野郎共、お仕置きの時間だ

なんのこたぁないダメ強化人間LayeⅡ(らいつー)の独り語散るgdgd生活ブログ なまはげだって少子化で寂しいんよ。

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【Viol Viera】#03

+WARNING+オリジナル小説+WARNING+

・本文は完全一次創作です
・苦手な方はスル―推奨
・以前の話は右下カテゴリのオリジナル小説より
それでは、どうぞ
【Viol Viera】#03

















月の光が、錆びれうらぶれた廃工場の窓から放射状に中を映し出している。
蒼白い照明のもとに、蠢く大きな影―汚れた白銀と、煤に曇った鋼の塊は彷徨っている。ゆらりゆらりと金属の擦れた重い音を奏でながら。
それは、餓えていた。
封印の呪詛が老朽化に因って崩れ、人々の心身から畏怖と魔への抵抗が姿を潜めた今が好機とばかりに呪縛から抜け出し現世へと舞い戻ってきたが、其処にもはや「それ」の居場所はない。
見覚えのない建築物と一体化した、玉座の主のいない王宮。
馬車は既に廃れ、鉄の塊が通りを跋扈する。
行き交う誰もが、自分の姿が見えずに各々の歩みを進める。
そして何より、この世に生み出した「72の傑作」の数々と己が工房。
自分の魂を込めたと言っても過言でない、目に刺し入れても痛くないとも言えるそれらは、自分の魂と主に封印され永遠に手元から離れない筈であった、が。
この時代の無知な亡者どもは金欲しさに業物達を墓荒らしの如き所業で掠奪し、売りさばき、或いは自分のものとした。

何一つ業物のなんたるかも知らぬ俗物どもが、自分の手塩にかけて生み出した傑作達を、
脂ぎった手で握っている。とても許せるものではなかった。

焔の神を宿す窯は既に埋められ姿すらも拝めなかった。
もう、剣を打つことはできない。

世界が変わろうと、人が変わろうと、自分が変わろうと、断じて譲れぬものが。
それの中で、「何か」が音を立てて崩れ去った。言い知れぬ哀しみがそれを貪欲に蝕んだ。

もはや墓荒らしひとりの血では贖えぬ。
散らばった愛する業物達の全てを取り戻し、奴らにもう一度「自分」という存在を知らしめるため。
鮮血と飛散る肉片の向こうに、もう一度畏怖を思い起こさせるため。

再び鬼となる覚悟は出来ている。
次は貴様らが思い出す番だ。
血は既に上げられた。動き出した歯車は、もはや誰にも止められぬ。

―返してもらうぞ。

「それ」は、霊体化した自身の魂を巨大な鉄の人形へと移し始める。

既に悪魔と堕し、ひとつとなったわが身。
痛みも感じぬ、死も訪れぬ。 斬り裂くことも穿つことも、叩き潰すことも叶わぬ。
一体誰に止められるというのか。

その微かな疑問を、僅かな思考に残し甲冑は動き出す。
今宵の犠牲を求めて―

―そのときだった。

廃工場の上を、さっと流星が駆け抜けた気がした。あまりの眩さと、嘘のような速度と距離に、思わずそれは振り向く。
しかしそこには何もない。一瞬の逡巡の見せた幻と、最初はそう思った。

・・・・・・気の迷いか。

そう思い直し、踵を返して重心を入れ直す―

「何処にお出かけかしら」

今度ははっきりと聴こえた。若い女の声。廃墟に響き渡る静かで―何処か年不相応な余裕と優雅さを併せ持ったような、其処に似合わない声。
それは振り向く―その先に、しっかりと何者かは佇んでいた。
静寂の暗闇、赤く錆びついた鉄と煉瓦、何処からか紛れこんだ黒い幾つかの羽根。埃と打ち捨てられ風化した空気の中に、彼女は舞い降りていた。
偶然か或いは誰が残したかとも知れぬ大きな鉄骨が地面に突き刺さり、十字を描くように床から聳えている。神の子を磔にしたものと同じ形をした赤錆の十字架の上で、不敵にも彼女は腰掛けている。
金色の流麗な絹糸が、肩をすぎて腰の辺りまで垂れていた。月光がその姿を白く映し出す。

【・・・・・・女、只者では、ないな?】

「只者じゃないのはお互いさま。こんな時間に廃工場に座ってる女もいないし、首のない鎧がひとりでに歩いているのもおかしい」
【ふむ、それもそうだ】

音も無く忍びより、恐れも無く異形へと声を掛ける。それもこんな真夜中にだ。神経や感覚が、常人から程遠いのは直ぐに窺えた。それだけではない。
この女には―はっきりと見えているのだ。魂の輪郭が。全身から放出される、魔の流れが。それはこの女が魔とかかわりの深い、夜の住人であることを意味している。
そっと得物に手を掛け、衝突に備える。

【成程、我と同じく闇の弮族、或いは夜の住人といったところか】
「ご名答。 ・・・・・・といいたいところだけど、半分正解で半分不正解」


そこまで言ったところで、突如大気の流れが変わった。先程までゆらゆらと揺らめいていただけの女の周囲の空間が、何か焔に翳され焼け付いたように暴れている。歪む景色と色の無い敵意は純粋に凄みとなって、辺り一面を支配している。

「正直、あんたらと一緒にされるのは心外だわ」

魔力閾値上昇。臨戦へと移行した大気中の魔力が須らく女の周りを取り巻いている―まるで守る様に。

それは直感した。 この相手は魔女。魔と闇に通じ、術を以って尋常ならざる力を行使する弮族。只者どころか、長引かせてはいけない相手だ。
ならば―いまこの場で、全力を以って葬ろう。

長い得物を振り切り、いつでも突き刺せるように構える。距離は五分と五分。
相手の間合いは分からない―が、ならば向こうが間合いを顕す前に潰すだけだ。
先手必勝、いつだって戦は仕掛けた者の有利は動かない。
【何れにせよ、やる気なのだろう? ・・・・・・やれやれ、久しく現世に出れたと思いきや早々に魔女に目を付けられるとは、まったく月いていない】
「呑みこみが早いようで、結構。覚悟は出来てるかしら?」
【元より堕ちる処まで堕ちた此の身。今さら恐れるものなどない】
「上出来」

とはいえど、女相手に不意打ちをするも男の名折れ。それは相手が魔女であろうと変えられる趣向ではない。それは中世ならではの発想を以って、この結論をただちに下した。
我が最高の傑作―槍のように長く、研ぎ澄まされた両刃特大剣―アネクメネ(不可侵領域)を振りかざし、十字を切って宣告する。

【このノスフェラトゥ・ブラックスミス―魔に堕し死せようとも、戦いを挑まれて逃げはせぬ。いざ尋常に、勝負】

女はやれやれ古めかしい挨拶だこと、と呆れてみせたが、仕掛けようとする様子も無くそれに付き合ってもいたようだった。
一息の嘆息の後、機を合わせるかのようにがらんどうになった天井から降ってくる棺桶。
埃を白光の下に撒きあげつつそれは、ひとりでにぎぃと蓋を開けた。中から馬鹿のように巨大な弦楽器が姿を現し、女はそれを悠々と担ぐととんと肩で叩く。

―ジャキンッ。
一拍の後、それは得物の正体を把握した。
見たことも無い―恐らくこの時代の楽器なのだろう。それは長い胴芯の何処からか白い刃―断頭台に備え付けられたそれのような巨大な剃刀を迫り出させた。
血に飢えているかのように、白くそして残忍な―ぎらついた光を上げている。

女は事も無げなように再びそれを肩で担ぐと、仕方なさそうなつらに無表情という仮面を添え、冷淡な声で宣言をした。

「旋律の魔女の末裔、カーライア・セシリア・コンチェルト。ブラックスミス、貴殿のその首、貰い受けに来た」

【ふん、首などとうに刎ねられてしまったわ】

「それもそうか・・・・・・なんか新しい果たし文句、考えとく?」

この期に及んで、呑気なものだ。これから殺し合う相手にそんなことを提案してくる。
文字通り今まさに真剣勝負に臨もうとしていたそれは、出鼻を挫かれたというか見事に拍子を抜かれた気がした。

【・・・・・・それにしても、魔女とはみんなこのようなものなのか?少々浮世染みているというか】
「ああ、私がテキトーなだけ。じゃま、ぼちぼち始めましょうか」


それが思った以上になんとも軽い一言が発せられ、火蓋は呆気なく切って降ろされた。
そして、再び眼前の敵がなんたるかを再認識させられる。

――!

