚だけを切り裂くだなんて」
 「でしょ? それなのにカノンさんったらあなたがよほど大事だったみたいなのか、勝手に逆上しちゃってねー。愛されてますねー♪」
 「…………まぁ」
 「まぁ?」
 得意げに続きを聞き出そうとするミスティ。カノンは致し方ない、とついに折れた。
 「部隊の長としては、些か思慮に欠けていたわ。それは認める」
 「分かればいいんですよ。いーひっひ」
 「……カノン」
 「何よ?」
 「心配してくれて、ありがとね」 ほぐれた衣類を正しながら言う千里だが、カノンは激情を見せたのがよほど堪えたのか、
 「……私が恥ずかしくなるだけだから、もう何も言うな」そっぽを向いて目を合わせようとしない。

 それにしても――首を撫でながら千里は思う。刃はキレイに皮一枚を通っており、出血などとうに止まっていた。
 このミスティと呼ばれた少女は、雲を、いや霧を掴むような人物だ。一見狂乱者と思しき挙動をしても次の瞬間には急に別人のように落ち着き払ったり、かといって彼女の瞳に潜む狂気が紛い物とは到底思えなくもあり、どれが本性なのかさっぱり分からない。恐らく付き合いが長いカノンですらも、その本心は見透かせないのだろう。
油断は出来ないが、単純な悪人でもないらしい。
 ただ一つ言えるのは、たぶんこの上なく厄介な人物であるということくらいだ。

 「カノン、この人さ」
 「……そうね」
 「よく分からないけど、まともじゃないのは分かった」
 「ええ、その認識で間違っていないと思う」
 「おろ? ひどいですよ千里さん」
 「……馴れ馴れしく寄るな、この狂人。
……それで、仲間になってくれるの?」

 ミスティは何をいまさらとばかりに、無邪気全開首を縦に振った。
 「そうですね。あなた方と一緒なら退屈しなさそうです♪」
 カノンは呆れ、降参とばかりに頭の上で手をひらひらやる。
 「……それがあんたの志望動機。いいわ、これから出所手続するから、付いてきなさい」


















 「あー、くっそ。今月も赤字だ。どうしたもんかな」

 その日、シュミットはいつもの如く事務机の上にいて、赤字明細書を抱えて唸っていた。
 既に陽は暮れて、辺りの宿屋からはおいしそうな肉料理の匂いが漂い、酒場では冒険者たちや番を終えた街の警備のもの、港関係者や吟遊詩人などがたむろして宴会を上げている。暖色で賑わうその中から浮遊してくる誘惑は彼の鼻を刺激するも、あいにくとここは灯火の油さえ惜しい零細診療所だ。財布の中身を見れば数歩歩けば辿り付く酒場が千里も万里も遠く思えた。
 彼の本業はメディックである。冒険者のみならずあらゆる患者の傷を癒し病を診、危機に瀕した命を救うのが生業である。
 かつては彼も、危険な冒険者たちと徒党を組み世界樹の迷宮を旅する一人であった。しかしながら、彼は戦闘が大の苦手だった。
 何度も死地に飛び込んでいく勇気が持てなくて、結局引退しこんな小さな診療所で、爺婆の相手をして平穏な毎日を送っている。そして、平穏だからこそ、迷宮で怪我人が出て運ばれてくると、いやでも思いだすのだ。
 時々自分と行動を共にしていた城塞騎士のことを――いや、どちらかというと思いだしたくないのだが、彼女は今儲けているのだろうか。少なくとも、危険を冒して冒険をしている分自分より実りはいいだろう。或いは、もしかしたら名も知れぬ迷宮の底で怪物に襲われて息絶えてしまったかもしれないし、胃袋に鎧ごと突っ込まれて消化されているかもしれない。そもそも自分が見た冒険者界隈ではそんなことは日常茶飯事だった。

 今月、診療に来る患者のカルテに目を通して、施す薬を勘定するが、何度見ても足りない。なにがって薬を買う金が、である。
 彼の性格上、金さえ払えばという商売はなんともしがたい。それどころか、貧しく薬代を払えぬ患者にまで薬をやってしまうものだから、赤字は募る一方だ。昨日も腕時計を質に入れたばかりだった。
 灰色のぼさぼさした頭髪をかいて、ない金でいかにしてやり過ごすかばかり考えてしまっている。そしてそろそろ、それも限界に達しているのだ。今日は一食隣の宿屋から残飯を恵んでもらっただけだし、髭も無精しっぱなしであるし、風呂にはここ三日入れていない。医者の不養生とはこのことかと空笑いするくらいしても、やはり胃袋は満たされない。
 ぐー、と容赦なく腹の虫がなる。今日は喰えただけでもマシだが、明日も一日一食が保証されているとも限らないことに絶望する気力も、もう失せた。

 美人な女将に何度も飯をたかるなど男が廃る――そう頭では思っていても、もはや面子も矜持もなくハイエナのように宿屋の裏口に向ってふらふらと診療所から踏み出した、その時だった。幻を見た気がした。否――これは現実だ。

 銀甲冑に巨大な鎚、そして金髪のボブカット。
 端麗な表情には見合わぬほど、苛烈な炎をその眼に宿した女騎士が立っていた。
 不運なことに、彼はその人物を知っていた。

 「あら」
 「……お? ……げぇっ!?」
 「丁度店じまい? 奇遇ね、シュミット。今あなたを尋ねに行こうと思っていたところなの。診療所が閉じてたらどうしようかと思ってた」
 「いやいやいや待ってくれ、お前が何の用だ!?」

 狼狽したが、彼には嫌というほど分かっていた。見知った女の後ろには同じく見覚えのあるぱっつん茶髪の狙撃手と、街で指名手配にされていた狂戦士が何食わぬ顔で立っている。そしてこっちの気も知らずのんきに手を振っている。
 「あっ、時々収容所に来る医者のおじさんだ。おっひさ~。っていうか、カノンさん知り合いだったんです?」
 「昔ちょっとね」
 「……やはり貴方か。夜分失礼する」
 「……お前らまで居るのかよ」
 彼女らの来訪は最大の誤算だった。彼女らの前で、宿屋の女将に残飯をせびるなど、情けなくて出来るはずもない。ただでさえ人目に付かなくても恥ずかしい事なのに、こいつらに弱みを握られたら――シュミットは身を震わせた。想像もしたくない。
 精一杯胃袋の虫を抑えて、とりあえず招き入れる。玄関ランプに火を燈し「汚いが上がってくれ」とぶっきらぼうに言う。
 「おっじゃましまーす」 寂しいあばら屋にミスティの元気な声が響いた。