再び嘘のように展開される、そこにある全てを押し潰すかのような敵意。矢張り表面上は何と言おうとも、決して油断の出来るものではないのは目に見えていた。
そして何よりも、女は既に詠唱を開始していた―こればかりは看過できるものではない。
呪文詠唱―魔法の基礎にして、ときとして天地を揺るがすまでの力を行使できる儀式。
通常の空気媒体の召喚や発現と大きく異なる点は、その手順。
ただ空気を媒体として、或いは杖やホウキのようなものを媒介して発現させる場合、その場での投じた魔力量が直接契約対象へと渡り能力は開始される。
勿論悪魔や現象は支払われた以上には働かず、あくまで一時的や咄嗟なものでしかない。その分使い勝手もよいのだが。

対して詠唱召喚は、「言霊に術式を練り合わせて発する」、即席の儀式図なのである。
その複雑性は媒体召喚以上で、それだけに消費する精神力や魔力量も半端ではなく、時間もかかる―が、成功すれば「契約した相手の力を最大限に発現できる」のだ。
魔術者、或いは上級悪魔同士の戦闘では欠かせず、それ故に真っ先に潰さねばならない危険な芽。それは焦燥に駆られる。
このとき、女の詠唱は既にその70%を終えていた。

【――これは】
「―死を紡ぐオーボエ。血垂るチューバ。破滅への指揮と、首切り絃楽器達。牙を剥くグランドピアノ。そして惨劇の舞い降りるフィナーレ。
死を忘れるな、喰らい尽せ、斬り裂き肉片を飛沫とし舞台を染めろ。耳を澄ませ。聴こえる筈だ、恋しき血肉を求めるセレナードが」

即興と思しき言霊を連鎖させ、空気中と地面に縦横無尽に悪魔文字を奔らせる。辺りを取り巻くかのように飛来する悪魔文字列のベール。
それは本能的に詠唱の危険性を感じ取ったのだろう、気が付けば地を蹴り肉薄していた。
飛散る瓦礫。無慈悲に吹き荒れる、轟音。何百キロという超重量の質量、鋼が空を切り裂き魔女の懐へと踏み込む。
不可侵領域という名の超長剣で―虚空に紋章を刻む。

【やらせはせぬ】

女の音魔に対してそれが紡ぐは鋼の記憶。鉄と高熱の残滓。
本来鉄と焔に最も精通していた鍛冶師の霊は、手元にその殆どが無くとも記憶と執念だけを頼りに空に幾本もの刀剣を描き出す。
それは次第に膨れ上がって―黒い霧で覆われた巨大な硝子細工のように、宙空に停滞した。
「ミラージュ(蜃気楼)」―悪魔たちの間で一般にそう呼ばれる、簡易召喚術。術者の念じた通りに魔力を形作りあたかも物理的にそこに存在するかのように形成するこの術を、
「それ」は習得していた。
ミラージュは魔力錬度は勿論、思念の強さと鮮明なイメージ―精神力を重視する。術者がしっかりとした構図を持たなければ、それは輪郭すらも曖昧になって崩壊してしまう。
だが、目の前に召喚された無数の刀剣は黒水晶のように透き通っていて堅固だ。威力のほどは想像に難くなかった。


詠唱はまだ終わっていない。女は魔力の渦中で集中し、目をつむっている。

ここぞ好機とばかりにそれ―首なし騎士は、長剣を突きつけ全魔法剣に指令を出す。そうやって無慈悲に勝利を宣言した。
「我が血を啜り 殲滅の序曲を再び奏でよ―オーケストラ」
【串刺せ。レメゲトン】



詠唱終了と同時に目を見開く魔女。辺りに群がる魔が、形をなすその瞬間―
72の幻影刀剣と、一本の長剣が死肉に群がるカラスのように。女の居た座標を何度も穿ち続けた。









―【Viol Viera】―
―Witch of decapitation―

―aberration hunting file#03―

[Witch and Dullahan Blacksmith]














―邂逅の数分前―



眼下に広がる夜の街―明滅する人工灯と、均された土くれの上を往来する鋼鉄の馬車。
時代が如何様に移り変わろうと、魔女はホウキに乗って空を飛ぶ。
どんなに人々と世界が変遷しようと、古を知るものは形と姿を変えながら適応しているものだ。

―今、風を切り裂きながら滑空するホウキに立ち乗りしている輩は、紛れも無く魔女であった。

視覚的遮蔽―ステルスを展開している以上、一般の人間からは知覚できない。他に魔物が見受けられないので、事実上単独でのフライトである。
凄絶な風圧に髪を揺らしながらも、首に掛けているヘッドホンを耳に当て、オーディオプレイヤーの受信端末を魔力でいじる。
電子情報を変換しながらチューニング。空気中の思念波を拾えるように、これが本当の魔改造。

暫くするとノイズに混じって聞きなれたしゃくれ声がヘッドホン内に響いた。ガラサキのそれだ。
『・・・・・・聴こえるか? 大人しく無線なり持っていけばよいものを』
「ごめん、忘れちった」
『間抜け』
「・・・・・・こう、ドジって方がかわいげあると思わない?ちょっと言ってみて」
『マヌケ』
「・・・・・・あんたに期待した私が馬鹿だった」
『バカ』
「黙れ」

わざわざ思念通信越しに毒を吐くとは恐れ入る。不毛な会話のドッヂボールをしているともうひとつの声が飛んできた。


『・・・・・・おら、これから一仕事だってのに喧嘩すんな。お互い協力してなんぼだろ、お前ら』
『・・・・・・』
『ガラサキ、何とか言えよ?』
『カーラさんに黙れと言われたんでな』
『変なとこで従順なのな、おめぇ』
警部が真人間なのに言動がきちんと思念波として飛んでくるあたり、彼もまた隠れたところで律儀な男なのかもしれない。
いちいち他人の音声を拾って変換するのは骨が折れる筈だ。
そんなことは露とも感じさせないかのように、ガラサキは急に真面目腐った声で誘導を開始した。
『さて、目標は町外れの工場だ。元々例の鍛冶場があったところらしいな』
「方位は!?」
『あと23秒したらそのままの速度で右に4.7°旋頭しろ。本当に捉えてないのか?』
「私は近接向けだから」
『これだからインファイター魔女は』
上空で高速移動中にも関らず下の民家一軒一軒からの反応が分かる奴などどうにかしている。そもそも魔女でなくとも自分の身がかわいいのは当然なのだから、危機察知などは自分に関係あるだけの範囲で構わないのだ。故に私の感知範囲は周囲数十メートルほどしかない。尤もこれでもかなり広い方だが、彼の探知範囲-レーダーエリアはその遥か数百倍を行く。元より本能面で人間の何倍もの六感を持つ虫一匹一匹をばら撒き、相互にリンクさせたうえで編み物のように探査範囲とディティールを十二分まで底上げている。これも契約対象の特異性による大きな恩恵の一つだ。

ため息をつきながら、座標とホウキの進行速度・方角が一致したことを把握したガラサキ。後は暫くのオートパイロット・ナイトフライトを楽しむだけである。
そこまで来て、思い出した。例の鍛冶屋の件だ。
「で、続きをお聞かせ願いましょうか?警部さん」
『さっきの続きか』

ふぅーっと煙を吐くかのような掠れた音。警部はいつもの飄々とした態度は何処に行ったのか、ロウ・テンションで平坦と口を紡いだ。
『此処からは恐らく大きな意訳が含まれているぞ。学問の神様だって雷神になったりしとるんだ、バケもんと対峙した記録だから大袈裟なのさ』
「そういうのが一番信憑に値するわ 現に魔女だっているしね」
『成程な・・・・・・。
で、どっかに消えたノスフェラトゥだが・・・・・・どうにも二週間後辺りに王国に帰還したらしいことが報告されている。
頬が痩け、目が虚ろながらも焔を宿していた。襤褸に身を窶し背には大量の鉄刀を担いでゆらゆらと放浪していたらしい。
時折けたけたと笑い出したり言動が意味不明になっていたとある、もう完全にアウトだな』

恐らくは悪魔契約が完了した後だ。
鍛冶師が何を生贄にして力を授かったが知らないが、元が常人故に魔力に対する耐性は見込めない。推測するに、この時点で完全に「憑かれている」と見ていいだろう。
肉体及び精神制御は悪魔の方にある。肉体への配慮が驚くほどの薄いことはそのサインの一つだ。

「もうそうなったら最期。生半可な人間には切り離すことは出来ない。
骨と魂の髄までしゃぶりつくされて廃人になるか死ぬかのどっちか」

『どうやらやつぁ、後者の方だな』

芯まで弄ばれた肉体に必要意義を見いだせなくなった悪魔は、餓えて何れ他者へ牙を向ける。
今回もどうやら例外ではないようだ。

『そして暫くして、国内で初めて完成した銃器の披露会 セレモニーが大広場で行われた。
国王他ウン千、ウン万という人民と兵が募って士気を上げるための催しだ・・・・・・そして奴は、この時群衆に混じって国王を見据えていたー・・・・・・』
「・・・・・・」