 「それで」煙草を咥えて、着火。女たちは勝手に椅子に座り、シュミットを囲む姿勢になった。概ね予想はつくが邪険に振り払うのも憚れるだろう。かつて同じギルドだったもののよしみだ。診療待合室の茶菓子を持ってきて応対すると、お腹が減っているのかミスティががっついた。
 それにしてもこの娘っこ、遠慮ってもんが無いのか――皿一杯の飴やクッキーをぼりぼり掘り進んでいく様は炭鉱の掘削機のようだ。出さなきゃよかった。彼はしみじみ反省した。
 そんなミスティを尻目に、「単刀直入に言おうかしら」とカノン。
 「シュミット、あなたまた迷宮に戻る気はある?」
 「…………まぁ、その話なんだろうな。分かってたさ」

 カノンの口から告げられる、復帰の勧告。分かり切っていた言葉だが勿論シュミットとしては二言返事など出来るはずもなかった。何より“あの世界”を知っているものに、戻るなど簡単に口から出るはずもない。
 しばし沈黙に沈むシュミット。カノンもそれをよく分かっていているのか、「工面に苦労していると聞いてね。無理にとは言わないわ。私たちは暫く宿に居るから、三日くらい考えるだけでもしてくれない?」と言い、席を立った。千里がカノンに続き診療所を後にして、最後に腹いっぱいの茶菓子を蹂躙した災厄が去っていく。大損害だ。

 懐かしの顔触れが去って、再び診療所に静寂が訪れる。消し忘れたランプの明かりにもと、シュミットは考えていた。
 己が再び、あの迷宮に戻る気概があるのか。
 自分に、戦いの才能が無いのは誰よりも分かっている。鎚を持ってもカノンみたいに豪快に振り回せるわけでもない。短剣も護身がせいぜいだ。そして、何よりも――。
 血の海に沈む仲間たちと、自分の背丈を遥かに超えて影を落とす強大な魔物。
 振り下ろされる凶爪。薙ぎ払われ肉塊になる兵士たち。
 そして、自分自身から流れる鮮血。激痛。
 視界が闇に沈んでいく。守るべきものたちを取り残して。

 ……もう二度と見たくもない光景が、脳髄に焼き付いて離れない。
 忘れようとしていたものだ。だが、人間の脳というのは皮肉にも、そう言う事に限ってこびりつくようにできている。
 それが悪夢となって今でも彼を苛ませるのだ。

 それらの恐怖に立ち向かって、なおも膝をつかない勇気が今の自分にあるだろうか。
 現役の頃ですらなかった、勇気などという言葉。自分には決して生まれてこないそれ。
 彼女らは……持っているのだ。あのか細い手と、小さな胸に。
 盾と剣と、自らの身体と仲間を信じて、それに立ち向かっていく。

 自分はどうだろうか。
 束の間の平穏に溺れて、戦いから逃げて。それでよいと思っていた。
 平穏な日常を支える小さな診療所を営むことが自分の役目であると、そう思っていれば幸せだった。
 だが、残酷な弱肉強食という摂理が支配する迷宮に、彼女らは向かおうとしている。
 何故まだ戦えるのだろう? 何故自ら、死に近き迷宮へと足を踏み入れていくのだろう?
 金? 名声? 恐らくそのどちらでもなければ、彼女たちは決して殺し合いを楽しんでいるわけでもない。
 ……約一名、そうとは言い切れない輩がいることは否めないが。

 それを思い出すためか、気がつけばシュミットは部屋の奥底、忘れられた引出しからあるものを取り出していた。
 埃をかぶった、医療鞄。戦闘であちこちが剥げているが、苦楽を仲間たちと共にしたそれだ。誰のものか分からない返り血まで付いていて赤黒く乾いている。
 それを見ながら、考える。あの頃の自分はいったい、何のために戦えていたのか。何が自分を、苛む恐怖の中突き動かしていたのか。目の前の汚らしい鞄はその答えを知っていた。瞳に映るそれは彼に様々な思い出を回想させた。

 出立の日の躍動。魔物との戦い、そして勝利。
 樹海の中での小さな発見や、勇気を振り絞って手を伸ばした洞穴。
 メディックにも関わらず、有毒植物を食べておなかを壊してメンバーに介抱されたこと。
 強大な樹海の主を打ち倒し、統治院から表彰されたときのこと。
 仕事をこなした後の、酒場でのバカ騒ぎ。
 夜中にふらっと天幕を出て、水浴び中のカノンと出くわして籠手でぶんなぐられたこともあった。

 そうか――暫く思考に沈んだ彼が気づけば、確かにそこには実感があった。
 冒険と、発見。
 未知の世界への最前線、それを探求する喜びと驚き。
 それが彼女らの、迷宮を旅する根源的な理由。
 恐怖も不安も、それらの渇望の前には屈するしかない。
 その手でつかみ、理解したい――それこそが人類を止められない、無限の進化への渇望だ。

 再び、自分もその世界に帰れるだろうか。恐らくこれが最後のチャンスのような気がした。
 この街に確かに自分は必要だし、診療所は続けて行きたい。
 だが、赤字の問題もある。ここらで風を吹き込みたいのも事実だ。

 そして、何よりも。
 彼自身が、無限の世界への冒険を心のどこかで望んでいた。燻っていた内なる炎を抑えきれなかった。少年のような、稚拙な欲求だ。だがそれ故に純粋だった。
 医療鞄と、冒険者を証明する多数の書類を一息にまとめると、彼は診療所を飛び出す。
 向うは隣の宿屋。彼女はまだ起きているだろうか? 今すぐ答えを叫びたかった。