自身を、そして愛する刀剣達を奪った「新しい戦場の主役」。
彼はこの大舞台でそれに復讐をしようと、画策していたのだろう。答えは分かりきっている。

『祭典が終りを迎え、歓声と祝砲のうちに幕を下ろすその間際・・・・・・群衆から襤褸切れを羽織った浮浪者が大舞台に躍り出た。
・・・・・・周りの民衆の胴を、刎ね飛ばしながらな』

無差別殺人、だ。
もっとも効率よく魂を刈り入れ、搾取できる・・・・・・最悪の方法。

『血と肉の雨を全身に浴びながら、奴はタガが外れたかのように踊り狂っていたという。
大きな、人の背丈ほどもある巨剣を片手で振りまわしながらな。尋常じゃねぇ膂力は恐らく―悪魔によるもの』

想像しただけで反吐が出る。
私達が普段歩いていたそのタイルの上には、大昔に流された血と魂たちの嘆きが沁み込んでいるのだ。
広場を歩くたびに僅かな違和感に駆られたことがあったが、それはそのときの名残か。

『王の護衛隊、また祭典に出た兵士たちは勿論得物―銃器で応戦を開始した。
鬼の如く迫ってくる鍛冶師に、何発も何発も発砲した。
だが不思議なことに、いくら胴体に鉛玉を喰らっても怯みもしない。怯えた奴から、一人また一人と、巨剣の刃のもとに叩き伏せられていった』

悪魔に繋ぎとめられた命は既に痛覚を失っていると見ていい。尋常ではない生命力と再生力で、多少の兵器では致命傷を与えることすら難しい。
それは既に生身ではなく、ただの人形でしかない。


『抵抗した全てのものが絶命し、残るは怯え立てなくなった王のみ。
そこで奴は言った。巨剣を突きつけて―【これこそが戦闘。この刃こそが神の授けた炎を宿す、究極の武具。お分かりいただけましたか】―何処か嬉しそうに、そう言い放ったとある』

「まったく、言うことやること何もかも的外れね・・・・・・戦闘じゃなくて大量虐殺の間違い。あんたが行使したのは神じゃなく悪魔の業。
で?王様は結局殺されたの?」

『此処からが良く分からんのだが・・・・・・当時お前のような強力な術者はみんな出払っていたらしい』

「まぁ、魔女狩りやら戦争に駆り出されもしたからね・・・・・・」

偏見と政治的な、卑劣で矮小な発想から端を発した魔女狩り。その影響で、魔女は急に数を減らしていった。その中には有力な名家や、高名な使い手たちもいる。
相手が化け物ならともかく、どうしても自分たちと同じ形をした―人間に牙を突きたてることができなくて、死んでいった者も。
そのおかげで17世紀―当時の国は極端に戦力が偏っていた。
『全ての希望を断たれ、恐怖に打ち負け立てなくなった王。にじり寄るノスフェラトゥ。
大きく容赦なく、巨剣を振るい上げ―両断するその直前に、異変は起きた。
王が震えながら構えた直剣―それを見たノスフェラトゥが、急に慄き始めた』

「・・・・・・そうか。きっと自己矛盾に陥ったのだと、思う」
『どういうことだ?』
「自分の刀剣を恋人のように愛していたのなら、きっと王の―そう、自分がかつて手掛けたそれを見て、人間であった頃の本能が息をふき返したのよ。
悪魔に支配されながらも直剣を壊してはいけないと自分の中でブレーキが働いて、二つのコントロール下にある肉体はその制御を失ったんじゃないかな」

辛うじて残されていた、人間としての記憶。残留思念。それが彼を思いとどまらせた。

『・・・・・・成程・・・・・・それで錯乱したノスフェラトゥに、好機とばかりに王はなけなしの力を振り絞って直剣を刺した。
銃弾にも耐えきった奴に、唯一己の武具だけが封印のキーとなった、と。
自分の脊髄を貫通するそれを見て、解せないことに彼は眠るように安らかに目を閉じた。
噴出した血糊を浴びながら、抱きかかえるかのようにその活動を停止した、とある』

「・・・・・・死体は始末しなかったのね?」
『その通りだ、いや・・・・・・正確には出来なかったというべきか。呪いの報復を恐れてのことだろうな。銃弾や剣戟、火炎、首切りですら消失しなかった遺体を彼らは畏怖し、広場の中央にオベリスクを立てて其処に埋め立てた』

オベリスク、というのはモニュメント(記念碑)のことだ。
花崗岩の一枚岩で構成され、四角錐の石柱となっている。 外壁には古代魔術語或いは神界語(天界語)で神への賛辞や王の名が刻まれており、
直に魔に対する抵抗力となるため、象徴としてだけでなく魔除け・魔封じとしての側面も持っている。
現代人の殆どは遺跡や記念碑としてしか見ていないが、永い年月を経たそれは十分に強力な結界として機能するのだ。

察するに、封じるしか手が残されていなかったのだろう。下手な戦力ばかりで殲滅が不可能、更に術者不足ならばなおさらそうせざるを得ない。

「ふーむ・・・・・・で、どういうわけか分からないけどそいつが300年ぶりに封印をブチ抜いて、今なお活動を再開してると」
『まぁ簡単にまとめるとそういうことだ』
考えられる要因は二つ。何らかの衝撃で封印機構がダメージを受けたか劣化したかで結界が弱まり脱走されたか、或いは何者かの手引きで封印が破られたか。
300年も石碑の中で眠りこけていたのであればとうに傷の程は完治している。状態は完全のものと見積もっていい。

・・・・・・厄介なことだ。

『目標地点まで残り15秒。用意はいいか』
「ま、やるだけやってみるわ。警部さん!」
『何か手伝うことはあるか!?』
淡々と告げるガラサキ、そして威勢よく返事をした現場唯一の生身の人間。相手が魔故直接的に関われなくても、やはり警察魂は居てもたってもいられないらしい。
でも安心して、人間にできる仕事はまだ残ってる。
「例のオベリスク近辺を調べて頂戴。私の読みが正しければ、何らかの跡が残ってる筈」
『了解した!・・・・・・死ぬなよ!』
「悪運だけには恵まれてるから心配いらないわよ」

目標地点へ到達。
高速で錆びれた工廠の上を風を切って飛来するホウキ。その上から軽快に踵を鳴らし飛翔。
両手両足を広げ、優雅にスカイダイビング。
夜空を舞う夜鷹のように、静かに、しなやかに。

パン、と弾けたかと思うと空中で無数のカラスとなって、黒い羽根を羽ばたかせて霧散した。













―そして時は工廠での邂逅に戻る―



崩れる瓦礫。迸る粉塵。
白亜の竜巻の中を邁進し次々と貫通していく幻影刀剣。
盛大な爆音と視界殲滅、針山の如く地面に突き立てられた何十本もの刃物を見据え、首なし騎士は終焉を確信する。
目標座標への着弾を確認。対象はその場から逃げる様子も無く、そのすべてを受け止め沈黙した。
魔女にしては呆気の無い最期だが―こういったこともあろう。詠唱中は須らく無防備なのだ、魔力補助の掛かっていない魔女など人の子と変わらぬ。

【・・・・・・残酷なようだが、これが戦いだ。相手が悪かったな】

魔力反応微量。完全には止めを刺しきれなかったのか、だが何れにせよ死に行く運命―
再び歩み寄り、巨剣を構えて貫かんとするその時―

ぱん、と何かが弾ける音がした。
一瞬遅れて視界を圧倒するフラッシュ。突風。
そして空を力なく舞う―「粉砕されたミラージュ」
氷解する。それの思考は即座に状況を掌握し、次の動作へと映った。
何十本ものミラージュが突き刺さった筈のそこには。
何事も無かったかのように魔女が巨大なヴァイオリンを携え―

「いったぁ~・・・・・・いきなりぶっ放すからびっくりしちゃった」
「じゃ、反撃開始と行きますか」

邪悪に笑った。
駿足。
黒豹のように地を駆け跳躍。空を裂き、重量を感じさせずに肉薄。
ブラックスミス、応戦。巨剣が轟音を奏で、地を断絶せんとばかりに振り下ろされる。

―ガキンッ!

空中で耳を劈くほどの不協和音が響き渡る。
じりじりと火花を上げ、均衡する巨剣と提琴。・・・・・・力の限り振り切ったそれを、受け止められた。ブラックスミスは怪訝する。
(―おかしい。この細身の体の何処からこんな膂力が弾き出されている)

恐らくは先程の詠唱の際、一瞬だけ形を見せた契約対象の能力―そう考えるのが自然か。
苛烈な鍔迫り合いの後、反動と共に魔女が宙に投げ出され、廃工廠の二階窓枠付近に軽快に着地した。
月光に映し出されて、その全貌が明らかになる。

―魔女の背中からは、大天使の羽根のように―6挺のヴァイオリンが、円を描く軌道で宙を漂っていた。
―まるで、魔女を守るかのように。

(先程ミラージュを完全相殺したのは、アレか)

【・・・・・・変わった契約対象だな。それも―恐ろしく硬い】

「これが私のパートナー・・・・・・『オーケストラ』。94人編成の大部隊―いや、大舞台かな。
『音』と『管制』を司る、音楽への執念と常識を逸脱する統率力が生み出した魔力思念統合体。
自慢じゃないけど、そんじょそこらの悪魔よりはずっと錬度は高いわよ?」

なるほど、百鬼夜行の如き魔界楽団というわけか。
ひとつの音色のもとに集中された意識は、確かにどんな集団よりも正確に統轄され、行動を御せる。
強力な結束力は判断の際より速く動き、攻めに置いて重く、守りに置いても硬く―あらゆる局面に瞬時対応できる。
・・・・・・厄介な相手だ。
視るに限り今姿を具現化されているものはほんの一握りにしか過ぎないらしいが・・・・・・それ故に動きは俊敏で、迅速である。
まるで肉食獣のように提弦たちは各々の牙を迫り出し、首なし騎士のもとへと向いて威嚇した。その姿は、魔女の背に大きな顎(あぎと)が現れたかのようでもあった。

【見た目に違う馬鹿力の要因もそれとみた】

「まぁ、目の付けどころは間違ってはいないわ・・・・・・でも貴方はそれを解き明かせない」
「此処で死ぬから」
発破。第二波開始。
再び月影に紛れ、闇と同化する疾風。
金色の鬣を視界に映すことの無いほどの高速でそれは地を疾駆し、再びギロチンが月明かりを反射させ不敵に閃いた。
夜光をぎらつかせ、静寂を切り裂いて―・・・・・・一閃。

―刃が通ったのは、虚空だった。
首なし騎士は即座に殺気の方角を悟り、紙一重のところで後退する。

【・・・・・・面白い、やってみるがいい!】

―大きく相手は得物を振り切った。時の利は此方にある。
文字通り全霊を集中させ、巨剣を地に突き立てる。
念ずるは、地より聳え立つ直剣の想像。強烈な思念を礎とし、具現化し、一念の元突き刺す。
【フォラス・フォルネウス。アスモデウス・ガープ・フールフール。我が魂を分けた剣たちよ、地獄から這い出よ】

呪詛が詠唱され、突如襲う震撼。
無数の、鋭い白蝋の群が地面を抉り裂き肉薄する。

―まずい。

即座に反転、振り切った超重量のギロチンを地に叩きつけ、反動で飛翔。
慈悲の欠片も無く殺到してくるそれから逃れるように―そして同時に、目標物目掛け接敵―
遠心力と重量を最大限に生かし、乾竹割を仕掛ける。

「砕けろっ!」
【無駄だ】

十字を描くように―激突。双度鍔競り合い。剣の筋に逆らうようにギロチンの分厚い刃を思い切りぶつけたというのに、一向に折れる気配が無い。流石は悪魔の鍛冶職人が手掛けただけはある、破壊するのは至難の業だ。
空中で見事に受け止められたそれを見魔女は顔をしかめた。
【正面から三度とは、愚直だな】
「面倒はさっさと終わらせるに限る」
【・・・・・・そうもいってられないのではないか?】



ザシュン。




不穏な言葉―同時に訪れる、鈍い激痛。
トマトを打ち砕いたかのように、赤い液体が迸る。
後ろを振り向かずとも、何が起きたかは理解できた。

―地面から真っすぐに突き伸ばされた白銀が、右肩と左足を射ぬいている。
氷解した瞬間、溜めこまれたかのように痛覚に波が押し寄せる。

「・・・・・・・・・・・・っあ!!」
ぐん、と容赦なく剣戟がまた上を目指し傷口を深く抉る。剣は串刺した魔女の身体を早贄のように持ち上げる。
【いかに魔女といえど、死角から迫る我が刃は防ぎきれぬ・・・・・・か。
もう良い。これ以上苦しむことも無いだろう】

「・・・・・・ちょっとばかり、抜かった、わ・・・・・・っ」

静かに月光に翳される巨剣。
鈍く光る巨大な白銀が、断罪の時をそっと告げた。

【・・・・・・お別れだ】

月明かりを貫いて、振り下ろされる兇刃。その陰の下で―
「・・・・・・かかった」

魔女は不敵に、狂気に奔った目をぎらつかせ、そう嘯いたまま―





    グシャッ。




骨の砕け、肉の拉げる異音。
一太刀の元に叩き伏せられ、粉々になった。

飛び散った四肢から赤い雫が雨のように降りしきる。鉄の鼻を衝く匂いが、辺りに立ち込める。
魔女は死んだ。
この手で。完膚なきまでに打ち砕いてやった。



首なし騎士は刹那の恍惚に今は亡き眼を―否、何処にあるか分からぬそれを細め、勝利の余韻を噛みしめる。

【・・・・・・・・・・・・眠れ!】

そう言い放ち、剣を振り戻したその時―

異変は起きた。

一瞬のブラックアウト。視界を埋め尽くす暗転。
一陣の黒が―羽ばたきの音と共に駆け抜けていった。


ほぼ同時に迸る得体の知れない感覚―そう、これはまるで―とうに忘れた昔の感覚。



―――これは痛みだ。
一瞬の躊躇の後に、首なし騎士はそれがなんたるかを思い出した。

これは、生者にのみ許された危機からの信号。
肉体の終焉を暗示させる、死神の靴音。
自分が長らく忘れ去られていた―恐怖、それそのもの。

焼け付くような激痛が、左肩に津波のように押し寄せる。
おかしい。
既に死して失った身体、魔力の集合体のみが鎧を動かすこれに、一体何が痛みを流しこめるというのか。

一瞬の間。
宙を舞う「刎ね飛ばされた左腕」が落下し、静寂を突き破る。

首なし騎士は、自身のまるごと寸断された左肩から噴き出る、煙のような魔力体の向こうに―牙を見た。

白銀にぎらつく、狂気の魔刃を。
その向こうで血飛沫に頬を染めながら、楽しそうに笑う魔女を。

身体の半分を漆黒の羽ばたき―カラスの群れに化けさせ、徐々に集うそれらが再び輪郭を為していく。

(変わり身か・・・・・・!)

吹き飛ばされた左腕を回収しようと思念体を伸ばそうとすると、すかさず抜き撃ち。
空洞になった左肩に撃ちこまれた何かが炸裂し、大量の文呪を吹いて四散する。
まるで蓋を閉じられたかのような閉塞感。この息苦しい程の白さ、徹底した漂白と浮かび上がる楔文字は・・・・・・神界文字か。

(・・・・・・再生できぬ。反魔法でもかけられたか・・・・・・)

此方の焦燥を知ってか知らずか、いや恐らくは知ってわざとやっているのだろう。
彼女は無気力そうに未だ硝煙を吐く銃口を降ろし、何事もなかったかのように宣告した。

「腕一本、これでイーブン」
【・・・・・・どうやらそのお化け剃刀、ただの業物ではないらしいな】
「あんたら化け物専用の特注品よ」




鋼鉄の実体のみではなく、魂と魔力を寸断し痛みですら死した魂に伝達させる破魔の剃刀といったところか。
そこらのなまくら鍛冶職人に打てる代物ではない。
魔女に魔刃、考えうる限り最悪の組み合わせ。だが、不思議と恐怖や嫌悪といった感情は湧いてこなかった。

(この魔女なら、或いは・・・・・・)
そこまで考えたところで、首なし騎士は思考を停止する。

いや、止そう。もはや地獄を堕ち抜く覚悟は出来ている。鬼ともなろう。
今さら、何処に引き返すというのか。
既に救いの時は失われた。都合のいい救済など、もはや何の意味もなさぬ。
今この瞬間を、生死の境で充実を味わうことが・・・・・・我に赦された唯一の「解放」。

今この時だけは、否この先にこそあらゆる束縛から解放される終焉がある・・・・・・そんな気がするのだ。

【カーライア、とか言ったな】
「・・・・・・・・・・・・」
【少々見くびっていたようだ・・・・・・次の一撃で必ずや、その息の根を止めてみせよう】
「・・・・・・やっと本腰入れてくれるってわけ。ちょっと腹が立つけど・・・・・・まぁいいや。私も面倒は好かない、そろそろ終わらせましょうか」
【もうひとつ】
「何?」
【できるならば、生きているうちに会いたかったものだ・・・・・・此れほど死合を面白いと感じたことはないよ】
「あら・・・・・・。折角のお誘いだけど、でも残念ね」