 「カノン……分かったよ」

 俺にはまだ、あの迷宮でやり残したことがある。まだ戦える。
 そう伝えたくて、仕方がなかった。















 カノン一行が依頼斡旋窓口「踊る孔雀亭」にたどり着くころには、アシュリーとクレスは情報収集も買い物も終えて夜の酒場を満喫していた。
 アシュリーは然程酒を飲まず、クレスも飲める歳ではないのだが、酒場の雰囲気が彼女を呑み込んだのか、口に含んだ果汁ジュースにアルコールが混じっていたのか、やたらにテンションが高い。「でっへっへー」と座った目でアシュリーにちょっかいを出しているところにギルド個室に現れたカノンたち一行は、彼にとってはどんなに助け舟だったろう。
 彼は膝に俯せになって倒れ掛かる小動物(しかもやや意識がうつろだ)に苛まれながら、救いの天使(重装歩兵)が舞い降りたことを察知して手を振った。

 「おや、お帰りなさいカノンさん」
 「二人とも変わり……無いようね。お待たせ」
 「後ろの方がお話にあった……?」 アシュリーがミスティに気づいて目をやった。
 「お初にお目にかかります、ミスティですー。カノンさんとは、そうですねぇ、長い付き合いというかなんというか」
 「斬って斬られ合う仲かしらね」
 「正確に言えばカノンさんが砂袋みてーに一方的に斬られるだけですけどね」
 「……何あんた、喧嘩売ってんの?」
 「いやいや滅相もない! 今夜も夜遅くこそーっとあなたの部屋に忍び込んで寝首にダガーを突き立ててやろうなど」
 「そして私は実は寝てなくて、襲いに来たあんたに後ろから鉄鎚振り下ろして――」
 「ベッドが粉々になってカノンさんが弁償と。かれこれ7度目ですか」
 「もうその手には乗らないわよ」

 漫才のようなやりとり。だが二人とも目が笑っていない。これからやってやろうと言わんばかりだ。
そんな険悪なムードの中クレスが目をこすり醒まして、ミスティの存在に気づく。快活に「あ、ナイトシーカーさんだ! 初めまして!」
 アッシュの膝から飛び降りてお辞儀をぺこりとすると、ミスティもそれに応じた。意外と幼女には優しい。
 「わーっわーっ。ピチピチのレザー着てておへそ丸出しだよアシュリー!大体合ってたよ!」
 「よ、よかったですね」
 「あ、おへそ触らないでくださいよ、ちょっと。くすぐったい、くすぐったい」
 「ぷにぷにー。ねぇミスティさん、おなか冷えないの?」
 「冷え性のカノンさんと違ってそれなりに鍛えてますんで?」
 「こいつに心を許しちゃだめよ」とカノン。「……誰が引き入れたんだっけ?」千里が後ろで呆れた。
 痛いところを刺されたカノンはそっぽを向いて、「今日は新生ギルド誕生を祝って無礼講とします。さぁお前ら呑めや歌えのどんちゃん騒ぎ、貸切だし派手にやるわよ!」と誤魔化すのであった。

 賑やかになってきたが、アシュリーはふと気づいた。メディックを連れてくるというのが今回の目的の一つに 入っていたはずだ。
 カノンにその旨を問うと、彼女は申し訳なさそうな顔をしてグラスを揺らした。
  
 「……ちょっと望み薄、かな。ごめんね、あんなに自信満々にあてがあるって言ったのに」
 「いえ、ダメなら次を当たりましょう。一度に二人も増えるなんて都合が良すぎますからね」
 「そうだね……はぁ。私も人望ってやつがもう少しあるかと思っていたのだけれど、少々驕っていたわ。
本当に腹を決めた人は動かせないね。今回ので学んだ」

 迷宮での探索は命がけ――誰も彼もが、それを許容できる訳ではない。とうの昔に分かり切ったことだと思っていたが、認識が甘かったとカノンは痛感した。他に優先すべき事柄があって、自分が欠かせないのなら、それもまた仕方のないことだ。
 今の自分に、彼の決定をどうこう言える義理はないのだとつくづくそう思わされる。そうなれば、他をあたるしかない。
 彼には、この街で守るべき人々がいる。そう思えば、カノンは今回の失敗をすんなり受け入れることができた。
――それにしても、うまい酒を呷って海の幸を楽しんでいるというのに下がどたどたとうるさい。文句の一つでも付けに行ってやろうと個室から廊下に出るカノンに、何かが鉢合わせる。
 良く見知った、不養生な医者だった。

 「――あら、あなただったの」
 「カノン」
 肩で息を切る彼の真摯な表情。カノンは満足げな表情を浮かべて微笑んだ。
 不真面目な彼には似合わない。つくづくそう思う。だが、いい顔だ。

 「暫く見ないうちに随分いい顔するようになったのね、あなた」
 「カノン、分かった。俺はもう逃げも隠れもしねぇ」
 「不思議ね……私はあなたが逃げたり隠れたりしただなんて、これっぽっちも思ってなかったのに」
 「……お前、意地悪になったな」
 「お互いさまよ」

 妙な距離と間があった。カノンは相変わらず微笑んでいて、優雅に静かな不穏をたたえている。何か、猫が鼠でもいたぶるかのような雰囲気だ。個室の御簾からは幾つかの小さな顔が固唾を呑んで様子を見ていた。気づかないフリをしながら、カノンは続ける。今日は出し抜かれっぱなしだから、たまにはこういうのもいいだろう。

 「……それで?」
 「もう一度、一緒にやらせてくれ」
 「あなたはこの街に必要な人材なはずでしょう」
 「診療所は続ける。だが、続けるには金が必要だ」
 「…………」
 「戦いが苦手だとか、怖いとか言ってらんねぇんだよ。お前らだってそうだろう」
 「そうね。少なくとも私は……あなたを必要としているわ。昔も、それに今もね」

 ざわっ。
 後ろの外野が何やら騒いでいるが気にも留めず、カノンは毅然と続けた。

 「必要とされているなら俺には応える義務がある」
 「無理に応える必要もないのよ?」

 凛とした翡翠色の眼差し。その奥底に燻るものを、シュミットは知っている。
 彼女は頑固者で。
 分からずやで。
 自分の決めたことは何があっても曲げない。
 そして人を突き放すことを言う割には、その埋め合わせは自分でやろうとする面倒くさい女だ。
 だから、あんまりにも不器用だから。自分が言ってやるしかない。
 彼は人目もはばからず、目一杯声を張り上げた。心のうちに沈んだ何かが久しく身体を貫いて突き動かしていた。

 「……これは一医療従事者としての義務じゃない。まして、男だからとかでもない。
俺自身が……そう望んでいるんだ。だから任せてくれ」
 今日初めて、彼女はほんのちょっとだけ、驚いた顔をした。
 そして、心の底で少しだけ揺らいだ。すっとまた微笑む。
 「あなたがここまで言うなら、大丈夫そうね」
 「それにな、こんな年頃の娘たちを連れ回して危険な冒険に出ようなんて、やっぱお前正気じゃないぜ」
 「あら、そう?」
 「男が一人くらいついていた方が安心だろ?」

 聞き耳を立てているミスティ、クレス、千里の眼差しが一斉にアシュリーに向く。
 カノンはやっぱりとぼけたフリをして、「……お金のためじゃなかったの?」などという。
 「いやいやそれもあるが!」
 「…………じゃあお金のためでいいわ。あなたって、素直じゃないしね」
 「悪かったな」
 「そういうあなたの素直じゃないところ、意外と面白いんだけどね」
 「人で勝手に面白がるんじゃない」
 「ふふっ。さぁ中に入ってよ。
顔合わせしておく必要があるし、命あれば長い付き合いになるんだから。お互い仲良くなって損はないはずよ」
 「そうだな……」

 シュミットがそそくさと御簾の中に入ると、何故か低姿勢で聞き耳を立てていた一行が一斉に飛び起きて、やはり何故か満場の拍手で迎えられる。頭端を掻きながら頭を下げまわっているシュミットを見て胸を撫で下ろすと、カノンは追加の酒を注文する。
 「わぁーい!メディックさんだ!」はしゃぎまわるクレス。千里はポツッと一言だけ、「……やはりこうなる運命なのね、貴方って人は」と呻く。カノンが外に行っているこの中でただ一人面識のある千里がこの仕打ちだ。シュミットは顔をしかめて頭をぐりぐりした。
 「千里てめぇ」
 「別に他意はないわ……」 こめかみに両拳骨を入れられても表情一つ変えない。悟りの境地に達しているのか、頭だけゆっさゆっさと揺れる様は何ともシュールだ。
 「お前のその、なんてーの、ポーカーフェイスってやつ? あーもう東洋人の面は何考えてるか分からねぇ。
お前だって俺の事笑う割にはあいつにノコノコ首輪の手綱握られてるじゃねーか」
 「私は望んであの人の所有物になったんだもの……だから」
 「だから?」
 「付いていきたくなる気持ち、ちょっと分かるわ。ちょっとだけ、ね」
 「そーうでーすかーぁ……」
 「あと、一つ付け加えることがあるわ」
 「なんだ?」
 「アシュリー、彼は男性よ」
 「へ?」

 千里の頭をぐりぐりしたまま、アシュリーの方に向き直る。あんぐりと口をだらしなく開けて指を指した先には、紫紺の髪が綺麗で、線の細い――男がいた。
 狼狽した指先がプルプル震えて、顔に行って、胸に行って、股間に行く。
 こっくりと恥ずかしげに、彼は頷いた。
 (おいウソだろ)――冷や汗と共にそんな言葉が浮かんでいるシュミットの顔は、傍目ではさぞ間抜けだったことだろう。

 「あ、はい。一応」
 「あれ、マジか……とんだ失礼をしましたまさか男性だとはつゆ知らず」
 「いえ、よく言われますから……」
 「確かめてみたらいいんじゃない」
 「千里、お前いい加減黙れ」
 「触診」
 「しねぇよ」
 「しょくしんって何千里―?」
 「それはね……診断と称していやらしく身体中を撫でまわすことよ」
 「おい、いたいけな幼女に邪悪な嘘教えんな。それに俺にそんな趣味はねぇ。
クレスちゃんもこんなうそつきお姉さんの言葉信じちゃダメだぞ?」
 「千里はあんまり嘘つかないよ? もともとあんまりしゃべらないからね!」
 「あれっ」
 「好きそうだと思ったのに……」
 「お前そういうキャラだったっけか……」
 「何故かしらね……あなたの顔を見たら、冗談の一つでも言いたくなったの」
 「再会を懐かしんでくれるのはありがたいが、程々にしてくれ。お前の言動はいかんせん、冗談と本気の区別がし難い」
 「ふふふ……」とはいえグラスをからんと傾け蠱惑な表情をしている姿は、余りにらしくない。疑問は戻ってきたカノンの一言で氷解した。
 「ああ、こいつ飲むと饒舌になるわよ」
 「そういえばそうだった」

 そうこうしているうちに、隣の宿の女将の協力もありあっという間にテーブルは食事と酒で一杯になり、夜は更けていく。
 この後シュミットは酔っぱらった千里と鯨飲馬食極まるカノンの相手を延々とする羽目になり、ミスティはクレスの遊び相手にされっぱなしであった。明日から迷宮を旅するというのに何とも享楽的だな――アシュリーは思ったが、今でこそ楽しめる享楽というものもある。だんだん混迷を極めていく宴会の席を眺めつつ、自分も一杯呷る。
 だが突如、焼け付くように強烈なアルコールが喉を襲った。注文を間違えたかと思いグラスを見れば、クレスが勝手に継ぎ足しているのが見え――そこで暗転。意識が完全に途切れた。

 「アッシュリー?」
 「弱すぎるわ……」
 「お客様の中にお医者様はいませんかぁー♪」
 「ああもう、お前らどけ!一体何飲ませたんだっておいこのラベル……」
 「あ、それ私の酒だわ」
 「カノン、お前こんなもん飲んで平気なのか」
 「まぁね。それより早く洗面にでも連れて行かないと」
 「五人になっちゃいますよぉ?」
 「お前らというやつは……」
 「幸い男性がついていることだし」ニヤリとカノンが邪悪な笑みを浮かべた。「任せていいわね、メディック」
 「衣服を脱がせて様態を確認しないと」
 「千里、お前まだ言うか。ええいもういい。俺が洗面に連れてく!」