「地獄のお友達ならもう足りてるもの」















・・・・・・腕一本吹き飛ばしたというのに、随分と静かだ。
或いは、手負いの獅子の気迫という奴か。どの道迂闊に近づくことは危険そうなので、一旦後ろに飛びずさり様子を見る。土ぼこりを蹴った踵から煙が上がる。

―ぎり、と肩に開けられた風穴が痺れた。
血は出し切ったとはいえ、思ったよりもダメージは深刻らしい。かっぽりと空いた風穴に空気が沁みて痛覚をぎりぎりと締め上げる。
幾ら「オーケストラ」による音波作用で器官系に自己暗示を仕掛け、身体能力を極限まで引き延ばしても肝心の身体が死んでいるのでは話にならない。魔力は傷の修復に多少裂いてしまったし、何より目標を完全に消滅させるにはある程度の量が必要だ。
・・・・・・時間が無い。
余力を鑑みるに全力で叩き込めるのはよくて二発、悪くて一発、か。

ヘッドホンに声が響く。彼にしては珍しく焦ったような、余裕のない真っすぐな声。いつもの平淡な面はどこに行ったのやら。らしくないにも程がある。

『・・・・・・カーラ!無事か!?』
「肩に一発、足に一発。正直ちょっとキツい・・・・・・あんまり長引かせてはくれなそうね」
『お互い次が勝負だな・・・・・・』
「なーに、ヤバいのは今に始まったことじゃないわよ」

そう。別に死にかけるのは珍しいことじゃない。魔界はいつでも弱肉強食、勝った奴だけが生き残る。そして私は負けるつもりなど微塵もありはしない。
どんなにボロボロになろうが今日も生きて帰って、白い羽毛布団の中で不貞寝してやる。

『・・・・・・そうだな。お前が馬鹿みたいにタフなことはよく知ってる。尤も殺したって死なないか』
彼はそう呟いて、冷静さを取り戻したようだった。極短い息を漏らしたと思うと、いつも通りの声でオペレートを続ける。
『さて、どう切り崩すつもりなんだ?外殻は鍛冶職人謹製の大鎧、物理的な打撃は無力に等しい。
かといってお前は大魔法で一気に畳む様子も無い・・・・・・さては温存しているのか』

先程は鎧の間隙、脇の辺りを縫って左腕を寸断したが、二度目はなさそうだ。
相手は片腕でも十二分な威力が出せる上に、幻影剣―ミラージュの群れが周囲を漂っている。
その矛先は決して洗練されてはいないものの、荒削り故に魔力調整が利いておらず只管に鋭い。直撃すれば今度こそタダでは済まないだろう。
あの包囲網を掻い潜って死角を衝くのは困難か。となれば―・・・・・・

「ひとつだけ空いてる場所があるわ」
『・・・・・・まさか』

真正面、頭部の空洞。それしかない。

本来鎧とは外界からの攻撃を通さぬために存在するもの。其処には最小限の隙しか存在しない。だが、今対峙している敵は「首から上」が無く、あったはずの兜が抜け落ちていて、そこからは暗闇だけが広がっているのだ。唯一丸出しのそこに何らかの衝撃を叩き込めば、或いは一撃で追い込めるかもしれない。

『・・・・・・正気か?』
「今まで私が正気だったこと、一度足りとてあった?」
『それもそうだな』
「それにね、面倒事はさっさと終わらせたいタチなのよ。こいつをとっとと地獄送りに出来るなら脚や腕の一本なんて安い安い」
『やはり正気ではなかったな・・・・・・まぁなんだ、生きて帰ってくればそれでいい。死ぬな』
「りょーかい」

半ば呆れたように納得してくれると、軽口混じりにGOサインを出してくれる。彼らしい思いやりなのかどうか知らないが、「死ぬな」というところはきっちり守って帰るつもりだ。

「オーケストラ」、展開。魔力を注ぎこみ錬度を高めて、具現化体を空気中に再度配置する。ヴァイオリン、ヴィエラ、チェロを第一層に。ハープ、フルート、コールアングレ、オーボエ、コントラバスをその周囲に。パーカッション、コントラバスを左右に。・・・・・・今度は少数精鋭ではなく物量で攻める。
召喚された楽器達はふわふわと宙を交差した後、背中に回り込み薔薇の花びらのように円を描き、それぞれ軌跡を描き始めた。

・・・・・・此処からが勝負だ。

「さぁて・・・・・・グランドフィナーレと洒落込みましょうか?覚悟はいいかしら?」
【重圧な魔力係数、気迫。どうやら次が正真正銘、最後の一撃らしいな】
「お互いにね」
【違いない】

じりじりとにじり寄る。互いに距離は射程の外。無言の緊張が空間に走る。
・・・・・・僅かに、ミラージュが動いた。
【・・・・・・貫け】
殺到する無数のミラージュ。間隙を縫い、あるものは左右に誘導し外れさせあるものはギロチンで弾き落としていく。
距離、3m、至近。跳躍。
地面より高速で乱立する針の山を掻い潜り、空中に躍り出る。

【・・・・・・堕ちろ!】

振り下ろされる巨剣。オーケストラ、展開。
チェロの群れが行く手を塞ぐようにがっぷり四つに組、堅固なスクラムを立ち上げる。
「残念」
【ええい、小賢しいわ!】
刃が漸く通る頃には、もう姿はない。カラスに変化し四散、後方で再構築。死角からギロチンを振りあげる。
「もらったぁ!」



ズン。

重い衝撃がピリピリと腕に伝わる。だが、手応えが無い。何かに封じられた―・・・・・・?
見れば、ギロチンの武骨な刃を大盾が防いでいる。幻影剣と同じく黒い結晶のような、巨大な盾。「ミラージュ」を防護に回したか。

【つくづく油断の出来ぬ女よ】
「ちっ、小賢しいのはどっちだか」
盾を蹴り飛ばし反転した時、ちくりと肩に違和感を覚えた。
全力を投じてはいないが、徐々に肉体の限界は近づいてきている。流石に身体に貫通弾二発も捻じ込まれては持つものも持たない、時間との勝負だ。
タイムリミットが過ぎればギロチンを握っているのすら困難になるだろう。

【もう隠さずとも良い、結構な無理をしているのだろう?その手に持っている得物を捨て眼を閉じていれば、痛む間もなく終わらせてやるというのに】
「黙れ。死ぬ時はふかふかのベッドでって決めてる」
【・・・・・・難儀なものだな。魔女というのは】
咄嗟に声を荒げてはみたが、悔しいことに図星だ。ボロボロの肉体を魔力だけで支えているのは事実。
だが、それでも死ぬつもりはさらさらない。

疾駆。全力を賭して地を蹴る。
再配置。一本道のように楽器達を浮遊させ、それぞれを足場にして飛翔。
十分な高度を取ったところでバック転。月明かりの元に背を逸らせ、死角からギロチンを叩き落とす。
「オーケストラ!」
二度目の命令を出し、配置された楽器達を一斉に首なし騎士の元へ肉薄させる。研ぎ澄まされた魔力の塊は変異し、槍のように先を尖らせる。
物理的な打撃でない以上鎧があろうとダメージは見込める。上から一撃、周囲から無数の連弾。このままハリネズミにしてやる。

「砕けろぉおおお!!」
【あくまで抗うつもりか。いいだろうせめてもの慈悲、次で仕舞にしてやろう】

迎撃せんとばかりに巨剣を振りあげ、串刺しにする構えを取る首なし騎士。

高速落下する鋼鉄の刃。
呼応するかの如く、上空から殺到する魔槍群。
四方八面全てを覆い尽くす針山が、轟天のように唸りを上げて。空を裂いて。








着弾。
同時に舞い散る血煙と土埃が、死闘の終焉を暗示する。



文字通り針山と化し、ありとあらゆる個所を貫通した魔槍の残滓を残したまま。
首なし騎士は勝利の鬨を上げんとばかりに、獲物の刺さった巨剣を振りかざした。















「あー・・・・・・」
意識が今にも吹っ飛びそうだ。むしろ、いっそ吹っ飛んでくれた方が楽でいいかもしれない。なにしろ脇腹辺りにバカでかい剣先が過たず突き刺さって、50cm程抉られているのだ。
物凄く痛い。死ぬほど痛い。意識なんてないほうがいいと思えるくらいにずきずきする。
「ぐっ」
ごぱ、と臓腑が潰えたのか口から鮮血が溢れだす。臭い―鉄と人体の入り混じった匂い。嗅ぎ慣れたけれど、もう二度と嗅ぎたいとは思えないそれ。
今日も大けが、か・・・・・・どうやら私には血とは縁遠い暮らしはできないらしい。
向こうは此方にまだ意識があるのに驚いたのか、感嘆の声を上げる。
【・・・・・・まだ生きているか】
「生憎とちょっとやそっとじゃ死ねるような身体じゃないの」
【此処まで来ると憐れみさえ覚えるな。死に体を引き摺ってなお生きるか、それはこの上なく哀しいことだ】