 











 アシュリーが目を醒ますと、宿屋のベッドの上に居た。
 心地よい夜風にたなびいて、薄いカーテンがベランダから流れている。それを眺めているうちに、自分の意識が何処で途絶えたかを思いだす。
 そうだ、自分は宴会の席で――酔っぱらって倒れたのだ。少し度数が上がったくらいで情けない話だ、彼は自分のアルコール分解力の無さを恨むように溜息をついた。誰が運んでくれたのだろうか?
 疑問に応えるように、優しい声が耳朶を打った。寝惚け眼のクレスにベッドを占領されたシュミットがベランダの椅子に腰かけている。続いてクレスも気づいたようで、ベッドにうずもれた頭を上げた。
 「気が付いたか」
 「……あ、アシュリー起きた」
 「あなたは、シュミットさん」
 「この嬢ちゃんなぁ、あんたの酒にめちゃんこ強いの混ぜちまったのよ」
 「ごめんなさい……」
 「このお兄ちゃんお酒弱いんだから、次は気をつけなきゃな。よしよし」
 「うん」

 クレスは今にも泣きそうな顔で謝るので、アシュリーも起き上がって頭を撫でてやるしかない。
悪気はなかったのだろう。貴重な戦力、天才的な術師とはいえ、中身はしっかり年相応の少女だ。それを確認できただけでも、一応の意義はあったと思える。というよりも、そうでも思わないとこのギルドではやっていけない、というべきか。
 すっかり頭も夜風に冷やされて明瞭としてきたので、アシュリーもベランダに出ることにした。
 椅子が二つ並べられていて、シュミットの膝元にはちょこんとクレスが乗っかっている。豊かな草むらから響く虫たちの音が耳に、窓から見える悠久の自然と星空、月光が目に沁みる。
 迷宮の中では弱肉強食の自然も、こうして視る分だけには綺麗だ。おのずと吐息が出る。

 「……すまねぇな」
 「え、何がです?」
 「昨日までここあんた一人の部屋だったろうに、狭くしちまって。
いや、邪魔なら家に帰るんだ。診療所、すぐ隣だからな」
 「いえ、こうして賑やかなのも、いいものです」
 「……隣の女組はもっと賑やかだろうな」
 「……今頃カノンさんと、ミスティさんが元気に殺し合ってるんでしょうか」
 あの二人は仲がいいのか、悪いのか。何故だが笑い狂いながら両刀を振り回すミスティにそれを迎撃せんと鎚を振りかぶるカノンが容易に想像できてしまう。恐らく、その両方なのだろう。片方はただでさえよく分からない人だ。
 悪人なのか、そうでないのか。そうでないというには余りに胡散臭すぎて、悪人と切り捨てるには時折驚くほどの無邪気さを振り撒く不思議な人――それがアシュリーから見た、ミスティの第一印象だ。妙に子供付き合いがいいのも鮮明に残っている。
 きっと付き合いの長いカノンなら何かしら知っていると思ったが、意地っ張りの彼女の事だから口付けば悪口しか出てこないだろうと想像して、アシュリーはぷすっと笑った。

 「シュミットさんは……良く知っているんですね」
 「ん、あいつらのことか?」
 「ええ。僕がここに来て、日が浅いからかもしれませんが」
 「そうでもないだろ。あんただって俺の知らない、このギルドの事を沢山知ってるはずだ。
カノンは暫くぶりに顔を見たし、千里だってそうだ。いつも間近で面合わせてるあんたの方が分かっている勝手もある」
 「そういうものでしょうか」
 「人をどれだけ知っているかっていうのは、単純な測量で比べられないからな。
付き合いが長いからこそ、許せないこともある。見えないこともある。そう考えれば、あんたを副指揮においてるカノンの判断は適切なんだろうさ」

 シュミットの一言で、アシュリーは彼女との出来事を思いだす。
 世間知らずで右も左も分からない、若輩の剣士にギルドとしての生き方を指針してくれたのは彼女だ。
 ギルドに入りたての頃は「これだからお坊ちゃんは」「どこまで甘ちゃんなんだか」「女々しいのよあんた」とか、様々な罵倒も当初は受けた。どんなにか男らしい振る舞いを意識しようと思っても、男勝りなカノン相手には中々うまくいかなくて。
 それでも彼女は溜息をつけながら、世話をして回ってくれた。過保護とも言えるくらいの仲間思いで、それを素直に打ち明けられない無器用者。その認識は今でも間違ってないと思える。
 「そうそう!アシュリーは、私みたいに頭固くないから何でも安心して任せられるって、こないだカノンが言ってたよ!」
 クレスもシュミットの膝でそんなことを喧伝する。
 「『育ちがいいから、私みたいに問題起こさないし』とかも言ってた!」
 「はっはっは」噴き出すシュミット。「そいつは皮肉が利いてるな。ちゃんと自覚してたかー」からからと分かって、思い出したように真顔になった。「ちょっと待て、あんた確か名前は……」
 「アシュリー・リリエンタールです」
 酒の席で聞き流していたファミリーネーム。それを聞いて、途端に疑念は確信に変わった。同時にシュミットが瞳の色を変える。神妙な表情だ。はばかるように、伏目で静かに言った。
 「リリエンタールって、あの、一子相伝の神剣使いかよ」
 「そう呼ばれる時もありますね……尤も、僕なんて落ちこぼれもいいところですが」
 「ねぇねぇおじさん、神剣使いって?」
 「お、おじさん……」
 「じゃあ、おにーさん」
 「それはちょっとこそばゆいな――ええとな。リリエンタールってのは、剣術の極意を伝承する名家の一つだ。
古くから血族を大事にして、滅多なことじゃ俺ら平民の前には出てこねぇ。依頼は概ね王家からやってくるっていうか、リリエンタール自体が一つの王家みたいなもんだからな……。本来なら危険な冒険業なんざこなさなくても一生食っていけるウチなのは確かだ」
 「へぇー。ってことはアシュリーって……」
 「王子様ってこったな」
 「今は違います。ただの一介の剣士ですし、それでいいんです」
 「……あんた一体何をやらかした?」