乱暴に巨剣を振りまわし、腹部から引っこ抜くと同時に身体を吹き飛ばす。自分の裂けたはらわたから血肉とそれよりも生々しいものが噴出しながら、ごろごろと薄汚い工廠の隅へと投げ飛ばされるのが見えた。

【これで終わらせてやる】
苦虫を潰したように掠れた音声でそう告げると、武骨な鉄の塊を再度振りおろそうと―




―唐突に、その刃が空中でぴたりと停止した。

【・・・・・・貴様、得物はどうした】
「やるんじゃなかったの?さっさと仕留めないと取り返しのつかないことになるかもよ?」
【・・・・・・得物を何処にやったと、聞いている!】
乱れた。
それは一瞬の不穏。大気中の魔力が膨張し、震撼している。
彼は勝利を目前にしながらも、何処か焦っているようだった。当たり前だ、「一番気を付けなくてはいけないもの」を今、目の前からロストしてしまっているのだから。
だけど・・・・・・

ぴしぴしと、卵の殻が割れるような音が何処からか響いてくる。ようやく「自分が何をされたのか」気付いたらしい。
【まさか、貴様―・・・・・・!】
一瞬遅れて鎧に亀裂が入る。僅かずつではあるが、その堅固で巨大な外装に傷がひとつ、またひとつ刻まれていく。
頭部の空洞に投げ込まれたギロチン―ヴィオール・ヴィエラには、ありったけの魔力が込められていた。それを今、内部で炸裂させ召喚、内側の柔い魔力体ごと壊死させるわけだ。
さしもの大鎧を持ってしても、中から魔力フルスロットルで出力したオーケストラに喰い破られてはひとたまりもない。押して駄目なら引いてみよ、外が駄目なら中部から、ってね。
「やっと気がついた?でも―」




「もう遅い」



【ぬぁあああああああああアアあぁあ!】

パァン。

断末魔。
バラバラに打ち砕かれ、引き裂かれる白銀。
血糊と霊素の入り混じった爆風。
そう、まるで花火が弾けるかのように綺麗な音を立てて、白銀の鎧は空中で四散した。
悪魔に魂を売った鍛冶師は二度死ぬ。いや、死ぬとはちょっと違うかもしれない。
今度は・・・・・・寸分も違わず地獄送りだ。


鎧を粉々に引き裂いて這い出てきたオーケストラがそれぞれ結合し、竜のような、鮫のような形をして空に昇っていく。
その頭部―グランドピアノに牙が生えた様なそれの顎(あぎと)には、彼の愛剣、槍のような巨大な刃「アネクメネ」が咥えられていた。
【・・・・・・見事だ魔女。まさか文字通り肉を斬らせて骨を断つとは・・・・・・な。このブラックスミス、少々抜かったようだ】
戦闘中は気が付かなかったが、驚いたことにそいつから声は発せられていた。成程、剣は身体の一部ではなく、既に本体と入れ替わっていたということか。
先程粉砕したのは契約相手の「デュラハーン」の方。まったく、区別がつかないほどに融合されている。道理で気付く由も無い。

「本体がそっちとはね。気が付かなかったわ」

そう此方が呟くと、彼はけらけらと笑った。何処とも知れない口から笑っているはずなのに、何処か哀しそうで、寂しそうでもあった。

【もはやこの世にも、身体にも未練などなかったのだよ。あるとすれば・・・・・・そうだな、私が残した作品たち。それだけだ】

「それが今回の引き金?」

【さぁな・・・・・・ともかく、要因の一つであることは確かであろう。だがいざ起きてみれば、何もかも変ってしまった。敵国もいない、王も、況してや工房も・・・・・・】

「・・・・・・・・・・・・」

【なぁ、魔女。私に価値はあるのだろうか?こんな世界に、私を必要とする者は・・・・・・いや、問わずとも分かっている。分かっているのだ・・・・・・】

「なに?今さら命乞い?散々暴れ散らしておいて。自己弁護も大概にすることね。・・・・・・ただ、悔やんでも悔やみきれない奴なんてそこらじゅうにいる。
自分だけとは思わないで。私だって、自分に価値があるかどうかなんてわかったことないわよ」

吐き捨てるように、何とも思ってもいないのに。私は何故かそうつけ足した。
彼の言う価値とは何なのだろう。
きっとそれはとうに失われた―考えても仕方の無いことかもしれない。
彼にとっては、素晴らしい剣と盾を作ることが存在意義だった。そして運悪く―彼の時代にはそれが両方とも、同時に失われた。
しかし、人の存在意義、価値とはそれだけで簡単に変わってしまうものだろうか?
魔女だって、一度は疎とまれたのだ。何人も何百人も、下らない誤解で殺された。今でも畏怖の対象には違いない。
それでも私は、自分に価値が無くなったとは思っていない。

「価値なんて言うのは―
・・・・・・自分で作り上げていくものじゃないかしら。悩んで悩んで、見つからなかったとしても。きっと何処かの誰かがほいと唐突にくれるものではないと、私は思うよ」
【・・・・・・ありがとう】
「バカ、礼言われる程のものじゃないわよ」

・・・・・・その言葉から急に、剣から魔力反応が遠ざかって往った。
別れの時は、刻一刻と近づきつつある。
「ちっ。そのまま噛み砕いてやろうと思ったのに。そのまま往生する気?」
【らしい・・・・・・な。どうやらもう長くは現世に居れないらしい。冥府の審判者が呼んでおるわ】
「ふふ、どの道地獄送りじゃない」
【ふん、それもそうだ】

【カーライア】
「カーラでいいわ」
【ではカーラ。この剣、棺桶ならぬ地獄まで持っていくつもりであったが、少々気が変わった】
「へぇ」
【貴様が持っていてくれ】
「・・・・・・私が?こんなバカでかい剣を?あんたの墓標にでも突き刺してやろうと考えてたところだったのに」

そこまで彼は言うと、アネクメネはオーケストラの顎から滑り抜け、コンクリートの地面へと突き刺さった。
私の身長より一回りもあるそれが、目の前にそびえたっている。

【貴様の膂力なら問題あるまい。それに、コンチェルト家といえば魔道武具の名家・・・・・・加工に使ってくれても構わん】
「知ってたんだ・・・・・・」
【そうか、大昔から変わっていないのだな】

彼の見て来た300年前から、コンチェルト家は変わっていない様だった。
言葉通り魔道武具の専門というのは間違ってはいない。実家に帰れば何らかの活用は模索出来るであろう。
徐々に、「彼」が薄くなってきた。魂が完全に消滅しつつあるようだ。

【価値・・・・・・生きている間は失ってしまったが。
この剣が・・・・・・貴様の糧とならば、我にもまだ価値があると、そう思える気がする】
「押しかけ鍛冶屋ね。まぁいいわ、有り難く貰っとく・・・・・・」

出血は完全に止まった。なんと頑丈な身体なことか・・・・・・我ながらに呆れるが、ともあれ力一杯に巨剣を握りしめ、一息の元引き抜く。
その余りの重量に振り回されそうになるも、なんとか持って振るうことくらいは出来そうだ。
白銀の刀身は何処までも真っすぐで、壁のように聳え立ち、金剛石のように切り揃えられていた。

【・・・・・・さらばだ、カーラ。地獄で再び見えんことを】
「縁起でもないこというんじゃないわよ」


すぅ・・・・・・と、最後の魂の灯火がうっすらと消えていった。




辺りを、本当に何事もなかったかのように静寂が包んだ。
「・・・・・・ったく、あんだけ世話掛けといて何がありがとう、なのかね。男ってバカばっかり」

愚痴っていても仕方が無い。それより傷をなるべく早めに手当てしたい・・・・・・といっても、余りに再生力に長けているため別に手当てせずにこのまま寝てしまっても問題はなさそうなのだが。