 王家が身内を追放するなんて、余程の事態だ。本来ならまったく人生において接点の無い青年が目の前で宿を共にしていることにシュミットは興味と、警戒を隠しきれなかった。まして、リリエンタールは数百年謎に包まれてきた剣の最高峰と言ってもいい家柄だ。その血族を見るだけでも、天人が下界に降りてくるようなものだ。
 アシュリーは小さく一呼吸おいて、意を決したような顔で静かに語った。
 
 「殺さなくてはならない、相手が居ます」
 「……身内か」
 シュミットはその一言で概ねを悟った。
 リリエンタールが消さなくてはならない相手、つまり同格、或いはそれ以上の腕前を持つ獲物。
 そうなれば、ただの人間ではないことは容易に想像がつく。可能性があるのは、身内の離反――それの抹殺。
 一子相伝の神剣が望まぬ禍種は、潰えねばならない。
 「……はい。僕の実の、双子の姉です。
彼女は取り返しのつかないことをしていきました。僕より才覚もあって、将来も約束されていました。
ですがある日……自らの手で、自らの同胞を……」
 「そんなことがあったのか……」
 「姉の姿は忽然と消え、文字通り血の海の現場で息があったのは僕だけでした。何故僕が生きているのか、今でも分かりません。姉の剣は完璧で、とどめは確実に刺せたはずでした。
真っ先に疑われ牢に放り込まれて、数日後には磔刑に処され斬殺される運命でした。しかし皮肉にも……姉の生存が確認されたんです。
彼女は次々と、優れた剣士たちをその手にかけています。そして、彼女の命を刈り取る役に選ばれたのが、同じ剣技を継承した僕だったんです」
 「つまり……あれか。あんたが姉を殺さなければ」
 「はい。僕の処刑は予定通りに遂行されます。血族の面子を保つためには、仕方のないことです」
 「なんてこった……殺すにしても敵は最強の剣技継承者か。とんでもねぇ貧乏くじだ」
 「はい……」

 未だに、姉が何を考えてそんな惨劇を引き起こしたのか、アシュリーには理解できない。いや、姉が何を考えているかを分かった試しなど、一度も無かったかもしれない。
 アシュリーにとって、彼女はただ一つの目標、到達点だった。星々よりも流麗で、風よりも速い剣で、守るべきものを守りたかった。しかし、その願いは思い出のただ一点を境に、脆くも切り裂かれ、血だまりに沈んでいる。もう遠い昔のようだ。
 迂闊なことは言えない、そうシュミットは思った。華奢で、ともすれば女性ともとれる青年を、重すぎる使命が枷のように彼を繋いでいた。一つだけ、訊くことがあった。
 「……勝算はあるのか」
 「……正直言って、今の僕は足許にも及ばないでしょう。今の腕のままでは、数太刀も受けられずに間違いなく死ぬでしょう」
 「剣に殉ずるつもりか?」
 「……僕らはそう教え込まれて、育ってきました。ただ今は――迷いがあります」

 そういい、アシュリーは不安そうな目をして顔を落としているクレスの小さな手を握った。
 小さな手。だが、暖かい。アシュリーは険しい顔を一瞬だけ止めて、顔を上げたクレスに小さく微笑んだ。

 「初めは、剣を磨くためだけにここに居ました。ですが今は――たくさん。失いたくないものができました。
僕は弱くなったかもしれません。剣として生きれない神剣に、価値はないのかもしれません」
 「そんなこと言わないでよ!」クレスが反駁した。真っ直ぐと見据えて言った。
 「アシュリーが死んだら、私悲しいよ。一緒に遊んでくれる人も、買い物に付き合ってくれる人も、肩車してくれる人も減っちゃうよ」
 「…………」
 「――まぁ、なんだ。俺にあんたの抱えてるものは重すぎて、これっぽっちも理解できないかもしれねぇ。
だが、あんたは間違ったことをしていない。大切なものが、失いたくないものが出来るのは、人間として当然で、誇れることだ。
例えそれが弱点になろうともな――あんたは、迷っていいんだ」

 今になって気付く。
 迷い。カノンがいつも自分に向けて口にする言葉だ。だがその響きは、何処にも軽蔑を含んではいなかった。
 もっと迷え――そう言っている気がした。
 
 シュミットは仕方ないな、と言わん顔で溜息をついた。

 「――若いうちはいっぱい悩んどけ。迷っとけ。そのうち迷ったり悩んだりできなくもなる。今のうちにたくさん悩んで、しかるべき時に決断できればそれでいい。
それに、このギルドの連中は、多分な。みんなあんたが好きだ。
背負ってる重いものも、分けられるかもしれねぇ」
 「ですが――これは僕が解決しなくてはならない問題です」
 「そうだな。だが人は一人で強くても、ただ悲しいだけだ」
 「悲しいだけ……ですか」
 「俺たちは、一蓮托生だからな。
付き合うなら地獄まで付き合ってやるぜ? それであんたが救われるならな。そうだろクレスちゃん?」
 「うん。私アシュリーが死ぬところなんて、見たくないもの。私が印術で守ってあげればいいんだよ」
 こんな時には、いたいけな幼子の声援が何よりも頼もしかった。
 「二人とも……」
 「あんたのお姉さんが幾ら強かろうが、それは所詮一人の強さだ。
だがあんたには、六人も……いや一人怪しいか? 仲間がいるんだ。頼もしい連中がな。有効活用してくれよ」
 「…………ありがとう、ございます……」 照れ隠しに顔を沈めたが、これが仇となった。クレスが糾弾してぽかぽか頭を叩いてくる。か細く、無力な拳だが、どうしてか心に沁みるように痛い。
 「ほーらー、そうやって、すぐたにんぎょーぎ!」
 「幼女が核心をついたな。そうだぞアシュリー。お前はもっと、俺たちと近くていい」
 「……はい!」
 「あんたもそんな風に笑えるんだな」 さっきまでの社交辞令的な表情とは打って変わって、明るく綻ぶそれを見て、シュミットが満足げに頷く。「いい顔になったじゃねぇか」
 「――それ、さっきのカノンのセリフ?」
 「ぎくっ」
 「大人って、ずるいよね。いいとこ真似するんだもんね」
 「いやいやいや、これには訳があってだな? っていうかいいじゃねーか!
いいとこどりの何が悪いんだ! 大人舐めんな!」
 「ふふっ……」
 「まったく――」
 「シュミットさん、クレスも。僕も踏ん切りがつきました。僕はまだ、死にたくない。新しく守るものも出来ました。
だから――僕は。この剣で、皆さんを守ります。必ず皆さんも守れるようになって、姉さんを斬ります。
もう誰も、不幸にしません。自分の命で支払うのも――まっぴらごめんです。
幾らでも悩んで迷って、それで鍛えた剣と心で、必ずや生きて使命を果たします」
 「ふふん、やっと剣から人になれたか」
 「アシュリー、私も頑張るよ! もっと背も高くなって、術もうまくなって、みんなと一緒に戦えるようになるよ!」
 「やれやれ――」 シュミットはぴょこぴょこ跳ねるクレスに圧迫されながら、呻いた。「おじさんになるとお前らみたいに理由なく出てくる空元気ってやつがもうなくって、いやになっちゃうね」
 「枯れるのが早すぎませんか」
 「おにーさんっ」
 「おいやめろ」
 「それにさそれにさ!」 ベッドにふぁさっとダイブするクレス。「まだまだ大人始まったばっかりでしょ! シュミットさんがおじさんなら、カノンもおばさんだよ!」
 「おい、やめとけって。あいつ俺より12も若いんだぞ! おばさんなんて聞かれたら、どんな仕打ちが待っているか――」