「お見事にございます、カーラお嬢様」

ふと聞き知った声が飛んできた。誰もいない筈の、剣戟でボロボロに砕けた工廠の中から。
声の主は空間に魔法陣で丸い空洞を作ると、そこからにょきっと這い出てきた。
長い髭と眉で顔の全貌が捉えられない彼。年の頃は・・・・・・見かけ上は70前後であるが、ただ魔道士なので全く当てにならない。誰であろうベルン爺だ。
「そのお嬢様、っての何とかならないの?もういい年よ?」
「私にしてみれば20を超えようともお嬢様はお嬢様でございます。以前はお嬢様と申す度に『ベルン爺また小言―?』と可憐に振り向いてくれましたものを・・・・・・うっうっ」
「あーもう浸るな、泣くな!まったくこんのジジイは・・・・・・」
年よりはすぐ昔話に想いを馳せて咽び泣く。もうお嬢様なんてかわいいもんじゃないという事実から目をそらすな、ジジイ。
ともあれ、矢張り出てきたからには何か理由があるはずだ。
「で、どうして出てきたの?」
「ノスフェラトゥ・ブラックスミス及び契約対象のデュラハーン殲滅を確認しました。証左は・・・・・・この鎧でいいですかね。
王でさえ梃子摺った挙句始末のできなかった大魔道騎士・・・・・・今回の働きには閻魔様もさぞお喜びでしょう・・・・・・お問い合わせ次第、御商談の連絡を致します」

どうやら死闘の様子を一部始終監視していたらしい。それでも絶対に手助けなどはしない。
「私はお嬢様の勝利を信じております故。主の試練の邪魔になってはいかがなものかと思い」
この通りだ。こういうことに関しては無頓着である、流石歴戦の魔道士(ウィザード)。

「今回はけっこーヤバかったけどね」
「堅牢さと再生能力に長けたコンチェルト家のお人が剣のひと刺しふた刺しでくたばりますまい。ましてや北帝戦争で対戦車推進弾が直撃なさったお方が、どの御口でそんなことをおっしゃるやら・・・・・・」
「あのときは半身吹っ飛んで全治2カ月だったわよ」

そういうのは特例というのだ。マジで死にかけた例を上げてもキリが無い。
しかし彼はそんなことを気にも止めず、鎧の残骸を集めて空洞に投げ込み始めた。
ある程度片付けられたと思われると、再び空間の穴に消えていく。

片腕だけ出しながら、手を振ると意味深なことを呟いていった。
「ああ、そうでした。リディア様が近々様子を見に来るようで。・・・・・・年を取ると忘れっぽくていけませんな」
「はぁ!?? 姉さんが!?」

空洞の中から両手と頭だけをひょいと出して、覗きこむようにベルン爺は付け加える。
姉さんだと?冗談じゃない。完璧人間に私のぐうたらで平和な日常を荒らされてたまるか。そりゃ必死にもなる。
彼女は自分だけじゃ飽き足らず他人にまで完璧を求める、悪魔より厄介な女だ。



「『どうせ自堕落に生活していることだろうから矯正してやる』だそうです。さしものお嬢様とはいえ、姉上殿は恐ろしいと見える」
「どーせ私は不出来な次女ですよーだ。魔女のくせにエリート街道まっしぐらの姉さんの方が絶対おかしい。自分の基準で人の出来を比べるな、馬鹿姉」

ベルン爺は「ははは」と楽しそうに笑ったが、実際に接するこっちの身になってもらいたいものだ。どうせ窓の端を指でなぞって埃がたまってるとか重箱の隅をドリルで抉るような小言を言いだすのは目に見えている。今から立ち眩みがする。

「おっと、失血が酷いようですな。此処である程度の修繕をしておきますか?」
「いいわよ、失血分の再生なら自分でできる。臓器や内部損傷は・・・・・・まぁ日日経てばなんとかなるでしょう」

さっと腕を振り、魔力を散布。飛び散った血液のまだ固まっていない部分を抽出して、空気中で赤黒い球体にしてから身体の中に吸収させる。
皮肉にも胴体にぽっかりと風穴が空いているので、其処からは早かった。後はいいものをしっかり喰らって、快方に向かわせるだけ。我ながら単純な身体だ。
ベルン爺は悩みの種が消えたからか、にこやかな面をして空洞の中に消えていった。



そっと影ごと消失する彼を見送ると、遠くの方で車の音がした。
錆びついた廃工廠内を剣呑にも猛スピードで此方に向かってくる。
私の目の前をオンボロ車でドリフトしながらも急停車すると、息を切らしながらも降車して駆けよって来た。心配し過ぎだ。
「・・・・・・終わっていたか!」
「こんなに汗だくになるまで心配されるなんて、私も捨てたもんじゃないわね」
「何言ってやがる、そんなことより傷は大丈夫なのか!?血塗れじゃねぇか!」
「見ての通り右肩左足に貫通、あと脇腹にでっかいのが一発」
「・・・・・・救急車呼ぶぞ!」

そういって手を掴んで引っ張ろうとする。千切れる、千切れるっつうの。
我が身の様に心配してくれるのは有り難いが、平静を保っても重傷は重傷だ。もう少し丁重に扱って頂きたい。

「これで生きてる奴なんか医者だって施しようが無いっての。 それよりどっかいって休も、お話は食事でもしながら聞くわ」
「・・・・・・タフすぎるのも困りものだな」

命に別状がないことを察したのか、彼はほっと一息をついて暫く立ちどまり何かを考えている。
煙草の火が半ばまで達する頃には助手席の扉を開け、着席を促した。

「おら、俺んちで良ければ行くぞ」
「あら・・・・・・いいの?」
彼の家と行ったら、今時ごろ娘は寝静まり奥さん―エレノアさんが夜食の用意をして待っていることだろう。
そんなところに魔女一人、血だらけでお邪魔するのはどうにも平穏とは言い難い。
しかし、彼は何ともなくそれを否定した。
「何言ってんだよ。お前さんの正体なんざとうにバレてんだ。仕事任せっ切りでも悪いから飯くらい食っとけ、俺のけじめだ」
「それもそうね・・・・・・じゃ、お言葉に甘えて」



オンボロの乗用車が走りだす。血だらけの魔女と、脂臭い警部の奇妙な二人組を乗せて。
緊張の糸がほどけたのか、余程心身に疲労がたまっていたのか・・・・・・先程十二分と寝た筈なのに、気が付いたらまどろみの中を停車する車の衝撃で叩き起こされた。










「あら」

第一声。とある灰色のマンションの一角。
特に驚いた様子も無く、エレノアさんは極丁寧に家の中に上げてくれた。
藍掛かった、ゆったりとした長髪の彼女。おっとり構えた姿は、シュナイダー警部の斜に構えたそれとは正反対のようで、何処か似通っている部分もある。こんな彼女だからこそ、意外と剣呑な警部とはうまくやっていけるのであろう。
足元を小さな女の子が駆けてくる。

「風呂使うぞ、エレノア」
「どうぞ。一番風呂ですよー」
「いちばんぶろー」
「・・・・・・すまねぇ、あっという間に真っ赤になる・・・・・・ってカヤ!?起きてんのかよ!」
「パパ帰ってくるの待ってたんだよねー」
「ねー」
「・・・・・・ちっ、明日寝坊してもしらねーぞ」
「ふふ、明日は休みです。残念でした」
「ったく」

いつも通り展開される、団欒。その中で私だけが異物の様にかしこまっている。
やっぱり来ていいもんじゃないな、人の幸せに立ち行っていい存在ではないんだと改めて思い直そうとしたときに、エレノアさんのほうから声をかけてきた。
いつも通り、屈託の無い笑みを浮かべて。
「どうしたんですか」
「・・・・・・あ、いや、お邪魔して良かったのかと・・・・・・」
「何を言っているんですか。何度かお会いもしていますが、こうやって面と向かうのははじめてですね。夫から話はかねがね聞かせてもらっています。何もありませんが、どうぞ上がってくださいまし」
「ええと、信じてるんですか・・・・・・?」
「まじょのおねーちゃん!」
「夫の命の恩人なのでしょう?真剣に話されては疑るわけにもいきませんから」
「パパ、たすけてくれてありがとうね!」
「あ・・・・・・うん・・・・・・どういたしまして」

目の前にあるのは、なんの変哲もない「無垢な笑顔」―
それが、とても温かいものの様に思えた。
何年も、私とは縁遠いものとばっかりに思っていたのが、目の前にただある。
―少し、信じられなかった。

・・・・・・汚いな、私は。



真顔で家族に「魔女に助けられた」なんて話したのか。
案の定シュナイダー警部の方を見ると、恥ずかしそうにそっぽを向いて誤魔化さんとばかりに声を上げた。

「おら、入るならさっさと入れ」
「一番風呂ですよー」
「いちばんぶろだよー!」

今はその素朴な優しさが、傷に沁みた。

全部洗い流そう。
血も、埃も。今にも頬を伝って、溢れそうなこれも。










風呂を上がって出てくる頃には、暖かいミネストローネにパスタが一杯浮かんでいるものが運ばれてくるところだった。
トマトのいい香りが此方にまで漂ってくる。
私に用意された席の向こう側には、警部が相変わらずひねくれた面でスープを啜っていた。

「結果から聞きましょうか」
「ああ?・・・・・・ノスフェラトゥのことか」

彼はどうにも娑婆に出れたのはごく最近の様だった。となれば、封印術式の施してあったオベリスクに何らかの異変があるとみた方が自然だ。
子供の前で仕事の話をするのはなんだかなーと少し渋ったが、彼はやがていつもの「警部の顔」に戻る。

「オベリスクの、一角に損傷が出ていた。そしてその中の―ヤツを縛っていた愛剣のうち数本が、盗まれていた」
「ノスフェラトゥの思念を縛りつけ、封印の楔として機能していた刀剣が盗難されたことにより、封印が一層弱体化した、というわけね」
「そういうことらしいな」

「誰がやったのか、それとも偶然そうなったのかは分からん。ただ、盗まれた刀剣は全部で7本。そして昨日殺されたガイシャの家からは・・・・・・そのうちの一本。
『フールフール』と銘打たれたものが見つかった」

フールフールとは、悪魔学におけるソロモン72柱のうちの序列34番。26の悪魔軍を率いる大伯爵の名だ。
大鹿に悪魔の羽根を生やし、しわがれた声で、雷と嵐を操るとされている。

そして何よりも特筆すべきことが、命ぜられればあらゆる秘密に対する答えを導き男女の仲を引き起こす悪魔でもあるということだ。

「んで、どうやらガイシャは墓荒らし、それも古代遺物専門の常習だったらしい。どーりで足辿っても調べが付かんわけだ、プロだったんだからな」
「魔の力欲しさの魔剣盗難ね・・・・・・自業自得とも取れるわ」

欲望のままに盗んだニンゲンと、信念のままに殺しをした悪魔。
どっちが悪かったなんて、一概には言えない。
捜査というのはいつだって、多角的に真実を暴きだす。・・・・・・それがどんなに残酷で、救いが無いものだったとしても。

「良く分かったわね」
「他の共犯が出頭してきたんだ、呪いで仲間が死んでビビったんだろうな。当たり前だ、人間祟りで死ぬより実刑の方が楽に決まってる」
「残りの剣はどうしたの?」
「今頃ガラサキの奴とお前さんとこのジジイがオベリスクごと焼いてるだろうよ・・・・・・地獄の業火は鉄も石も関係なく有象無象を灰にするんだとさ。
これで証拠物件は全部闇の中ってわけだ。はっ!今日も記録に残らねぇ、俺は万年警部のままだ
家の中では煙草は吸わないらしく、かわりにパスタを力の限り引き千切った。エレノアさんが笑っている。


ふと走る違和感。ソロモン72柱ということは、剣は全部で72本・・・・・・全てをまとめた魔術書の名が、レメゲトン。
ならば、アネクメネ。あの巨剣は。
「ねぇ・・・・・・剣は72本あったのよね?全部燃やしたのよね?」
「ん?ああ。きっかり72本だったらしいが・・・・・・?それがどうした?」

【貴様が持っていてくれ】
【・・・・・・さらばだ、カーラ。地獄で再び見えんことを】
【価値・・・・・・生きている間は失ってしまったが。この剣が・・・・・・貴様の糧とならば、我にもまだ価値があると、そう思える気がする】


脳内をフラッシュバックする、「彼」の言葉。
   そうか。あの巨剣は・・・・・・他の何でもない。彼自身だったのだ。
アネクメネ。不可侵領域。人の入ることができない、絶対の領域。
自分にそう銘打ち、彼はそこに閉じこもった。「悪魔でも、人間でも無い。自分だけの」73本目の剣だったわけだ。



「・・・・・・どうした?顔色が悪いぞ」
ぼーっとしているように見えたのか、警部が怪訝な顔で覗いてきた。
「・・・・・・何でもない」

地獄で再び見えんこと、か。強ち悪い冗談ではないらしい。
結局どこまで言っても、私は夜の住人。例え今、暖かい食卓の中で団欒に混じっていようと。
何れ悪魔が迎えに来る。

スープを啜り直した。きちんとトマトの味がする。
隣では傷口にカヤが包帯を巻き終わったようだ。
「おねーちゃん!おわったー!」
「・・・・・・ありがとう」

窓の外を見る。
月が相変わらず、妖艶な橙色に光っていた。
いつまでもここに居てはいけない。そんな何処から来たのか分からない暗示に、身体が突き動かされた。席を立つ。

「お、帰んのか」
「あらあら。ゆっくりしていってもいいんですよ」
「生憎と、人の居るところでは寝れないので。ごちそうさまでした」

仕方なさそうに、そう微笑み返すしかなかった。
気が付くと、カヤが裾を掴んで引っ張っている。
「おねーちゃん、まほう見せて!」

少し、ため息が出た。
この小さな少女が思っている程、魔女はかっこいいものではないかもしれない。
もっとどす黒くて、残忍で。忌み嫌われる存在なのかもしれない。

でも、今この瞬間は。
ひとときの夢を見させてあげよう。

「ハリアー!」

リビングの窓がガコン、とひとりでに乱暴に開く。夜風が雪崩のように吹きこんでくる。花瓶から花びらが舞う。
一本のホウキが、タクシーのように窓辺に停滞した。
「まぁ!」
「わ!すごい!」
「ホウキ使うとは、今日の魔女は大盤振る舞いだな」

カタンと靴を鳴らせて、勿論立ち乗り。
ステルスは掛けない。別に見られても構いやしない。私はここに居るのだ。誰に文句が言えるのか。

アフターバーナー、フルスロットル。
穂先の加減で、窓を破壊しないように注意しながら垂直離陸。






これは、一飯の礼。
紫の箒雲を発しながら。
流星の如く夜空を駆け抜けていく。虹を描きながら。


窓辺に乗り出すカヤが見えた。手を振っている。

「あらあら。本当に魔女だったのね、カーラちゃん」
「だから言っただろうが。俄に信じたくはねーがな」
「あら。素敵じゃありませんか。ほら、カヤも」
「バイバイ!おねーちゃん」

「ったく。おら、お子様は寝る時間だぜ。魔女に惑わされんな」
「おねーちゃん、ホントにまじょだったよ!」
「・・・・・・はぁ。かもなぁ」

「なぁエレノア。魔女ってなんだろうな。いい奴なのか?悪い奴なのか?」
「私に聞かれても分かりませんよ。貴方の方が、ずっと詳しい筈ですわ」
「・・・・・・どっちでもいいか」












数分のフライトの後、懐かしの我が家へ。
ガラサキの部屋にハリアーを立て懸けるが、部屋の明かりはついていない。ムシノシラセも飛んでいない。ガラサキも巨大なディスプレイの前で腕を組んで寝ていて、黒メガネがずれている。
「・・・・・・御出迎えもなし。こっちは相変わらず気が利かない事」
まぁ、最初からこんな男だ。ハリアーは大人しく立て懸けるまでもなく部屋の隅に自分で歩いていった。
しかし暗い部屋を歩いていると、机の上に見慣れないガラス瓶と置き手紙が挟まれていた。

[秘蔵のエリクサー(霊薬)だ。患部に適量塗ればほっといても治る。まぁ、不死身に等しいお前には必要の無いものかもしれんが。あと絶対に使い過ぎるなよ、希少なんだ   殻尖]



いや、まだ下の方に小さな文字で何か書かれているようだ。

[・・・・・・取り敢えず、死なないで帰って来たのは褒めてやる。おかえり]

「・・・・・・ったく、不器用な奴。もっと気の利いた渡し方なり、褒め方なりあるでしょうに」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

嫌みの一つ言っても、返事は帰ってこない。

「・・・・・・ただいま!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・ありがとう」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





聴こえたかな?聴こえてないかもな。どちらでもいい。あれが、彼なりの優しさ。ぶっきら棒で、荒削りすぎて、子供っぽい。でも、彼らしい。今度御飯にでも連れて行ってあげようかな。勿論割勘で。
今日もいつも通り暗い自室の扉を開ける。エリクサーを塗りつけ、寝巻に着替えてベッドに転がる。
明日は休みだ。窓の外を見る。



良い月が出ていた。
全てを照らして、見守る綺麗なお月さまが。

無意識のうちに。誰にともなく、呟いた。




「おやすみ」




[Witch and Dullahan Blacksmith] fin

To be continued [file#04]
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  1. 2010/05/05(水) 04:06:43|
  2. 一次創作
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