 「へーぇ」

 居てはならない人物が、そこには居た。
 いたずらしにきたのか男部屋の扉をピッキングして闖入したミスティが、忍び足でアシュリーの後ろで固まっており、それを追撃しに来た金髪の城塞騎士が、人の背丈ほどもある鉄鎚を携えて、フル装備で廊下に立っていた。ひきつった笑みがこれから起こる惨劇を約束している。後ろで廊下の壁にもたれかかっている千里が、ハァとため息をつく。

 「……これは血の雨が降るわね」
 「目標変更ね。シュミット、あんたちょっと、表に出てくれない?」
 「おまっ、ちょっ」
 「部屋も廊下もー、返り血で汚したくないしー? 弁償するの私だしー?」
 「――これで五人になりますね!」
 「あわわっわわわわ。目が笑ってないぞカノン!冗談も顔だけにしとけ!」
 「へー。私の顔が冗談に見えるんだ。今すぐ挽肉になる? それとも、そこのベランダから直接降りてくれるの? ええ?」
 「ふざけんな、俺はまだ死にたくねぇ」
 「……逃がすかっ!!」

 ヴンッと万力を込めて振り払われた巨大な鉄の塊が風を唸らせこめかみを掠めて、アシュリーは生きている実感を久しく得た。
 この女性は、正直言って迷宮の魔物の方がまだ扱いやすいとすら時折思う。
 対するシュミットは鉄鎚を躱すと軽やかにベランダ伝いに飛び降り、全力で夜の街を疾駆していった。不養生の医者とは思えぬ機敏な動きだ。生命の危機に瀕して本能的に反応したのだろう。
 欠片も部屋の壁ならびに装飾具に当たらなかったのが不幸中の幸いだろうか。振り切ったカノンが忌々しそうに舌を打つ。
 「チッ」
 「……殺りそこねましたね!」
 ミスティがこれ以上になく楽しそうにガッツポーズ。人がトラブルに巻き込まれるのがたまらなく嬉しいらしい。
 「ミスティ、貴女その変換でいいの」窘める千里。
 「流石に逃げ慣れしてるな……ミスティ!」
 「はぁーい♪」
 「一時休戦。共同前線を張ってあの男を狩り出すわよ。私は足が遅いけど、あんたなら追いつける」
 「ほいさー♪」

 だとだとと二人は烈風の如く廊下を駆け、後には静寂と開放されっぱなしの扉と、クレスとアシュリーと千里が残された。

 「ねぇねぇアシュリー」 ベッドに正座のままクレスが袖を掴んで無表情に言う。
 「せっかく仲良くなれたのに。おじさん、死んじゃうのかな」
 「…………さぁ」

 暫くは眠らない方が良さそうだ。
 アシュリーはつくづくそう思った。寝首にハンマーが落ちてくればシャレにもならない。
 ところで。

 「……ミスティさんは何で襲われてたんです?」
 「それは貴方の頭の上にかかってる物を盗んだからよ」

 そういえば嫌に視界が白一色だ。アシュリーはこれが夢であることを願ったが、悪夢はもうしばらく続くらしい。

 「千里さん……これ、上です下です?」
 「手に取って確かめればいいと思うわ」
 「ぱんつぱんつー」









 豊穣の街、タルシスには今日も朝がやってくる。
 遥か久遠の地に聳える、世界樹を見据えて。

 街の中心に建てられた統治院の門をくぐり、ギルドリーダー、カノンは四半刻ぶりに日の目を浴びた。結局昨日の盗難品はかえってきて、男二名を籠手で殴り伏せるだけで済んだのは寛大な措置だったろう。気がつけばミスティは何処かに行方をくらましていた。ちゃっかりしたやつだ。
 昼ごろに統治院に来ても、巨大な建造物の正面はそのほとんどが影に覆われている。図体がでかいだけの格式ばった窮屈な場所だが、彼女に任を託した辺境伯は面白い人物で好感が持てた。少しこわもてだが、それくらいでないと威厳というヤツは保てないのだろう。
 お偉いさんも大変だな、などと思いながら象牙色の正面路を歩いていると、門壁にもたれかかっている千里が見えた。
 門の陰でいかにも涼しそうな顔をしているのが忌々しいが、彼女は元からそんな面である。今は昼時だからか少数の守衛と彼女くらいしか居なかったが、汗ひとつかかずに佇む同職の連中は間違いなく手練れだ。カノンは李下で冠を正さぬよう、慎重に石段を下りた。その手には依頼書が握られている――いよいよ活動開始だ。

 「……手筈の程は?」
 「許可が下りたわ。森の廃坑に鉱石を取りに行く」
 「森の廃坑……」
 「ここから西に四百。ごく至近にある迷宮よ。魔物はウジャウジャ、危険を冒してもロクなものが採れないから一般人は立ち入り禁止」カノンは顔をしかめるフリをした。千里が不敵に口を歪める。
 「へぇ……腕試しという訳?」
 「そこそこ深入りする必要があるわね。これくらい達成できずして何が冒険者か、ってところね。ミスティは?」
 「朝から修練場で、腕っこきの兵士たち相手に訓練してる。まぁ、そろそろ――って、噂をすればなんとやらね」
 「おっまたー!」
 軽快な返事と共に駆けよってくる娘が一人、大理石の広場にミスティが合流する。両手には昨日と同じ曲刀が握られており、レザーのホットパンツ、ジャケット、アームカバーにニーソックスといういでたちだ。傍目では全く戦闘する装束に見えないが、彼女らは最小限の軽装と敏捷性をはじめとした生存本能を駆使して生き残る。彼女らに、防御という言葉は無い。動作の全てが攻撃であり回避である。ジャケットをはじめとした装飾具には毒塗の投刃が仕込まれていて、彼女ら自身も毒物耐性を薬剤で高めている――だからこそ、精神が負荷に耐え切れず崩壊し、狂人化する者が絶えないのかもしれない。
 「あら、リハビリは終わったようね」
 「いやはや、いい運動になりましたぁー」と背伸び。健康的な小麦色の肌だが、不思議なことに汗はかいていない。今の今まで戦闘をしてきたのか怪しいくらいだが、彼女の握る巾着とその中から響く硬貨の囀りが戦勝者であることを静かに物語っていた。
 「小遣い稼ぎか……」
 「千里さんもいっちょどうです? いいセンいけると思うんですけどー」
 「あいにく博打に興味はないわ。私の矢は――」
 「カノンさんのためだけに、ですかぁ。健気ですねぇ~ひっひ」
 「…………今日は度を超して野暮ったいわね、貴女」
 「よく言われます」
 「ミスティ、他の三人は?」
 「ああ、もう来ますよ。おーいおーい」
 ミスティが手を振ると、長い階段の下で小さく見えていた三人組が駆け足で寄ってきた。余りに長いためかシュミットは既に息を切らしていて、カノンの冷ややかな視線が刺さる。クレスはアシュリーの背中に掴まったままだったので楽チンだ。
 「はぁ……はぁ……あんまりおっさんに……無理させんなよ、はぁ」
 「あらそう。あなたがおっさんなら、私は――」
 「わーっ! もう勘弁してくれ、もー勘弁してくれ。分かったから、得物をしまえ。
いやしまってくださいカノンさん。ホント、冗談に見えないんで、お願いします」
 「暫くは大目に見ておくけど体力つけときなさいよ」
 「はい……」
 「カーノーンー。ここでの初仕事決まったの?」おんぶから降りてクレスが鎧袖を掴んだ。
 「ええ。ここから西の街門を真直ぐ行って、森の廃坑に行きます。
 近場で開発されているからか魔物は低級だそうだけれど、大きな主狒々が居ると聞くわ。くれぐれも慎重に、何かあったらすぐ知らせること。危なくなったら逃げる。手遅れになってからじゃ知らないからね。助けが欲しい時は遠慮しないこと、以上。この任務に私たちの今後がかかってるんだから、気合入れていくわよ!」
 「やれやれ、楽に済むといいがな」治癒薬入りの試験管を口に咥えながらシュミットがぼやく。白衣のコートにはあらゆる危機に備えた薬品と医療器材を隠しているが、未知の世界においての最大の武装はその脳に刻まれた膨大な自然知識だろう。
 「いざーっ、世界樹の迷宮へー!」クレスは相変わらず楽しそうだ。ローブの裾をまくりリズムカルに大理石を杖で小突く。
 「……あんまり張り切ってバテないようにね。私はいつも通り、狙って撃つだけ……後ろは任せて」鋼鉄フレームの機械弓、コンパウンドボウを携えて、千里が静かに窘める。小柄だがその貫禄は何人も近づかせないと宣告するかのようだ。
 「さてさて、今回はどんな化け物が出てくるのでしょうか? うずうずしちゃいます」相も変わらず不穏げにミスティは囁いた。「一番の化け物はあんたよ」容赦ないカノンの突っ込み。
 「僕もこの剣で――出来る事をします。この手の届く限り。そして守るべきものを見失わないように」
 そうアシュリーが言ったとたん、背中ににぶい衝撃が走った。カノンが肩を抱いて籠手で小突く。
 「まぁそう気張りすぎるなって。あんた一人頑張ってもしょうがないんだからさ……頑張る時はみんなで頑張る、バカやる時はみんなでやれば何倍も楽しい。それがギルドだ。そうだろみんな」
 「「「「おーっ!」」」」「いーひっひ」 ……一人だけヘンな笑いが漏れている。誰かはすぐに分かった。びしぃっとカノンは指さし、「こらぁミスティ!協調性!」檄を飛ばす。
 「協調性?」

 「そう、協調性。あんたにはそれが足りない。さぁもう一度。
いざ行かん、悠遠の世界樹へ! 剣を掲げ誇りを胸に!」

 副兵装の長剣を引き抜き、カノンは遥かしじまの果てに見える世界樹に突き立てた。
 全員が声を揃えて各々の得物を空に掲げる。

 「「「「「「おーーっ!」」」」」」

 今度はしっかり揃った。カノンは満足げな表情で歩き出す。足取り軽く、それでもしっかりと。甲冑が一歩一歩踏みしめるたびに確固たる実感を与えてくれる。
 冒険は始まったばかりだ。これから辛いことも、楽しいことも、みんなで乗り越えていく。それが絆だ。
 そう――“私たちの物語”は――これから刻まれてゆく。
 ずっと、みんなと一緒に。
                               fin

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  1. 2012/07/12(木) 21:54:56|
  2. 未分類という名のカオスボックス
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
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  1. 2012/07/13(金) 12:12:17 |
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